第79話 浮かび上がる真実のカケラ
沈黙の執務室に響くノックの音---
リーゼルが後ろを振り返り軽く頷くと、宰相バロンは急いで扉へと向かい、ドアノブに手をかけた。
開いた扉から、ロバート大臣、ゴードン大臣、マイク大臣が一礼して入ってくる。
「遅れてしまい、申し訳ありません。
裏がとれましたので、報告に参りました」
そう言ったのは、経済担当のロバート大臣だった。
その言葉に、リーゼルの眉が微かに上がる。
「ご苦労様。今ちょうど、留魔石確保を妨害したのはドートル商会だって説明したところだよ。
とりあえず、大臣達も腰掛けて話をしよう。
その辺から椅子を持ってきて座ってくれる?
あっ、バロン宰相もね」
皆が席についたタイミングで、ララは疑問を投げかけた。
「なぜ、留魔石の販売をドートル商会が阻止することができたのかしら?」
マイク大臣が静かに挙手すると、リーゼルが頷く。
彼は数枚の書類をテーブルに並べた。
そして覇気のない声で説明を始める。
「我が国最大のビス鉱山はドートル侯爵領にあります。ここでの採掘が、国内需要の80%を担っているんです」
続いてロバート大臣が口を開く。
「ドートル侯爵の所有するドートル商会は国内最大手の商会であり、侯爵領で採れたビスを各商会に卸しています。
どうやら今回、『留魔石を王女様達に融通するような事があれば、今後の取引を見直す』と通達を出した事がわかりました」
「なんて事を……」
ジュードのため息混じりの一言に、その当時の苦労が滲み出ていた。
「我々が最初に留魔石の販売を依頼したのが、ドートル商会なんです。
おそらく、この時に“留魔石を使ってエネルギー源変換機を作成する”事を知ったんでしょう。
国内の需要がビスから留魔石に移ることを危惧したんだと思います」とアーロン。
「ビスに比べて留魔石は採掘できる鉱山が多いですから……」
ボソボソと呟くように、マイク大臣が情報を挟んだ。
「ビスはまだエネルギー源の主流なんだから、それを止めるなんて脅し方は狡いよ」
珍しく、怒りを声に乗せたバートンの表情は険しい。
そんなバートンの肩に手を載せ、『落ち着け』言うようにトントンと軽く叩くと、ライオネルは
疑問を口にした。
「それなら、『アルス』襲撃も彼らなのでしょうか」
「確たる証拠はありませんが、犯人の可能性が最も高いのは彼らでしょうな」
断言こそ避けたが、ゴードン大臣の目には確信に近い何かが浮かんでいた。
握りしめたハンカチを額に当て、滲む汗を拭ってから、口を開いた宰相バロン。
「先程、王太子殿下もおっしゃったとおり、ドートル侯爵は責任感が強く、領民やドートル商会の人々からの評価も高い。
なぜ、このような事を……」
答えの見えない困惑が執務室内に漂うと、空気を変えるように手を打ったララ。
「それならヴァルド商会は、今回は関係がなかったという事よね?」
ララの発言に、リーゼルが首を振った。
「それがね、全くの無関係かどうかは、まだわからないんだよ」
「……っえ?
どういう事なの?」
驚きで目を丸くしたララに、リーゼルはゆっくりと話し始めた。
「さっき、ロバート大臣が『裏が取れた』って言ったよね?
それがヴァルド商会の事なんだよ。
直接何かに関わっている証拠があるって訳ではないんだ。
ロバート大臣、説明してくれるかい?」
深く頷いたロバート大臣は、その事実を語る。
「ヴァルド商会は、平民のヴァルドという男性が立ち上げ、規模を拡大してきた事は有名な話です。
ヴァルドには妻サラナ、息子のルーベンがいます。
実はその妻、サラナはドートル侯爵の娘だったんです。
公にはされていませんが、侯爵の反対を押し切って駆け落ちしたようです。
その際に侯爵家とは縁を切られたようなんですが……」
「何かあるの?」
続きを促すララに、ロバート大臣は再び説明を始めた。
「ヴァルド商会は元々、隣国にアルマティアの工芸品を販売して商会を盛り立てていたんですが、五年ほど前に工芸品需要低下に伴って経営危機に陥っていました。
それがサラナ夫人がちょうどルーベンを身籠った時期と重なります」
ロバート大臣はリーゼルに視線を向けると、彼は続けるように促した。
「我々が疑問をもったのが、経営危機に陥ったヴァルド商会がビスの販路を得て盛り返した事です。
アルマティアにビス鉱山を有する領地は、さほど多くはありません。
それがヴァルド商会は、ビス鉱山を所有する貴族から直接買い付ける形でビスを得ているんです」
「確かに、貴族の仲介や、かなり強力な後ろ盾がない者が直接交渉できるとは思えないな」
眉間にしわを寄せ、考えるようにランゼルは言った。
誰もが彼の言葉に同意を示すように頷くと、ロバート大臣は真実を口にする。
「そこで、取引先であるロロア伯爵領へ行き、直接確認を取りました。
ロロア伯爵に交渉したのは、ドートル侯爵本人で間違いありません」
「あっ、繋がった……。ドートル商会とヴァルド商会が……」
バートンの呟きは、重苦しい空気と共に広がっていった。




