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第17話 託児室デビュー!王女のおやつ作戦

「さぁ、これでいいわね!」


鏡の前でくるりと一回転。簡素なワンピースに白いエプロン、髪を高い位置で結んだララは気合い十分。


扉の外で待っていたランゼルに、にこっと笑って言った。


「ちょっと厨房に寄っていくわよ!」


軽やかな足取りで歩き出すララに、ランゼルも静かに歩をそろえる。


――普段のドレス姿も美しいが、このような装いもまた、王女らしいな。


歩くたび揺れるシルバーブロンドを目で追いながら、ランゼルは思った。



「おはよう、今日もお疲れさま!」


厨房に入るなり、明るく声をかけるララ。その瞬間、入り口近くにいた見習いコックのロイが、目をまんまるに見開いた。


「お、おはようございますっ……って、えっ⁉︎ 王女さま⁉︎」


周囲のスタッフたちも慌てて頭を下げるが、顔には明らかな困惑の色。


「朝の片付けで忙しいときにごめんなさいね」


ララは気にする様子もなく、厨房全体を見渡す。


――うん、無駄な照明はついてないし、かまどの火も落ちてる。合格。


満足そうに微笑むララに、料理長が声をかけてきた。


「王女さま、おはようございます。本日はどのようなご用件で?」


「おはよう。厨房がしっかり節約できていて安心したわ。皆さんの協力に感謝しているの」


にこやかにそう返したララは、続けて言った。


「実はお願いがあって来たの。小ぶりで、柔らかいパンってあるかしら?」


「パンですか……?」


「ええ、このくらいの大きさの」

両手で輪を作って見せるララ。


「今朝焼いた分で、少し小ぶりなものがありますが……」と料理長が首をかしげる。


「それを10個ほど、いただいてもいいかしら?」


「はい、ご準備いたしますので、少々お待ちください」


そう答えた料理長のそばに、皮むき担当の少年・トトがバスケットを持ってやってきた。


「料理長、これに入れたらどうです?」


「ありがとう、助かるわ」とララが笑うと、料理長はパン担当に声をかけて準備を進めた。


ふと、料理長が尋ねる。


「ところで王女さま。今日は……いつもと装いが違うようで」


「そうなの、今日は託児室の担当なの!」


ぱっと笑顔を咲かせるララに、料理長は「……?」と完全にフリーズした。


「託児室……担当? あの、使用人の子どもたちが集まっている……あの託児室ですか?」


「そうよ。今日の担当者が体調不良らしくてね。ちょうど運用の様子も気になっていたところだったから、いい機会だと思って」


――うちの王女様は本当にすごい……。

使用人の子どもの世話なんて、本来なら王族がすることじゃないのに。


まぶしそうに目を細める料理長。


「そうそう。午後のティータイムは取らないから、私の分の焼き菓子は準備しなくて大丈夫よ。その代わり、バナナやリンゴなどの果物を小さくカットして、託児室に届けてくれる?」


「……かしこまりました。ですが……王女様、ひとつお尋ねしても?」


「何かしら?」


「……昼前のパンと、午後の果物……いったい何にお使いになるので?」


問いに、ララはきょとんとした顔で、当然のように答える。


「子どもたちのおやつよ!」


「おやつ……ですか?」


「そう。一度にたくさん食べられないから、数回に分けて栄養を取る必要があるのよ。小さな子って、そういうものでしょ?」


「……はあ……そうなのですか……」


――あれ? もしかして、こっちの世界ではそれが常識じゃないの?

私たちは当たり前のように午前と午後に“お茶の時間”があったけど……

あれって、もしかして貴族や王族だけ?


使用人の子どもたちの栄養管理、どうなってるんだろう。あとで確認しなくちゃ。


やがてパンが詰められたバスケットを受け取り、ララはぱっと笑って言った。


「ありがとう。それじゃ、行ってくるわね!」


軽く手を振って出ていくララ。


その後ろ姿を見送りながら、誰とも知れぬ声がぽつりと漏らす。


「……王女さまが、だんだん“お母ちゃん”に見えてくる……」


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