第27話 影武者どころか、主役です兄様⁉︎
執務室の扉を開けると——
「バロン宰相、各領主に、それぞれの街の状況確認をするよう通達を出して!」
「どのような内容で……?」
バロンはリーゼルに問いかけた。
「この通りに写してくれる?」
リーゼルは書類の束を渡す。
「あっ、それと、小さな気づきも報告するように加えておいて!」
「……かしこまりました」
額の汗を拭いながら、バロンは受け取った書類に目を通した。
——ふむふむ、
1.街を巡回し、食料品や日用品の買い占めなど、普段との違いを把握すること。
2.領民へ、ビスの減少とエネルギー源転換の説明を行うこと。
3.新たなエネルギー源として魔力を用いる方針であり、国がすでに準備段階に入っていること。
4.領民の不安を和らげるよう、十分な説明を心がけること。
5.二日以内に1〜4を実施し、国へ報告すること。
「なるほど、実に的確な指示ですな」
感心した様子で読み終えたバロンは、「すぐに準備して参ります!」と足早に扉の方へ向かった。
ちょうどそのとき扉を開けて入ってきたララとぶつかりそうになり——
「おっと‼︎……失礼しました!」
慌てて下がるバロンに、ララは軽く笑って言った。
「大丈夫よ。急いでるんでしょう?」
「はっ、恐縮です」
深々と礼をしてから、ふと立ち止まる。
「先ほど、街の様子が大変なことになっていると伺いました」
「そうね。この混乱がどのくらいの範囲で広がっているか次第だけど……早めの対処に越したことはないわ」
「では、すぐに準備を整えてまいります」
そう言って、バロンは足早に去っていった。
「ゴードン大臣、非番の騎士を集めて2班に分けてください」
「どうなさるおつもりで?」とゴードン。
「早馬で各領主に通達する班と、国庫の小麦を街に下ろす班。人員配置は任せるよ」
「御意」
短く返し、ゴードンも部屋を出ていった。
「ロバート大臣、国庫の小麦の在庫を確認して。それと、他の領でも買い占めが起こっていた場合の分配準備もお願いします」
「はい。買い占めは小麦だけなのでしょうか?」
と尋ねるロバートの胸ポケットは、いつものようにお菓子の包み紙で膨れていた。
「今のところ確認できたのは小麦だけだ。でも、その後の状況はララが……」
扉近くに立つ妹に気づいて、リーゼルは声を向けた。
「…っあ! おかえり、ララ。どうだった?」
「今のところは小麦だけのようよ。でも、野菜の値段が少し上がっているみたいだったわ」
「野菜も買い占めか?」とリーゼル。
「天候の影響かと思うわ。先月は雨が多かったし、夏にしては気温が低いのも原因かもしれない」
「マイク大臣、野菜の収穫量は落ちているのか?」
リーゼルは農業担当のマイクに尋ねた。
「はい……。例年この時期は2割ほど収穫量が落ちます。ですが、ここひと月は天候にも恵まれたので、野菜の価格もすぐ戻るかと……」
図書館に入り浸る読書家のマイクは、覇気のない声でボソボソと答えた。
「ありがとう。今年の小麦の収穫見込みは?」
マイクは手元の資料をめくりながら答える。
「……種まきの時期から今までの気候をみると、5年前と類似しておりまして……昨年の1.5倍ほどの収穫が見込まれます。あ、もちろん災害や害虫の被害がなければ……ですが」
「ロバート大臣、国庫の小麦はどの程度まで分配可能だろうか?」
「……今後の飢饉や災害を考えると、半分までが限度でしょう」
「わかった。ではそのように手配を頼む」
リーゼルの指示に、大臣二人はそそくさと退室していった。
「兄様、なんだか……“王太子殿下”って感じね」
「僕も、そう思った」
二人は顔を見合わせて微笑む。束の間の、穏やかな兄妹の時間。
そんな様子を、扉の影からこっそり覗いているのは——
「ああっ、リーゼルが逞しくなったなあ」
嬉しそうに目を細める国王ヨハン。
「本来はあなたの仕事よ?」
王妃セリーヌが肘でヨハンの脇腹を軽くつつく。
そんな二人に、戻ってきたバロンが小声でひとこと。
「……お二人とも、微笑ましいのはわかりますが、執務室ですよ……! お仕事しましょう、お・し・ご・と!」




