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第66話 本当の豊かさってなに⁉️

「──以上が、今回可決したい議題です」


リーゼルが原稿を下ろすと、議会の場に突き刺さるような沈黙が落ちた。


言葉には出さずとも、その表情には困惑と憤慨が色濃くにじんでいる。

一方で、改革派の一部は納得したように頷き肯定を示す。

だが保守派の貴族達は、やがて堰を切ったように不満の声を漏らし始めた。


「なぜ我々領主が、家庭支援プロジェクトで三割も負担せねばならないのです」

一人の貴族が立ち上がって意見する。


それに続く貴族達も、次々と立ち上がって反対の意を口にした。


「支援が必要な家庭は、王都でたった三軒でしょ?そんな少数に、わざわざ手を差し伸べなくても」


「大体、国はどこから七割分の資金を捻出するのですか?」


「そもそも家事や介護を担える人材を、どうやって集めるのですか」


議場はたちまち騒然となった。

ララとリーゼルは視線を交わし、互いにどちらから説明を行うべきか目で合図を送り合う。


先に立ち上がったのはリーゼルだった。


「静粛に!」


反対派の貴族に向けて声を張る王太子に、場の空気は一瞬にして変わった。

普段声を荒げることのない彼が見せた態度に、議会の面々はハッとした表情を浮かべ、少しずつ冷静さを取り戻す。


「まず国が負担する七割分の資金は、中枢施設や王城の魔道具のビスの節約で捻出した分で賄える。

今後は、ビスから魔法へ変換するのだから、今までの中枢施設や他の魔道具類に必要としていたビス代が、家庭支援プロジェクトの財源となる」


リーゼルの説明に、一部の貴族は納得した表情を浮かべる。


「では、我々はどうやって三割分を捻出するのです?

自らの財産を当てろと?」


怒りが収まらないのか、顔を真っ赤にして大声を飛ばした。


ララは軽く目を閉じて深呼吸すると、ゆっくり立ち上がる。


「確かに、いきなり三割負担せよと言われるのは腑に落ちないかもしれません。財政が厳しい領もあるでしょう。


しかし、今一度、自領に節約の余地がないか見直してください。


無駄に点灯している照明は?

使ってもいないのに稼働している魔道具は?

本当に何も無駄はありませんか?」


問いかけるようなララの言葉に、大声を飛ばした貴族は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。


──きっと思い当たる節があるのね。

でも、今までそれが当たり前だと思って過ごしていたら、気づけないものよね……


「それと皆さんが所有している工場や施設、あるいは館は、魔道具の規模も大きいはずです。消費するビスも多い事でしょう。


そのビスを節約する手段として、並列版で使用した技術が応用できます。これを導入すれば、さらにビスの節約になるので、三割負担分に当てられるのではないですか」


ララの発言に、多くの貴族達から歓喜の声が漏れた。


しかしただ一人、まだ納得がいかないのか挙手して立ち上がった貴族がいた。


「そもそも、なぜ国は家庭支援プロジェクトを実施するのです?

そのような家庭はアルマティア全体の家庭数を考えると、一%にも満たないはずです。


わざわざ、国や私達が支援する必要はないはず」


話を終えた貴族は、同意を求めて周りの貴族に視線を送った。

家庭支援プロジェクト可決に傾きつつあった雰囲気が揺らぎ出す。


ララとリーゼルは互いに視線を送り合い、同時に口を開きかけた。

──だが、その声が響く前に。


「諸君、国にとっての財産は何だと思う?」


静かに語り出したのは、国王ヨハン。


場の雰囲気にはそぐわない、静かで落ち着いたその問いかけ。

ララもリーゼルも、ヨハンを振り返る。


顎の髭を撫でながら、ゆっくりと口を開く国王。


「そこの君、なんだと思う」


先程、プロジェクトに反対を述べた貴族に向けて語りかける。


いきなり指名された貴族は、動揺しながらも答えた。

「それは、貨幣でしょう。先立つものがないと、国は運営できない」


「まぁ、確かに貨幣は必要だな。


しかし、その財源はどこからくるのかな?泉から湧いて出てくるのかい?」


国王ヨハンが貨幣の必要を肯定した事で、先の貴族は勝ち誇った表情を浮かべた。

だが、次の言葉で顔色を変えた。


「国は多くの民に支えられて成り立っている。国が運営できるのも、民が汗水を流して得た税を財源としているからだ。それを忘れてはならん」


そう言って、目の前で立ちすくんでいる貴族に座るよう手で示した。


「国の豊かさは、民の豊かさ。


それは金銭もだが、一番は心の豊かさだ。心が満たされれば活力が湧く。

それは巡り巡って国の豊かさとなる」


ヨハンは大きく息を吸うと、声を張った。

「今回の家庭支援プロジェクトに賛成のものは挙手を」


静まり返った室内に、手を挙げる衣擦れの音が響く。


ララの目に、全ての貴族が手を挙げる瞬間が映った。


──あぁ、これで動き出せる。


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