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第35話 要塞?いいえ、エネルギーの心臓部です

馬車の窓から見え始めたのは、まるで要塞のような威圧感を放つ建物だった。

近づくにつれて、その巨大さが視界いっぱいに広がってくる。


「なんだか強そうな建物ね……」

ぽつりと漏らしたララの言葉に、隣のバートンが「っぷっ‼︎」と吹き出した。


「王女様、それすごい例えだよね?」

「だって、本当にそう思ったんだもの……」

ララは頬を赤く染め、視線を少し伏せる。


そのやり取りを横で聞いていたランゼルが、穏やかな声を落とした。

「間違いじゃないと思いますよ。国のエネルギーを担う重要施設ですから、守りも強固です」

「ほら、間違いじゃないって」とララが嬉しそうに返すと、バートンは肩をすくめた。

「いや、間違いじゃないんだけど……例えがユニークすぎて」

友人同士のような軽口に、ランゼルの眉間にうっすらと皺が寄る。


——っん?

バートンはそれに気づくと、そっと視線を逸らし、何も見なかったふりをした。


やがて馬車が中枢施設の門前で止まり、御者が扉を開く。

ランゼル、バートンと順に降り、ランゼルがすかさずララへ手を差し出した。

「ありがとう」ララはその手に触れ、ゆっくりとステップを下りる。


「なんだか別人を見てるみたい……」とバートンが小さく漏らす。

「あら、ランゼルは昔から紳士よ。……ね、ランゼル?」

——っ‼︎ ランゼルは一瞬だけ目を見開き、すっと顔を逸らす。

「うわぁ、照れてる……初めて見たかも……」

その小声は、幸い誰にも届いていなかった。


門の向こうには、石造りの頑丈な建物がそびえ、高い塀がぐるりと囲む。

間近で見上げたララは「想像以上に大きいわね」と感嘆の息をもらす。


その視線の先、白髪を後ろで束ねた初老の男性が門番と並び立っていた。

好々爺という言葉が似合う笑みを浮かべ、ララに恭しく頭を下げる。


「初めまして。お忙しい中、ありがとうございます。今日はよろしくお願いしますね」

「初めまして、王女様。ここの責任者を務めております、エルマンと申します」


ララは視察の目的を簡潔に告げた。

「話は聞いていると思うのだけど、ビスの採掘量が減ってきているの。近々、エネルギー源をビスから魔力に転換する予定なの」

「はい、存じております」


「まずは公共施設から始めます。そこにエネルギーを供給しているのが、中枢施設でしょ?」

「はい、ここは王都周辺のエネルギーを担う中枢施設です。

各主要都市にも規模は違いますが、同じ施設が存在します」


「そう……。だから、まずはここのシステムを把握したくて」

「さようでございますか。では、ご案内いたします」



石造りの廊下を、エルマンを先頭に進む。

やがて木製の大扉の前で立ち止まり、

「こちらが、中枢施設の核となるビス炉の部屋です」と、扉を押し開けた。


室内の中央には、直径およそ十メートルの巨大なビス炉が鎮座していた。

白く発光し、ほのかな熱を帯びた光が室内を包む。

周囲には三ヶ所の監視台があり、作業員たちが炉の様子を確認している。


「あの方たちは何をしているの?」

「ビスの交換を担当しております」

「交換の基準は?」

「光が黄色になると取り出し、次のビスを設置します」

「見た目だけで?」

「はい」


——えっ、それだけで全部を交換?


「一回に何個ビスを使うの?」

「五十個です」

「それでどのくらい稼働するの?」

「おおよそ半日です」


—— 一日で百個……しかも判断基準は光の色だけ?

——なんてもったいない。

全てが一斉に黄色になるわけがない。ビスごとにエネルギー量も消費速度も違うはず。


ふと右奥に目をやると、そこには無造作に積まれたビスの残骸があった。

ララは深く息を吸い込み、その光景を胸に刻む。

——改善の余地は、きっとある。


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