第11話 魔法? 水晶? で、誰が払うの?
重苦しい空気の中、年配の貴族がやや焦ったように声を上げた。
「で、では……周辺の諸侯領からビスを買い上げるのはどうでしょう? まだ鉱区が残っている地域もあるはずです!」
わずかに希望を見出すようなその提案に、場内がざわついた。
だが、ララは静かに答える。
「周辺諸侯も、アルマティアと同様に、ビスの採掘量は減少傾向です。期待はできません」
そのまま落ち着いた口調で続けた。
「北のノルフェリア公国では、“魔法”をエネルギー源としてすでに本格稼働しています。
東のイゼルト連邦では、“水晶に封じた精霊力”を使い、エネルギー供給体制を築いています」
淡々と事実を並べるララに、反論の声は出なかった。
しかし、沈黙を破ったのは別の保守派の貴族だった。
「ならば──海を挟んだ帝国から輸入すればよいのでは? 交易の道はまだ開かれておりますぞ!」
すると他の保守派たちも、一斉に賛同の声を上げ始めた。
「賛成です!」「輸入は現実的な手段だ!」
だが、ララは揺れない。むしろ、さらに冷静だった。
「では、その費用はどこから出すのですか?」
唐突な問いに、声を上げていた者たちが口をつぐむ。
「海を渡るには、多額の資金が必要です。さらに、国境を越えれば関税もかかる。
現在の我が国の財政で、それを賄える余裕があるとお考えですか?」
再び静まり返る場内。ようやく誰かが絞り出した。
「で、では……民からの税を、今より引き上げればよいのでは……?」
その言葉に、ララの瞳が鋭く光る。
「ビスが枯渇する不安の中で、さらに増税までして──民を追い詰めるのですか?」
場内の空気が、一気に張り詰めた。
「民あってこその国です。
国を支えるのは、政治でも財でもありません。そこに暮らす“人々”です」
ララの声は静かだったが、その意志には一分の揺るぎもなかった。
そんな中、再び別の貴族が立ち上がる。
「……では、水晶技術にしましょう。魔法なんて、現実的ではない。誰も使っていませんぞ」
「そうだ、魔法は無理だ!」
同調する声が、次々と重なっていく。
ララは一度うなずき、静かに口を開いた。
「水晶技術の導入も検討しました。けれど、初期導入のコストが非常に高く、今の財政では現実的とは言えません」
「確かに──アルマティアでは魔法を使える者はごくわずかです。
ですが、“魔力”そのものは、多くの国民が持っています。それは皆さまもご存知ですよね?」
数人の貴族が、気まずそうにうなずいた。
しかし、誰かがぼそりと呟く。
「……だがしかし、使える気がしない……」
「そうだ、現実味がない……」
そんな声に、ララはふっと笑みを浮かべた。
「あら、私も使えませんよ」
場内が一瞬ざわめく。
「でも、“魔力がある”という土台があるのなら──あとは、“どうやって使うか”を学べばいいだけの話です。
できないと決めつけるのではなく、できる方法を考える。それが、今必要な姿勢だと私は思います」
その言葉に、若い貴族たちの間でざわめきが起きた。
保守派、改革派、判断を保留している中立派──思惑の異なる者たちが混在する議場の中で、
ゆっくりと立ち上がったのは、経済担当・ロバート大臣の息子、ジュードだった。
「……僕も、最初は魔法なんて絵空事だと思ってました」
静かな声だったが、どこか芯のある声。
「でも、王女の言葉を聞いて気づいたんです。
不安なのは、未来が見えないから。
でも、その未来を作るのは、僕たち一人ひとりの選択だって」
その目は、まっすぐにララを見ていた。
「危機に直面している今こそ、手を取り合うべきです。派閥なんて、関係ない。
この国をどうするかは、僕たち次第なんです」
沈黙の中、誰かが小さくうなずいた。
それは、これまで一言も発言していなかった中立派の一人だった。
少しずつ──空気が、変わり始めていた。