第34話 農業担当大臣、まさかの司書化⁉︎
目の前には、少し古めかしい重厚な扉が立ちはだかっていた。
ララが手を伸ばそうとした、その瞬間——さっとランゼルが一歩前に出て扉を開ける。
「どうぞ」
低く落ち着いた声とともに、ララを促すランゼル。
その仕草に、すかさず隣のバートンが小声で呟いた。
「……なんだか、紳士になってるよ……。今まで女性にそんな気遣いした事なかったのに」
「……っ!」
ランゼルが鋭く振り返り、バートンをキッと睨む。
驚いたバートンは「っひっ‼︎」と息を飲み、慌てて両手で口を押さえた。
そんな二人のやり取りには気づかず、ララは「ありがとう」と微笑み、室内へ足を踏み入れる。
——冷んやりとした空気。紙とインクの匂いが漂う静謐な空間。
窓はあるが、日差しは遮られ、やや薄暗い。目が慣れると、天井に届きそうな本棚が部屋一面に並び、そこに整然と無数の本が収められているのが見えてきた。
「いつ来ても、静かで落ち着く場所よね」
ララは軽く目を閉じ、深く息を吸い込む。
「さぁ、資料を探しましょ!」
そう言うララに、バートンが尋ねた。
「どんな資料を探せばいいの?」
「中枢施設から送られるエネルギーの分配方法や、施設の設計図……」
ララは指を折りながら挙げていく。
「ビスから魔力に転換するヒントがあれば……」と呟くと、
「それなら、昔の記録とか……。どの機械がビスをエネルギーに変えているかわかれば、魔力変換機にできるかも……」
バートンは途中まで口に出していたが、最後は自分の頭の中で議論し始めた。
「王女、ここの資料は閲覧許可が必要なものも多いかと……」
ランゼルはララを止めると、「司書を連れてきます」と言って部屋を出ていった。
——確かに、ビスの中枢施設となれば機密事項よね……。
王族でも許可がいるなんてこと、あるのかしら……。
バートンが周囲を見回す。
「あれ? ランゼルさんは?」
「許可をもらいに行ったのよ」
「えっ、王女様なのに?」
「まぁ、どちらにしても膨大な本の中から探すなら、司書に聞くのが早いわ」
「お待たせしました」
扉から慌てた様子で壮年の男性が入ってくる。
「中枢施設の資料を見たいの。閲覧許可って必要かしら?」
「形式上、どなたが閲覧したか記録は残しますので……」と司書。
「サインでいいのね?」
「はい、用紙をお持ちします」
ララがサインを終えると、
「まずは中枢施設の設計図を。どこにあるのかしら?」と尋ねる。
司書が少し考え——
「奥から二番目の棚……上から三段目……」
低くぼそっとした声が、入り口付近から聞こえた。
っん⁉︎
視線を向けると、今にも腕から崩れ落ちそうな量の本を抱えたマイク大臣が立っていた。
「司書より詳しい……」とバートンが呟く。
「ありがとう、マイク大臣。ついでに、エネルギー分配方法や昔の施設の資料も……」
「一番奥の棚の右下です……」
その即答ぶりに、ララも思わず「すごいわね……」と声に出していた。
「さぁ、資料を集めて向こうのテーブルで調べましょう!」
三人は資料を広げ、夢中で読み込んでいく。
二時間後——
「王女様……これを……」
マイクが紙の束を差し出す。
「これは?」
「以前読んだ中枢施設関連の本や資料を、覚えていた範囲でまとめました」
「……すごい記憶力と知識量ね。助かったわ」
ララは微笑む。
それを見ていたバートンが、ランゼルに小声で尋ねた。
「彼、何者⁉︎」
「農業担当大臣だ」
「……全然、農業関係ないじゃん……」
「一日のほとんどを図書室で過ごしている」
「……もう大臣じゃなくて、司書だよな……」




