第45話 赤面と青ランプ、ダブルで稼働中⁉︎
「今でちょうど十二時間が経過したところだね」
時間を確認したバートンが告げる。
ララとランゼル、バートンは揃って監視台からビス炉を覗き込んだ。並列版のビスは、しっかりと白色の光を放っている。
「まだ黄色に変わった並列版はないわね」
安心したララはふっと肩の力を抜いた。
「少し休憩を挟みましょう、まだ先は長そうですから」
ランゼルはララに休息を提案して、監視台から降りるよう促した。
「そうね、ちょっとだけ休みましょうか」
笑顔で応じたララに、ランゼルがエスコートの手を差し出す。先にランゼルが階段を一段降りてララを振り返ると――
っあ‼︎
足先が石床の小さな凹凸に引っかかり、ララの体が前に傾ぐ。
「危ない!」
ランゼルは咄嗟にララを抱きとめる。
周囲も思わず息を呑んだ。
「っあ、ごめんなさい……足元に気づかなかったわ。ありがとう、ランゼル」
危険回避のためとはいえ、抱き止められたララは恥ずかしさで、ランゼルの胸に顔を微かに埋めた。
ララのその動きに、一瞬だけ腕に力がこもるが、すぐに我に返ったランゼル。
ララの両肩にそっと手を添えて距離をとり、真っ赤な顔で視線を逸らすと、かすれた声を絞り出した。
「……ご無事で何よりです」
ランゼルの動揺と赤面は、しっかりとララに伝わり、二人して顔が上げられずにいた。
「初々しくて、こっちが恥ずかしいよ……」
小さく呟いたバートンは、声を弾ませて空気を切り替えた。
「びっくりしたなぁ、大丈夫だった王女様?」
バートンのいつもの調子の声色に、あのなんとも言えない恥ずかしさが和らいだ。
「心配かけてごめんなさい。何ともないわ」
まだ照れが抜けずに視線が泳いでいるランゼルに、バートンが笑って言った。
「ランゼルさん、王女様をお願い。僕はここの凸凹を直しておくよ」
そういうと、すぐに両手を床にかざして魔法を発動させる。床は淡く光り、凹凸は跡形もなく消えた。
「バートンの魔法ってすごいね。どんな魔法なの?」
振り返ったララに、バートンは気軽に答える。
「土魔法さ。小さな補修しかできないけどね。ほら王女様、ちゃんと前を向いて歩かないと」
「そうね、気をつけるわ。ランゼル、手を借りるわね」
まだ耳のあたりが少しだけ赤いララは、ランゼルの手を取って、ゆっくりと階段を降りた。
「王女様、ご無事で何よりです。応接室をご用意いたしますので、しばらくゆっくりと過ごされてください」
エルマンの提案で、三人は応接室へ向かった。
***
軽食の後、紅茶を片手に談笑する。
「ねぇ、僕いま凄い面子とお茶してるんだよね」
「どういうこと?」首を傾げるララ。
「アルマティアとノルフェリアの王族だよ。普通の貴族が経験できることじゃない」
「まぁ、確かに普通ならありえないな」
ランゼルは苦笑して頷いた。
その時、扉を叩く音が響く。ランゼルが開けると、エルマンが告げた。
「並列版の一つが黄色に変わりました」
「ありがとう。すぐ行きましょう」
ララは立ち上がり、ビス炉へと急いだ。
「メーターは?」
「ええ、今も青色のままです」
「開始から十四時間ってところだね」
バートンが補足すると、ララは嬉しそうに微笑んだ。
三人が監視台へ戻ると、黄色になったのは一枚だけだった。
さらに二時間後、その一枚は色を失ったが、メーターは変わらず安定している。
「黄色になっても二時間は保つんだね。それもメーターは動かないまま」
バートンが感心したように言う。
「予想通りで安心したわ。本来ならここで新しいビスを交換したいけど、実験だからこのまま続けるの」
ララの意図を汲み、バートンが頷く。
「なるほど。同時に何枚か黄色になる可能性もあるからね」
「そう。もし半数近くが黄色になって赤点滅したら、そこを交換の目安にすればいいわ」
「王女様の発想は実に素晴らしいですな」
エルマンは目を細めてララを讃えた。
その後、黄色に変わる並列版は徐々に増え、八枚目に差しかかった時――
メーターが赤く点滅を始めた。
「ここが限界みたいね」
ララの言葉にランゼルが時刻を確認する。
「実験開始から十五時間半です」
ララは満足げに頷いた。
「つまり白の並列版が三枚以上あれば、最低限の稼働は続くってことね。
でも安定供給を考えるなら、十枚で支えて、黄色になったものも最後まで使い切るのが一番効率的だわ」
そして力強く言葉を結ぶ。
「――実験は成功ね」
その瞬間、エルマンや職員たちが歓声を上げ、ビス炉の部屋は熱気に包まれる。
横にいる二人に視線を送ると、バートンは笑顔で頷き、ランゼルは柔らかい表情で微笑んだ。
そんな姿を目にしたララの胸に、言葉にならない喜びが広がっていった。




