第47話 炉は安定、眉間は不安定⁉
「では、稼働させます」
エルマンの声と同時に、中枢施設のビス炉が動き出した。
白色の光が漏れ出す炉の内部では、並列版が花びらのように円を描いている。
「ちゃんと動き出したわね」
監視台から覗き込むララは、嬉しそうに微笑んだ。
すぐに向きを変え、下にいるエルマンへ声をかけようと身を乗り出す。
その動きにハッとしたランゼルが、瞬時に手を伸ばした。
「王女」
咄嗟に支えられた肩と腰の感触に気づき、ララは振り返ってはにかむように笑う。
「ありがとう、気をつけるわ」
そう言って向き直った耳は、ほんのりと赤く染まっていた。
「エルマンさん、エネルギー量は問題ないかしら?」
ビス炉のメーターを確認したエルマンが答える。
「はい、しっかり青色を保っています」
安定稼働の報告に、周囲から歓声が上がった。
ララとランゼル、バートンは互いに顔を見合わせ、自然と笑みを交わす。
監視台を降りた三人はメーターのそばに集まるエルマンや作業員へ歩み寄り、ララが声をかけた。
「無事に稼働できて安心したわ。新しい試みで不安もあると思うけれど、皆で力を合わせてエネルギー源の転換に取り組みましょう」
その言葉に、全員が一斉に礼をとった。
―――――
「さぁ、これから忙しくなるね」
城へ戻る馬車の中で、バートンが大きく息を吐いた。
「そうね……バートンには一番負担がかかってしまうわ」
心配そうに視線を落とすララ。
「大丈夫だよ。僕は魔力量が多いからね。前回倒れたのは自業自得だし、今回は問題ないよ。だから心配しないで」
明るく笑うバートン。
「ありがとう……。アルマティアの中枢施設は、王都を囲むようにあと八か所あるの」
「つまり、八十枚のシルクスパイダーの布に魔法付与すればいいんだね?」
軽やかに答えるバートンに、ララの不安は拭えない。
「八十枚って、相当な数よ。……一日十枚ずつ、大丈夫かしら?」
「本来なら一日で全部付与できるよ。でも王女様が心配なら、二日に分けようか?」
思いがけない言葉に、ララは驚き、思わずランゼルを見た。
「バートンの魔力量が多いのは確かです。おそらく一日で全てこなしても問題ないでしょう」
ランゼルの穏やかな声に、ララの表情も和らぐ。
「……それじゃあ、二日に分けてお願いね。絶対に無理はしないこと」
ララの言葉に、バートンは力強く頷いた。
やがて馬車は城門をくぐり、エントランスに横付けされる。
ランゼルのエスコートを受け、ララはゆっくりと降り立った。
「おかえりなさいませ、王女様。どうでしたか?」
近づいてきたのはジュードとアーロンだった。
「うまく稼働を始めたわ」
ララは嬉しそうに報告する。
「あら、二人は知り合いなの?」
並んで歩く二人を見て、ララが尋ねる。
「はい。父同士が大臣で、昔から家族ぐるみで交流があるんです」
アーロンの言葉に、ララは財務担当のロバートと軍務担当のゴードンを思い浮かべた。
――あの二人が仲良し? 正反対に見えるのに?
表情に出ていたようで、アーロンが笑いながら答える。
「王女様、今“気が合うのかしら”って考えていましたね?」
「っあら……そんなにわかりやすかったかしら」
ララの反応に、ジュードも可笑しそうに笑った。
「確かに僕の父はお菓子好きでほんわかしていますからね。ゴードン大臣は正反対で、まさに軍人って感じですが」
困ったように視線を逸らすララに、アーロンが助け舟を出す。
「でも実は、うちの父も甘党で、お酒より甘味が好きなんです。それに二人は学生時代からの友人なんですよ」
ジュードも続ける。
「実は父は昔、騎士を志していたそうです。結局、文官の家系なので今の道に進んだようですが」
「そうなのね……。大臣たちの意外な一面を知った気がするわ」
談笑する三人の様子を見ていたバートンは、ふとランゼルの顔を横目で伺った。
「……あの、ランゼルさん。眉間の皺がすごいことになってますよ……」
恐る恐る告げるバートン。
その言葉にハッとしたランゼルは、指で眉間をほぐした。
「みんな王女様を慕っているんですから、いちいち嫉妬しないでくださいよ」
バートンの言葉に、ランゼルは渋い表情を浮かべる。
さらに小声で囁いた。
「そんなに気になるなら、ちゃんと伝えたらどうです? もう、王子だって知られているんですから」
「……そんな簡単な問題じゃない」
ランゼルの低い声は、静かに空気の中へと消えていった。




