第20話 本日の任務完了!でも子ども達は帰りたくない⁉︎
子どもたちの寝顔を眺めながら、ララはランゼルと静かにお茶を飲んでいた。
午後の優しい風が吹き抜けるなか、子どもたちを穏やかに見守るララの横顔に、ランゼルは思わず見惚れていた。
ふたりはしばらく言葉もなく、ただその穏やかな時間を静かに味わっていた。
そこへ元気な声が響いた。
「果物、お持ちしましたー!」
託児室の入り口に現れたのは、コック見習いのロイと、皮むき担当のトトだった。
ララとランゼルは思わず一斉に振り返り、口元に指を当てて「しーっ」とジェスチャーを送る。
ハッとしたロイとトトは口を一文字に結び、その場で固まってしまった。
ララは室内を見回し、誰も目を覚ましていないことにホッとしたように肩の力を抜いた。
微笑みながらふたりに近づくと、
「ロイもトトもありがとう。今、ちょうど子どもたちがお昼寝中なの。果物はこちらでもらうわ」
と、カットされた果物の入ったバスケットを受け取った。
室内を見渡していたトトが、小さく笑いながら呟いた。
「なんだか、実家に帰ってきたみたいです」
「トトのお家も、大家族なの?」とララがたずねる。
「はい。うちではいつも、お母ちゃんが昼ごはんのあとに、チビたちを寝かせていました」
ララはふと視線を上げ、考えるように言った。
「ねぇ、トト。こんな小さな子たちの食事って、大人と同じで朝・昼・晩の三回だけ?午前や午後に、おやつの時間ってあったりするのかしら?」
「いえ、うちでは1日3回の食事だけで、おやつは聞いたことがないです」
「僕の家でも、おやつの時間はありませんでした」とロイも答える。
「そう……ありがとう」
そんな会話を交わしていると、料理長が静かに託児室へ入ってきた。
「王女様、果物はこのような感じでよろしかったでしょうか?」
ララは笑顔で料理長を見て、
「ええ、ありがとう。量も大きさも、バッチリね」と感謝を伝えた。
料理長たちは子どもたちの寝顔を微笑ましそうに見守り、一礼して退室しようとしたとき──
ララがハッとしたように声をかけた。
「料理長、明日から子どもたちの昼食とおやつを、厨房にお願いすることは可能かしら?」
「……⁉︎ 何かございましたか?」
料理長の問いに、ララは落ち着いた声で語り始めた。
「ここの子どもたちの親って、お城で働いているでしょう? お勤めの人たちは、皆“賄い”があるわよね?」
「はい、そうですね」
ララは少し何かを思い出すように、言葉を続けた。
「朝の忙しい時間に、子どものお昼ごはんとおやつまで準備するのって、本当に大変なの。
それに、小さな子どもほど一度に食べられる量が少ないでしょう? 一回の食事だけじゃ、十分な栄養をとれないのよ」
料理長は黙って耳を傾けている。
「だから間食で栄養を補う必要があるの。おやつっていっても、お菓子じゃなくて、パンや果物とかね。
足りない栄養を、自然なかたちで補給してあげたいの」
ララの言葉に、料理長の目に深い敬意が浮かんだ。
――王女様は、本当にこの子たちのことを考えてくださっている……なんと有難いことか。
「託児室の食事とおやつの件、厨房にお任せください!」
料理長は胸を張って力強く答えた。
ララはとても嬉しそうに微笑み、
「ありがとう。頼りにしているわ」と言った。
――――
やがて子どもたちがお昼寝から目を覚まし、テーブルの上の果物を見て歓声を上げた。
午後のおやつの時間も、皆で楽しそうに準備に取りかかり、和やかな時間が流れた。
日が傾き始めた夕方。庭で遊んでいた子どもたちのもとへ、親たちが迎えにやって来た。
「王女様、騎士様、本日は本当にありがとうございました」
母親たちは深く頭を下げる。
「気にしないで大丈夫よ。皆、本当にいい子たちばかりだったわ」
と、ララは穏やかに微笑む。
しかし──
親が迎えに来ても、子どもたちはララとランゼルのそばを離れようとしない。
「おうちに帰りましょう」と声をかけられても、
「いやー」とララのスカートを握りしめたのは、マルクだった。
ララはマルクの頭を優しく撫でながら語りかけた。
「今日はマルクとリンがたくさんお手伝いしてくれたから、本当に助かったの。ありがとうね」
マルクと目線を合わせ、しゃがみこんで語りかける。
「マルクに、もうひとつお願いがあるんだけど……いいかな?」
「うん、いいよ!」と元気な返事。
「今度はね、マルクのお母さんを手伝ってほしいの。お母さんは、これまで一生懸命お城のお仕事をしてきたの。
これからは、お家のお仕事もたくさんあるでしょ? だから、マルクにお願いしたいの」
「わかった! いまから、おかさんをてつだうよ!」
そう言って、マルクはララのそばから母親のもとへ駆けていった。
その様子に、母親たちは思わず涙ぐんだ。
まさか、王女様が自分たちの日常にここまで寄り添ってくれるなんて──
ララは続けて、料理長にお願いした件を伝える。
「そうそう、明日からは、子どもたちの昼食とおやつを厨房の皆が用意してくれるわよ!」
その言葉に母親たちはざわめき立ち、興奮した様子で口々に礼を述べた。
「ありがとうございます。本当に助かります……!」
「この子たちに、元気に大きく育ってほしいから。
それに、少しでもあなたたちの力になれたら、私も嬉しいわ」
ララの言葉に、またひときわ感謝の声が上がる。
――――
その和やかな光景を、やや離れた場所からそっと見守る3人の影。
国王ヨハン、王妃セリーヌ、そして宰相バロンだった。
ララの様子を目にしたヨハンは、しみじみと呟いた。
「ララはまるで……聖母、いや、“国母”のようだな……」
すると、すかさずセリーヌが肘でヨハンの横腹をつつく。
「国母はこの私でしょ?」
そのやり取りを横で見ていたバロンが、小さく囁いた。
「……王女様は……聖母より、“オカン”がお似合いですな……」




