第53話 夕餉の団欒、国王の憂鬱?
謁見を終えたその夜、アルマティア王家の食卓には穏やかな灯りが揺れていた。
「ララ、今日は驚いたよね? ライオネルがいきなり求婚だなんて」
リーゼルが眉を下げ、穏やかに話しかける。
「そうね、ちょっと驚いたわ。どうして会ってすぐに結婚しようなんて言えるのかしら?」
ララは前菜のホタテのマリネにナイフを入れながら、首を傾げた。
「魅力的なララに惚れたんだろ」
さも当然といった様子で、ヨハンはワイングラスを空にする。
「ほら、あなた飲み過ぎ。レネ、陛下にはもうお酒はダメよ。お水にして」
グラスを掲げておかわりを要求するヨハンを制し、セリーヌはきっぱりと告げた。
「あの子にも困ったものね。ララを見た瞬間に虜になっちゃったのね。でも、さすがララだわ。スパッと恋心を両断しちゃうんだもの」
にこやかに言うセリーヌに、リーゼルは苦笑を浮かべて妹を見やる。
当のララは全く気にした様子もなく、当然のように言った。
「王家の結婚って、国のために結ぶものでしょう?」
「いや……間違いじゃない。それが国を守る手段でもある……。しかしだな、結婚は……なぁ、セリーヌ」
歯切れ悪く王妃に話を振るヨハン。
「ララ、今アルマティアは他国と婚姻で結束が必要な状況じゃないわ。だから、あなた達は一緒にいて安心できる人、互いに高め合える人を選んだらいいのよ。それに、陛下と私も恋愛結婚よ」
「えっ、そうなの?」「えっ、本当?」
ララとリーゼルの声が重なり、食卓に小さな驚きが走る。
「そうよ。だいたい私の実家は侯爵家でしょ? 他国と縁を結ぶなら、それこそ王家か公爵家辺りじゃない?」
あっけらかんと話すセリーヌに、ララもリーゼルも言葉を失った。
「まぁ、そういうことだ」
ヨハンとセリーヌは視線を交わし、くすりと笑い合う。
メインディッシュを終え、デザートに手を伸ばしたララに、リーゼルが問いかけた。
「これから色々と準備に取り掛かるけど、何から手をつけようか?」
「そうね……今回派遣された魔道士の方は十名でしょ? とりあえず、エネルギー変換機の開発と教育機関の立ち上げが優先だから……」
ララは視線を上げ、考えながら答える。
「二手に分かれる?」
「そうね。魔道具に詳しい方数名で中枢施設の視察、残りの方々には貴族の学園でレクチャーをお願いするのはどう?」
「いいんじゃない? まずは貴族の子息や令嬢に魔力循環を実践で教えてもらえば、問題点も課題も見えやすいかも」
「確かに。やってみなければ障害は予測できないものね」
「それを参考に、国民全体にどう広めるか模索しましょう」
ララの提案に、リーゼルは笑顔で頷いた。
「うちの子たちは優秀だなぁ。なぁ、セリーヌ?」
にこにこと語るヨハンに、セリーヌは鋭く返す。
「これ、本来はあなたの仕事よ。子ども達に頼りすぎ」
眉を下げたヨハンは、助けを求めるようにリーゼルを見た。
すかさずララが助け船を出す。
「お母様、お父様には一番重要な“議会での説明”が待っていますから」
「……まぁ、重要だよね。大変だろうな。それぞれの派閥を動かして、変換機と教育機関の予算案を通さないと……」
想像するだけで苦い顔をするリーゼル。
「あら、あなたにも重要な役割があったじゃない。よかったわね」
どこか楽しげに告げるセリーヌ。
その一言に、ヨハンの顔色はみるみる曇っていった。
「えっ……本当に? わし、一人でやるの? リーゼルも……ララも……誰もついてきてくれないのか……」
弱々しく子ども達に助けを求める国王に、食卓は和やかな笑いに包まれた。




