第52話 王女様、ララ様、女神様?いいえ、オカン様!
謁見の間を出た魔道士団は、抑えていた興奮を一気に解き放った。
「王女様……すごかったな……!」
「あの短い時間でライオネルを改心させたぞ!」
「誰だ?『儚げな美少女』って呟いてた奴?」
「確かに美人だけど、あの方はうちの母ちゃんより迫力あるぞ!」
「国王陛下も穏やかだし、王妃様も王太子殿下も親近感あるし……アルマティアっていい国だな!」
さっきまでの静寂と神妙さが嘘のように、魔道士団の空気は一気にゆるんだ。
ただ一人、責任者のルーベンだけは表情を引き締め、ライオネルに声をかける。
「今回は不問としていただいたが、次はないぞ。ノルフェリア魔道士団として責任ある行動を心がけろ」
厳しく言い放つが、肝心のライオネルは視線が合わない。宙を見つめては、何かを呟き、恍惚とした面持ちを見せていた。
「おい……ライオネル、様子がおかしくないか?」
団員の一人がそう言うと、皆の視線が一斉に彼へ注がれた。
ルーベンも一瞬だけ顔を引き攣らせたが、気を取り直して再び声をかけようとしたその時。
「……なんて素敵な女性だ……僕に過ちを気づかせてくれた……。失敗を糧に……なんていい言葉だ……」
誰に語りかけるでもなく、ただ一人でボソボソと話しているライオネル。
いまだに定まらないその視線の先には、何か崇高なものを崇めるような、陶酔するような、そんな輝きが満ちていた。
「……あれ、本気で改心したのか?」
「いや、気持ち悪いだけだろ……」
団員たちは小声で囁き合う。
「おい、ライオネル! ルーベンさんの話、聞いてるのか?」
肩を叩かれても、彼は振り向かずに返す。
「んぁ? 何だ、僕に指図するな」
「……いつも通りだな」
「コイツをまともにできるのは、王女様だけじゃないか?」
ため息が連鎖して広がった、その時。
「道中、特に問題はなかったか?」
低くよく通る声とともに、ランゼルが魔道士団の前に立った。隣にはバートンの姿もある。
思いもよらぬ自国の第三王子の出現に、一同は固まった。だが、バートンの軽い一言で正気を取り戻す。
「あぁ、ライオネル……やらかしちゃったね。あれはさすがに不味いでしょ」
魔道士団が慌ててランゼルへ礼をとる中、ライオネルだけはバートンに言い返す。
「うるさいな。お前には関係ないだろ」
「またライオネルと一緒に仕事だと思うと、気が重いよ」
言い合う二人を、ランゼルが鋭く制した。
「そこまでにしろ。ここはアルマティアの王城だ。ライオネル、他国の王族に不敬を働くとは何事だ。……お前は国に戻るよう手配する」
その言葉に、魔道士団の面々は一斉に目を見開いた。
「……ランゼル……王子……⁉︎」
驚愕の声を漏らしたのは、ライオネル自身だった。
次の瞬間、彼は青ざめて慌てて礼をとる。
「っあ、いや、もう不敬な態度はとりません! どうか、もう一度挽回の余地を……!」
部下を庇うように、ルーベンが一歩前に出て許しを乞う。
「ランゼル王子、今回は私の管理不足。誠に申し訳ございません。……どうか、いま一度、この者に余地をいただけませんか?」
ランゼルは視線だけで続きを促す。
「この者は確かに単独行動が多い。しかし魔法に関しては確かな実力を持っています。エネルギー源転換においても必要な人材かと」
沈黙ののち、ランゼルは深いため息をついた。
「……次はない。全力でアルマティアに助力しろ」
ようやく許されたライオネルに、バートンが無邪気に追い打ちをかける。
「まぁ、戦力としては必要だからね。良かったね、ライオネル! でも、もう王女様にあんなこと言っちゃダメだよ」
「ふん! 当たり前だ! あんな素晴らしい方を困らせるなんてありえない! 僕の持てる知識と魔法で、しっかりお仕えする!」
熱弁するライオネルに、すぐ横の団員が冷ややかに吐き捨てた。
「……お前が仕えるのは、ノルフェリアだ」




