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第26話 兄様、かっこよすぎます!

涙の幕が張ったララの瞳に映ったのは――


「大丈夫だよ、ララ。ここからは僕に任せて!」


温かい声で優しく語りかけるリーゼルの姿だった。


虚ろだったララの視線が、はっきりとリーゼルを捉え、軽く息を吸う。

動揺と混乱で霧がかかったような頭の中が、少しずつ晴れていくのがわかった。

冷たかった指先に感覚が戻る――

小刻みだった震えも、すっと止まった。


「兄様……ありがとう」


囁くような声だったが、しっかりとリーゼルの耳に届いた。

――目的を取り戻したララの瞳、微かに上がった口角。


「さぁ、これから忙しくなるよ。城へ戻ろう」

リーゼルは包み込んでいたララの手に、軽くトントンと合図を送った。


少しだけ考えた様子のララは言う。


「先に城へ戻って、お父様に報告をお願いできますか?」


「それはいいんだけど、ララはどうするの?」


「モーリスの話だと、『食料や日用品を備蓄した方がいい』って噂なんでしょ?

他にも何か買い占めや困り事がないか、確認しようと思って」


「わかったよ。それじゃ、街の様子はララに任せる。

僕は父上に報告したら、大臣たちを集めて準備を進めておくよ」


「ええ、お願いします。できるだけ早く合流できるようにしますわ」


「アーロン、ララについて行ってくれ! カイは僕と城へ戻る。

ララ、馬車は、今朝の場所に待たせておくよ。

状況を把握したら戻っておいで」


普段のリーゼルとは比べものにならないほど、テキパキと指示を出す姿に、

ララは嬉しそうに目を細めた。


――私……いつの頃からか、何でも自分がやらなきゃって思い込んでいたんだわ。

兄様がいるのに……。

私が支えなきゃ、しっかりしなきゃって思っていたけど、それって独りよがりだったのかも。

だって兄様は、ちゃんと私のことも、民のことも守ろうとしてくれている。

それに、城にはお父様もお母様もいる。支えてくれる臣下たちも……。


「さぁ、いくわよ! アーロン」


振り返ったララに、胸に手を当てたアーロンが、優しい顔で一礼する。

アーロンに軽く目で合図を送ったあと、ララは視線を移し、

「モーリス、朝市の視察に付き合ってくれるかしら?」と側に控えていたモーリスへ声をかけた。


「承知いたしました」

敬意を込めた視線で答え、モーリスは深く頭を下げた。


ララとリーゼルのやり取りを目の当たりにした街の人々の胸には、

何かが動き出したような、言葉にできない期待が宿っていた。


誰かが言った。


「……買い溜めはやめようか。ちょっと冷静になってもいいかもな……」


その声は、ララとリーゼルの耳にも届いた。


二人は頷き合い、そしてリーゼルは声を張った。


「皆が冷静に行動できることを、嬉しく思う。不安も大きいだろう。

でも国──僕たちは、すぐにでも対応することを約束する」


朝市にいた多くの人々は、静かに礼をとった。

そこにはもう、混乱を含んだ空気はなく、朝の清々しさだけが満ちていた。


ララはアーロン、モーリスと共に、朝市の賑わいの中へ進んでいった。

ちょっとだけ振り返ったララの顔には、迷いも、何かを一人で背負いこんだ様子も見受けられない。

いつもと同じ、でもどこか少し甘えたような表情で、リーゼルを見て微笑んだ。


「……もう、大丈夫みたいだな」


リーゼルはそっと呟き、馬車へ向かって歩き出した。


***


馬車を降りたリーゼルは、御者に朝市へ戻るよう指示を出す。

カイを引き連れ、颯爽とエントランスを通って廊下を進む。


向かい側から、たくさんの書類を抱えたバロン宰相が歩いてくる。


リーゼルは少し離れたところから声をかけた。


「バロン宰相、大臣たちを僕の執務室に集めてくれないか?」


「っは、はい。お急ぎのご様子ですが、何かございましたか?」


驚いた表情でバロンは尋ねた。


「街で小麦の買い占めが起こっている。急いで対処したい」


バロンの問いに、端的に答えたリーゼルは、すぐさま足早に去っていく。


取り残されたバロンはぽかんとした顔で呟いた。


「……ほほう? 王太子殿下……あんなにシャキッと……。

まるで、王女様の影武者ですかな……?」


テキパキと動くリーゼルの清々しい姿を初めて目にしたバロンは、少しばかり混乱していた。


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