第44話 並列版、準備完了!
「ご依頼のシルクスパイダーの布が完成しましたよ」
従者と一緒に布を抱えてやってきたのはジュードだった。
「あら、ありがとう。ジュードさんが自ら届けてくれたの?」
ララは少し驚いた様子でお礼を言う。
「はい、王女様のお役に立てるなら、こんなに嬉しいことはありません」
バートンは、爽やかな笑顔で答えるジュードと、不機嫌に眉間の皺を深めるランゼルを見比べた。
「ほら、ランゼルさん。また皺が深くなってますよ」
揶揄うバートンに、ランゼルの鋭い視線が突き刺さる。
そんなやり取りに気付かないララは、今後の予定を話し出した。
「これなら、明日から実験に入れそうね。バートン、今から10枚の布に魔法付与をお願いできる?」
バートンは揶揄うのをやめ、真剣な表情でララに向き直る。
「大丈夫だよ。さっそく始めようか」
「では、付与できた布を板に固定します」
先ほどまで不機嫌だったランゼルも、真剣に準備へと動いた。
「ありがとう。それじゃ、はじめましょうか」
ララの号令で、バートンは魔法付与を開始し、ランゼルは板の準備に取りかかる。
三人の連携した動きを、ジュードは感心したように見守った。
「何だか一つのチームみたいで、かっこいいですね。ランゼルさんやバートンさんが羨ましいな」
「あら、ジュードさんもチームの一員じゃないの? エネルギー源の転換なんて壮大なプロジェクト、少人数では成し得ないわ。関わる全ての人が大切な仲間よ」
ララの言葉に、嬉しさが隠せないジュードは頷いた。
「では、この実験が上手くいけば、布はもっと必要になりますね! いつでも提供できるよう準備に入ります」
そう言い残し、従者と共に去っていった。
「王女様って、ちゃんとその人が欲しい言葉をくれるよね……」
バートンは小さく呟いた。
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翌朝早く、三人は中枢施設を訪れていた。
「エルマンさん、こんな朝早くからごめんなさいね」
ララはエルマンに挨拶し、予備ビス炉へと向かう。
「その布を張った板が、今回の実験のカギなのですね」
板を抱えるランゼルとバートンを振り返り、エルマンが尋ねた。
「そうなの。この並列版が上手く稼働したら、多くのビスを節約できると思うわ」
「どのように使うのですか?」
エルマンの問いに、バートンが得意げに答える。
「並列版には魔道を通した布が張ってあるので、ここにビスを5個置くと、5個すべてのエネルギーが均等に消費できるんです」
「ほぅ、それは実に画期的ですね」
その様子が微笑ましくて、ララは口元を緩める。
「ビス炉には、放出されるエネルギーを示す魔道具がありますよね?」
「はい、管理メーターがございます。エネルギー量が十分だと青色、減少すると赤く点滅し始める仕組みです」
「並列版が一つ尽きても残りが動けば、メーターは赤く点滅しないと証明したいの」
「なるほど、最後まで使い切れば無駄な消費を防げるというわけですね」
エルマンは大きく頷いた。
予備ビス炉に到着した一行は、炉の内部へと入る。
「王女、どのように配置しますか?」
ランゼルの問いに、ララは設計図を広げる。
「並列版は炉の中心に向かって縦に置いてちょうだい。扇形……花びらみたいな形にね」
ララの指示に従って並べるランゼルとバートン。
「この形に意味があるのですか?」
興味深そうに覗き込むエルマンに、ララが説明する。
「並列版の板にはエネルギーの流れる方向があるの。外周から中心へ向かって流れる仕組みで、条件を揃えることで消費を抑えられるのよ」
「一度見ただけでは分かりにくいですね」
「布に印をつけてあるから、それを見ながら配置しているの」
「王女様、これでいかがですか?」
並べ終えた板を指し示すランゼルに、ララは頷いた。
「上出来だわ。では、ビスを5個ずつ置いてくれる?」
指示に従い設置が完了すると、予備ビス炉の内部は整えられた。
「さぁ、では稼働させますよ」
エルマンの号令とともに、ビスが一斉に白色を帯びる。
炉の中に広がった光を見つめ、誰もが息を飲んだ。
──結果やいかに。




