第36話 ひらめきは豆電球から⁉︎ビス炉改善計画、始動!
ビス炉の部屋の右奥——
雑然と積み上げられた使用済みのビス。
その光景に、胸の奥がひやりとする。
ララの視線を追ったエルマンが、伺うように声をかけた。
「王女様、どうかなさいましたか?」
「……あれは使用済みのビスよね?」
指で示すララに、エルマンはうなずく。
「はい。それがいかがなさいましたか?」
「……一日に百個も破棄するの?」
「そうですね」——あまりにも当然のような返事だった。
「そのビスは、捨てるだけなの?」
「いえ、粉砕して樹脂と混ぜ合わせ、束ねたシルクスパイダーの糸のコーティングに使います」
「シルクスパイダー……?」初めて聞く素材に首を傾げた。
「はい。ビスと組み合わせることで、エネルギーを通すのに最適なんです。ここで作られたエネルギーは、その特殊なファイバーを通って各公共施設へ分配されます」
「……なるほど、その流れは資料で見たけれど、材料までは知らなかったわ」
「ファイバーの耐久年数は十年ほど。その作成に使われるのですよ」
「でも、年間三万六千五百個も必要ないんじゃない?」
「……確かに、そんなにはいらないですね」
——再利用はできても、一日に百個は多すぎよ。
それに、全部使い切る前に交換だなんて……無駄ね。
何かいい方法は……
ビス炉の白い輝きがふと目に入る。
……蛍光灯の色みたい。
それが豆電球のような黄色になったら交換……
——っん⁉︎
胸の奥で何かがパチンと弾けた。
前世の記憶が一気に開かれる感覚。
『ねぇ、お母さん、今日理科で豆電球と電池を使ってね……』
子どもとの何気ない会話がよみがえる。
——そうそう、電池の並列回路!
直列は光が強いけど長持ちしない。
並列なら一定の明るさで長持ちする——
これよ‼︎
「エルマンさん? ビス炉にビスを入れる時、何か決まりはあるの?」
王女の質問の意図が掴めず、エルマンは困惑を浮かべる。
「……特に決まりはなく、等間隔に並べているだけですが……」
「わかったわ、ありがとう」
沈んでいた顔が一転、ララの表情が輝く。
「ビス炉の中のビスの配置を変えても問題ない?」
エルマンはますます困惑しながらも、
「はい……大丈夫ですが……。炉の底がエネルギーを集める仕組みになっていますので、炉の中にビスがあれば問題ありません」と答える。
「よかった、これならビスの無駄が減らせそうよ」
ララの発言に、そこにいる全員が不思議そうな顔を向けた。
「じゃあ、さっそく試作にとりかからなくちゃ。
エルマンさん、シルクスパイダーの糸ってどこで手に入るのかしら?」
一人頭の中で段取りを決めるララに、思わずバートンが声をかける。
「王女様? 話が全然見えないんですけど……なんでビスの配置を変えたら無駄が減るんです?」
——あ、そうよね。この世界に並列回路なんて概念はないんだわ……。
どう説明すれば……?
視線を上げながら考えるララ。
「試してみたい事ができたの。今のビス炉は50個を一度に交換するでしょう? その中には、まだ十分に使えるビスだってあると思うの」
ララの説明に、バートンは先を促すように頷く。
「全てのビスがエネルギーを均等に出力出来たら寿命が伸びて無駄が減るでしょ。だから、そんなシステムを作りたいの」
ララの言葉に驚きを隠せないバートン。
感心した様子のエルマンと、息をのむビス炉の作業員たち。
ランゼルは眩しいものを見るように目を細めた。
—— 一人の王族が、ここまで国の先を案じるなんて……
形だけの視察はよくあるが、ララは常に目的を明確にし、解決へ動く。
俺の恋した女性は、唯一無二だ。
「王女様ってすごいね。美人な上に頭もいいなんて、尊敬だよ」
明るく静寂を破る声に、ララは苦笑する。
「ありがとう。でもまだ実際に可能か試作しないといけないわ」
ララとバートンのやり取りを、優しく見守っていたエルマンが口を開いた。
「王女様、シルクスパイダーの糸は王都の繊維工場にありますよ」
「ありがとう。まずは試作品を作ってみるわね。出来上がったら、また協力をお願いするわ」
「喜んで、協力させていただきます」
「さぁ、今度は繊維工場ね! 今回の成功のカギは……バートンよ」
「っえっ⁉︎」固まったバートンは、助けを求めるようにランゼルを見る。
「ど、どういう事⁉︎」
——こうして、バートンの苦戦する日々が始まるのだった。




