第58話 やっぱりここには、無自覚の春
「それなら、ビス炉のエネルギー変換機は作成可能って事かな?」
ララ達の報告に、リーゼルは関心を示した。
「特殊鉱石を使えば可能みたいよ。ライオネル、そうよね?」
「はい、特殊鉱石は魔力を溜め込む事が可能です。それを素材として使えば可能かと」
「出来上がったら魔法付与が必要だよ。どんな魔法を使うか、考えないといけないよね」
と続けたバートン。
「特殊鉱石だっけ? 初めて聞く名前だよね。珍しい鉱石なのかい?」
リーゼルの問いに答えたのはジュードだった。
「アルマティアではビスが主流ですので、特殊鉱石はほとんど流通していません。それに正式名称は留魔石というそうです。特に珍しい鉱石ではなくて、ビスが採掘できる鉱山では、同じように採掘されています」
「珍しい鉱石ではなくても、流通していないのであれば試作はつくれるのかい?」
「少量であれば、知り合いの商人に依頼できるかと思うので、まずはそちらからあたります」
「それじゃ、鉱石の入手はジュードとアーロンにお願いしてもいいかしら?」とララ。
「はい」「了解致しました」
「一番の問題はどうやって使用するかよね……とりあえず情報が必要だから、そこから始めましょう」
ララの声かけに、ランゼル、バートン、ライオネルが頷く。
「ララ達の方は、方針が決まったみたいだね」
「そうね、まずはこれで動いてみるつもりよ。そういえば、学園はどうだったの?」
ララの問いに、リーゼルとルーベンが顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「えっ、ダメだった? 何か問題でもおこったの?」
ララは顔一面を心配に染めた。
「魔力感知は上手く行ったんだ。でも、魔力循環となると、なかなかコツが掴めなくてね……」
「確かに魔力があれば、魔力を感じる事はできるわね。でも、それを循環させるってなると、難しそうだわ。どんな方法をとったの?」
「体内の魔力を動かして手のひらに集める方法だよ」
リーゼルは右手のひらを上に向けて、小さな炎を出した。
「最初から魔法を発動させるのは無理だわ。私も魔力を体内で動かすって言われても、難しいもの」
そう言って、手のひらを凝視して集中するが何も起こらない。
「自分では魔力を意識しているつもりよ。でも、動かし方が全くわからないの」
残念そうな顔でため息を吐くララに、近くに座っているランゼルが声をかけた。
「少しよろしいでしょうか、王女、手をお借りします」
席を立ちララの隣に移動したランゼルは、側に跪くと彼女の右手を優しくとった。
っん? 手を?
意図がつかめずに首を傾げたララだったが、右手からランゼルの魔力が何かを押し流すような感覚に、再び目を見開いた。
「ラ、ランゼル……、何かが動いているような……、これって、あなたの魔力?」
繋がった二人の手を凝視しながら尋ねるララ。
「はい、今感じている動きを右手から左手に移動させるようイメージしてください」
右手に集中するララの頬に、窓から優しく風が吹く。
ふとよぎったのはランゼルが頬に触れたあの感触。
ドキッと胸が大きく脈打つ──
頬から全身に血液が巡るような拍動を感じた。
すると右にあった魔力の熱がスッと左手に移ったのがわかった。
「っあ! ランゼル、左手に集まった感覚がするの」
嬉しくて急いで伝えるララに、ランゼルは自分の右手を彼女の左手に重ねた。
「左手の魔力を、こちらに押し出してみて下さい」
あの血液が流れるような感覚……
それを意識すればいいのよね。
目を閉じたララは『流れ』を意識して集中する。
すると、左手から魔力が抜けていく感覚がした。
ゆっくり目を開いて、ランゼルに視線を送ると、彼は微笑んで頷いた。
「出来ましたね」
その優しい声色に、ララの鼓動はまた跳ねた。
魔力循環のレクチャーのはずだが、なんとも生暖かい空気感を破ったのはリーゼルの咳払い。
「ゴホンっ」
ララの意識がリーゼルへと移ると、嬉しそうに兄へ伝えた。
「お兄様、出来ましたわ。流れをイメージすればいいんですね。参考にしたのは血液の流れです」
「……うん、よかったね。血液の流れをイメージするのか、いいかもしれないね。……それよりもさ、二人はいつまで手を取り合っているのかな?」
リーゼルの言葉にハッとして自分の手に視線を戻す。
そこには繋いだままの両手──
慌てて手から視線をランゼルに移したララは、彼の顔を見てさらに動揺が大きくなる。
そこには、真っ赤な顔で視線を伏せるランゼルが……
「さぁ、ランゼルさん、席に戻りましょうね」
そう言ってバートンがランゼルを回収していく。
リーゼルを振り返ったバートンは片目を閉じて楽しげに告げた。
「ね、無自覚の春が来たでしょ」




