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第83話 守りたいもの、その向こう側

不穏と不安を乗せた響きは、瞬く間に冷たい空気をもたらした。


「王女様…」

ララを呼ぶサラナの声は緊張をはらんでおり、その口元は震えている。


彼女の呼びかけに静かに頷くと、隣のランゼルへ声をかけた。

「バートンをここへ」


「行ってくる」

ランゼルは一言だけ残すと素早く立ち上がり、扉へと足を向ける。


ララは彼が部屋を出ると、正面のヴァルド夫妻へ向き直り口を開いた。

「先程の続きは、バートンの報告を待ってからにします」


王女の真剣な声に、ヴァルドもサラナもそれ以上何も言わずに、静かに頷く。

祈るように組んだサラナの両手に、ヴァルドが優しく手を添えて彼女と視線を合わせた。


タッタッタッと速いリズムで、近づいてくる足音。

トントントンと、到着を知らせるノックの音。

中の返事を待つ事なく、開いた扉。


振り返ったララの目線の先には、息を切らしたバートンが立っている。

いつになく真剣な表情の彼に、予想通りの事態が訪れたのだと、軽く息をのんだララ。


王女の視線を受けたバートンは、軽く深呼吸すると、よく通る声で告げた。


「南区の繊維工場が襲撃を受けました」


「はっ……‼︎」

息を呑んだ音がして、ララはヴァルド夫妻へと視線を向けた。

彼女の目に映り込んだのは、顔色をなくして小刻みに震えるサラナ。


「サラナさん……」

心配を滲ませるララに、彼女は強張った顔で「大丈夫です」と溢すが、震えは増すばかり。


ヴァルドがサラナを抱き込むように支えて、ララに話しかけた。

「ご心配をおかけして申し訳ありません。サラナは大丈夫ですので、続けてください」


深く頷くと、バートンへ話を振る。

「バートン、犯人はどうなったのかしら?それと、身元も確定したの?」


「はい、犯人はドートル商会の者で間違いありません。

ドートル商会を見張っていた騎士が、しっかり確認したので確かです」


「わかったわ、報告ありがとう」

静かに告げたララは、一度軽く目を閉じると息を吐き出した。


目の前のサラナは、俯き両手で顔を覆う。

彼女は声を上げまいと、必死に嗚咽を押し殺すが、時々呼吸と共に音が漏れる。


サラナを抱きしめながら、口を開いたヴァルド。

「王女様、ドートル侯爵領には何と噂を流したのでしょうか?」


「ドートル侯爵領へは、『王家はヴァルド商会を疑っている』という内容のウワサを流しました」


ララは、ヴァルドの目を見据えて告げた。


「なぜ……」

呟きとも取れるヴァルドの言葉に、ララは続ける。


「元々、私たちは『ヴァルド商会がこの件に関わっている』と言うことに、疑問を持っていました。

なので、あなた方が無関係であることを証明するには、もう一度犯人に動いてもらう必要があったのです」


俯いていたサラナが、すっと顔を上げた。

目の周りも鼻先も真っ赤になったその顔で、必死に王女に視線を向ける。


ララはサラナに語りかけるように、先を続けた。

「『王家からヴァルド商会を守る』という事も、ドートル侯爵の動機の一つだと推測できます。

今動けば、当然ヴァルド商会は王家の監視下で、犯人からは除外されますから」


「あぁ……」

抑えていた嗚咽が、堰を切ったように涙と共に溢れ出したサラナ。

彼女の悲しみは、瞬く間に居間全体へと波及した。


窓辺で大好きな絵本を読んでいたルーベンは、ハッとした顔で母親を呼ぶ。

「おかあさん?」


涙で上手く返事ができないサラナの代わりに、ヴァルドが息子に声をかけるが、ルーベンは絵本を置くと急いで駆け寄ってきた。


心配でたまらない様子の彼は、母親の顔を下から覗き込んで尋ねる。

「おかあさん、また、かなしいの?」


ルーベンの優しい声に、サラナは涙を拭うと顔を上げた。

「心配させてごめんね、ルーベン。

お母さんの大切な人が、悪い事をしたの。

だからお母さん、悲しくなって泣いたのよ」


「わるいことしたら、ちゃんと『ごめんなさい』っていわないと、ダメだよね?」


ルーベンの真っ直ぐな視線に、サラナは目元を緩めて頷く。

「そうね、悪い事したらちゃんと、『ごめんなさい』って言わないといけないわ」


サラナは軽く息を整えて、ララに向き直った。

「王女様、父の罪は決して軽いものではありません。

動機が『ヴァルド商会を守る』ことだったのなら、私も一緒に罰を受けます」


ララは静かに首を振った。

「今回の襲撃は『ヴァルド商会を守る』ことだったと考えられますが、それ以前の『留魔石確保の妨害』や『アルスの襲撃』は他に理由があるような気がするんです。

もし、全ての動機が『ヴァルド商会を守る』ことにあるのなら、他にやりようがあったと思いませんか?」


落ち着いた声色で語るララに、ヴァルドが同意を示す。


「確かに……。

ビスの販路を失うヴァルド商会を心配するのであれば、別の商品の販路を用意する方が現実的だ」


ヴァルドの言葉に、ララが口を添えた。

「ええ、ドートル侯爵のこれまでの功績や性格を考えると、ただ『ヴァルド商会を守る』ことが全てではないような気がするの」


ヴァルドが問う。

「では、この後はどうされるのですか?」


ララの目線はヴァルド夫妻から、隣のランゼルへと向いた。

彼が静かに頷くと、再び正面に向き直り告げる。


「今回の襲撃の事実は公表しますが、『犯人は取り逃した』という事にします」


「なぜ……」

思わず呟いたサラナ。


そんな彼女に優しく微笑むと、ララは言う。

「ドートル侯爵領に視察に向かいます。

直接この目で、今回の理由を確かめようと思います」


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