第77話 ノルフェリアの友は最強‼︎
「ララ!何かあったんだい?」
王城のエントランスに着くや否や、慌てて駆け寄ってきたリーゼルと、宰相バロン。
『アルス』の工房で取り押さえた不審な男は、ジュード、アーロン、ノーランと共に、すでに騎士団の詰め所へ連行されている。
馬車をランゼルのエスコートで降りたララは、リーゼルに工房での出来事を詳細に伝えた。
ちょうどそこへジュードがやってきて、王太子に礼をとると、男が所持していた皮袋を差し出す。
宰相バロンが前に出てそれを受け取り、中身を確認した。
「この黒い石は……留魔石、ですな」
胡桃大の石をリーゼルに手渡すと、次を探るバロン。
そして手にした真鍮のプレートを見ると、大きく目を見開いた。
「……ぉ、王子、これは!」
「この紋章は、ヴァルド商会……、ここは確か……」
言葉を区切ったリーゼルは、バロンとジュードと視線を交わした。
バロンとジュードは真剣な目でリーゼルに頷き、彼の言わんとする事に、音もなく同意を示す。
ララやランゼルも薄々状況に気づき始めたが、まだ口には出さずに見守っている。
「ララ、この件は一旦、僕に預けてくれないか?」
真っ直ぐにララを捉えたリーゼルの視線には、緊張が漂っていた。
「……はい」
ララの返事の後、間を置くことなくバロンに指示を出すリーゼル。
「バロン宰相、ゴードン大臣、ロバート大臣、マイク大臣を僕の執務室に集めて。それから騎士団に、『アルス』の警護を要請してくれ」
「っは、はい。ただいま」
宰相バロンは額の汗を拭うと、駆け足でその場を離れた。
「ララ、ちょっと厄介な事になるかもしれない……。
僕たちは、この黒幕を突き止める。
ララは、試作品を……、っあ、そうか……。
留魔石はもう残っていないんだったね……」
今後の動きを話すリーゼルは、先程の『アルス』での出来事を思い出して、苦い顔になった。
「あぁ、言い忘れていました!
留魔石なんですが、レーヴァン家にお願いできそうなんです」
ララは後ろのジュリアを振り返ると、視線が合った彼女が大きく頷く。
「レーヴァン家って、ジュリアさんの?」
リーゼルの視線が、ララの後ろに流れた。
少し前に出たジュリアは、綺麗な所作で膝を折る。
それは淑女の鏡とも言える、美しい挨拶。
「はい、我が家の鉱山からゴロゴロ採れる石です。
ぜひお使いください。
婚約者のバートンが大変お世話になっておりますし、彼のタダ飯代……、嫌ですわぁ、飲食代にもなりませんが、どうぞお納めくださいね」
「ジュリア、一瞬、化け猫が逃走しかかったよ」
ニヤニヤしながら、バートンがジュリアに耳打ちする。
「バートンさま、口は災いのもとですわよ!」
斜め後ろから囁くバートンの鳩尾目掛けて、笑顔で右肘を打ち込むジュリア。
「っゔ……」
鳩尾を抑え、蹲るバートン。
引き攣った顔のリーゼルが、ランゼルに助けを求めて視線を送ったが……。
ランゼルは目を閉じて、首を左右に振って伝える。
――諦めろ……と。
「これはどういった状況だろうか……」
ぽつりと呟いたのは、アーロン。
たった今騎士団の詰め所から到着したばかりの、アーロンとノーラン。
この何とも言えない空気に、二人して顔を見合わせ首を傾げる。
「さすがにわかりかねますね……」
困惑気味に答えたノーランは、答えを探すように辺りを見回した。
すると彼女に気がついたジュリアは、ニコッと微笑むと声を張る。
「さぁ、こうしちゃいられませんわ。ノーラン、帰るわよ。
ほら、バートンいつまで座ってるの!さっさとアイリーン王妃さま呼んできて。
王女さま、二週間程でお届けいたしますわ。
それまで、お待ちくださいね」
テキパキと指示を出す彼女に、その場の誰も口出しできない。
しかし頼もしいノルフェリアの仲間たちに、ララの頬は自然と緩む。
ランゼルも王子としてジュリアに声をかけた。
「ありがとう、レーヴァン家のご令嬢。感謝する」
「ランゼル王子、レーヴァン家だなんて堅苦しい呼び方は嫌ですわ。
バートンと同じように『ジュリア』とお呼びください。
それに国や家など関係なく、『友人』として皆さまをお支えしたいだけですわ」
そう言って、ララに微笑むジュリア。
「微力ながら、私もいつでもお力になります」
ノーランもララに視線を送る。
「ありがとう、ジュリア、ノーラン。
友の存在って、とっても心が強くなるのね」
ララの晴れやかな笑顔に、周りの皆も笑みが溢れた。
――こうして嵐のようなノルフェリア保護者団は、帰路に着いたのだった。




