第2話 もったいないの目覚め
13歳の誕生日。
ララは王妃セリーヌのプロデュースで、華やかに着飾られていた。
宝石をあしらった花の髪飾りに、マリーゴールドを思わせるドレス。
首元には一際目を引くピンクダイヤモンド。
鏡に映るのは、誰もが息を呑む美しい王女――のはずだったが、
「……このチョーカー、少し重いわね」
「誕生日ケーキみたいに私まで、デコレーションされている気分だわ……」
どこか冷静に、そんな感想を漏らすララ。
豪華な衣装や宝飾品にも浮かれることなく、表情は醒めていた。
「ララ様は昔から、派手なものにあまり興味を示されませんでしたね」
と、侍女がぽつり。
本人は気づいていないが、周囲からは“ちょっと変わったお姫様”として知られていた。
支度を終え、大広間へ足を運んだララ。
シャンデリアの明かりに目を細め、巨大なケーキと山のような料理を見た瞬間、
ふと、頭の中に浮かぶ言葉――
「……ずいぶん派手ね。これは、どれくらい食べ残るのかしら」
「……食材の調達費、相当な額になっていそう」
奇妙な感覚。
自分でもわからない“基準”が、頭の中に蘇る。
「……もったいない」
その言葉が脳内でぽつんと反響した瞬間、ざわついていた世界が、嘘みたいに静まり返った。
――そして、ララは思い出した。
かつて、異世界で「家庭を守る主婦」だった記憶を。
日々の献立に悩み、家計簿とにらめっこし、子どもに小言を言いながらも寄り添ってきた、そんな日々。
「……思い出した。私、前は“お母さん”だったのね。」
そう呟いたララの目は、少しだけ変わっていた。
その瞬間、
「ただの達観した少女」は、
「上品にして最強のオカン王女」へと、静かにアップデートされたのだった。
……あれから、もう五年か。
あの頃に比べれば、ふわふわのドレスも、大げさなケーキも控えめになったけど――
それでも、まだ色々ともったいないのよね。
廊下の騒動を仲裁したララは、静かに歩き出す。
向かう先は、王太子・リーゼルの執務室。
「ビスの採掘量、また下がったみたいね……。ちゃんと現実見てるかしら、兄さま」
ぽつりと呟いて、ひとり小さく苦笑する。
王国の命綱とも言える“ビス”。
その枯渇は、もはや無視できない段階に来ていた。
誰かが気づき、動かなければ――
この国は、ゆっくりと傾いていく。
「……兄さまにも報告は上がってるはずよね。……でも、対策は――まだ、よね」
ララは、しっかりと先を見据えた目で、足取り軽く進むのだった。
まるで、進む先の景色がもう見えているかのように。
――今日も、王女ララは、王国を“家計目線”で救おうとしている。