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第21話 騎士の出発は皆んなでお見送り⁉︎

ララが託児室で過ごした翌朝――

城全体がどこかそわそわと浮き足立っていた。


「ねぇ、昨日の王女様ってさーーー」

「ーーー小さな子どもを抱っこしてたのよ」

「ーーーしかも託児所に行って、おやつまで用意してくれて」

「まるで……聖母……!」


騎士や侍女、使用人たちが口々に昨日の様子を伝え合っている。

中でも一番興奮気味に話していたのは、託児所に子どもを預けている母親たちだった。


「王女様が子どもたちの昼ごはんと、おやつまで用意してくださるのよ!」

「今まで知らなかったけど、小さな子どもには間食で栄養を補ってあげる必要があるんですって」

「私たち使用人や、その子どもたちまで気にかけてくださるなんて……」


そんな話題で、あちらこちらがにぎわっていた。


「なんだか今日は賑やかね……何かあったのかしら?」

厨房へ向かう道すがら、ララは小さく呟いた。


その隣で歩くランゼルは、昨日の出来事を思い出して口元が緩みそうになるのを、気合いで抑えていた。


「ねぇ、ランゼル。朝からなんだか、城中がそわそわしてない?」


突然話しかけられ、ランゼルはわずかに肩を跳ねさせた。


「っ! は、はい⁉︎……どうかされましたか?」


「聞いてなかったのね。……大したことではないの。お父様のところへ向かう前に、ちょっと厨房に顔を出すわ」

ララはそう言って、視線を前に戻した。



厨房は、ちょうど朝の片づけで皆が手を動かしている最中だった。

ララは奥にいる料理長を見つけると、周囲に挨拶しながら歩み寄る。


「おはよう、今日もご苦労様!」


「おはようございます、王女様」

「王女様、昨日はお疲れさまでした!」


あちこちから声が返るなか、料理長のもとへとたどり着く。


「おはよう、料理長。今日から託児室のこともお願いね」


「はい、お任せください。……それにしても、朝から昨日の王女様のご活躍が、城中で話題になっておりますよ」

なぜか自分のことのように誇らしげに語る料理長。


「そうなのね……それで賑やかに感じたのかしら」

ララは少し首をかしげた。


そこへ、副料理長のセドリックが両手いっぱいの包みを持って現れた。


「王女様、昨日ご依頼いただいたものをお持ちしました」


「ありがとう。助かるわ」

ララはにっこりと微笑み、包みを受け取るとランゼルに向き直った。


ランゼルは、思いがけずララから包みを渡されて、一瞬目を見開いた。


「ほら、ランゼル。あなたのことだから、お昼も取らずに進むんだろうなって思ったの――だから、お弁当よ」


「……ありがとうございます」


「サンドイッチにしてもらったの。これなら馬の上でも食べやすいでしょ?」


それを聞いていた料理長が、ふと尋ねた。


「騎士様は、どちらかへお出かけですか?」


「ええ、ビスの代替案として魔法を導入することになったでしょ? その件で、隣国ノルフェリアまで行ってもらうの」


「……それはご苦労様です。どうぞ道中お気をつけて。……それなら、今朝焼き上がったクッキーもお持ちください」

そう言って、ナッツ入りのクッキーがたっぷり詰まった包みを手渡してくれた。


そこへトトが現れ、少し困った顔でバスケットを差し出す。


「……サンドイッチとクッキーで、両手がふさがりそうですね……」



厨房での和やかなひとときの後、ララとランゼルは国王ヨハンの執務室へ向かった。


扉を軽く叩くと、宰相バロンが顔を出す。


「おはようございます。……昨日の託児室オカンぶりが、たいそう話題になっておりますよ」


「宰相、心の声が漏れてますよ」

ララは目を細めて軽くたしなめた。


「おはよう、ララ。昨日はお疲れさま。……ランゼルも、ありがとう」

国王ヨハンは二人をねぎらう。


「ランゼルには、今からノルフェリアへ出発してもらうが、準備は大丈夫か?」


「はい、問題ございません」


そう答えるランゼルに、バロンが親書の入った封筒を手渡す。


「道中は無理をせず、安全に配慮しながら進むように」

国王の言葉に、ランゼルは深く頷き、静かに礼をとった。



城門の前では、一頭の立派な白馬が待機していた。

その前に広がっていたのは――騎士や侍女、厨房の面々、託児室の子どもたちとその母親たち。

ランゼルに関わる、たくさんの人々が見送りに集まっていた。


その様子に、ララはランゼルを振り返って、にっこりと微笑む。


「素敵な出発ね」


少し恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに、ランゼルは頷いた。


「……はい」


二人が近づくと、子どもたちがキラキラとした視線を送ってくる。


「みんな、ランゼルの見送りに来てくれたの? ありがとう」

ララが微笑みかけたその時、小さな影がとことこと近づいてきた。


ランゼルの足元にぴたっとしがみついたのは、エマだった。


「きしの……おとうさん……、おしごと……がんばってね……」


ランゼルは思わずエマを抱き上げ、目を合わせて優しく語りかける。


「ありがとう、エマ。エマも、みんなと仲良くお留守番、がんばるんだよ」


嬉しそうなエマ。

その様子を、ララが穏やかな笑顔で見守っている。


「……親子みたいだね……」

誰かがぽつりと呟いた。


やがて馬にまたがったランゼルに、ララが声をかける。


「ちゃんとご飯食べて、休憩してね。いい? 近道だからって森の中を突っ切るなんて、絶対ダメよ!」


その口調はまるで、息子を見送る母のようで――


「……オカン……だな……」

どこかから、再びそんな声が漏れ聞こえた。


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