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メレラ石の販路に救われた社交

 諸先輩方にメレラ石について必ず両親に相談する旨をお約束して、軽食を摘まんでダンスを踊ってお酒を飲んで、楽しませていただいた。それでも、夜会に慣れていない子爵家のメルヴィ嬢はお疲れであろうからと、皆様より先に退出させていただいた。

 何故かルミヤルヴィ先輩のおばあ様とダンスを踊ることになったけれど、まあ良い思い出になろう。あなたは大切にしてあげなさいね、ととても念を押された。どうやら、メルヴィ嬢を気に入って下さったようだ。


「楽しかったですね」

「ええ、楽しかったですわ」


 帰りの馬車の中。外はもう暗く、カーテンを引いていようがいまいが暗いものは暗いのだ。疲れた体を互いに座席に預けている。


「沢山踊っておいででしたね」

「途中で数えるのをやめる程度には踊りましたね。皆様、メルヴィ嬢に同情されておいででしたよ。これで、この後の社交がやりやすくなるでしょう」

「そうだと、よろしいのですけれど」

「多分私があなたをないがしろにしない限りは、よろしいと思いますよ」

「する予定、ございますの?」

「ありましたら今日のような事にはなっておりませんね」


 二人で笑いあう。

 今日の夜会の始まりはまあ大変であったが、終わり良ければ総て良し。もうそれで終わらせてもよろしかろう程に、疲れている。

 いや、自分は帰宅後にやらねばならないことがあるのだが。


「それでええと。今日の。今日のことなのですけれど」

「おそらくクレーモア子爵もお待ちでしょうから、まとめてお話しますね」

「成功した、という認識でよろしいの?」

「成功というよりは大勝利した、という方がしっくりくるかと」


 目的はメルヴィ嬢が今後も社交界で肩身の狭い思いをしないようにさせる、であった。婚約者のいる身でありながら、他の男と婚約をするような子女ではない、と。

 クラミ子爵家がどのように振る舞ってくるか、でまあ話は変わってくるわけであるが。割と想定の中でのよろしくない事をされてきたように思う。一番軽いものであれば、ルミヤルヴィ侯爵家のどなたかを使って言付ける程度であっただろう。次点が、休憩室でお話合いあたりか。

 あちらとしては不完全燃焼であろうが、時期伯爵夫人であるとか、前侯爵夫人とかを相手に、子爵がうまく立ち回れるとは思えない。自分? 敵対した時点で敗北であろう、そんなもの。


「ああただ、あの時言えなかった言葉を、今言ってしまってもよろしいですか」

「そうですわね。あの場で言っていけない言葉は、この後も言ってはいけませんでしょうし」

「ルミヤルヴィ侯爵家は、笑えない道化を雇われたのですか、と言いそうになりました」


 クラミ子爵が名乗らなかった都合上、あの男は、ルミヤルヴィ侯爵家の夜会に招待された誰かであり、その責はルミヤルヴィ侯爵家が負うことになる。そうであるのであれば、あれはクラミ子爵であろうがルミヤルヴィ侯爵家の雇った道化であろうが、同じことなのである。


「それは、ここだけのお話になさってくださいませ」

「ええ。ルミヤルヴィ侯爵家の夜会でよろしかった。ヒーデンマー侯爵家かマーサロ侯爵家であれば口に出したでしょう」

「それは、どちらもいけないのでは?」

「ヒーデンマー侯爵家は我が家と古くから仲が良いですし、マーサロ侯爵家は友人の家ですから、侯爵閣下ご本人がいらっしゃらない、私が先輩方の立場であれば、口にしても怒られなさそうですからね」

「パーヴァリ様も、悪ノリはなさるのですね」

「ええ。ですから今回もメラルティン伯爵令息の立場しか名乗っておりませんよ」

「どう言うことですの?」

「私はもう子爵位を賜っておりますから。クラミ子爵閣下は、私と同じ地位、ということになりますね」


 ぐったりと馬車の座席にもたれかかりながら、そんな益体もない事を話す。ガタガタと揺れるのが、また眠気を誘う。まあ、たまに石にでも乗り上げたのか大きく跳ねて、眠気も覚めるわけだが。


「迂闊なことを言えば係累に迷惑が掛かります。父であればまあよろしいですが、その内メラルティン伯爵家は兄が継がれます。その後は、兄夫婦の子供が継ぐでしょう。私個人の名前であれば言ってしまったかもしれませんが、私の継がない名前では迂闊なことは言えません」

「その判断は出来たのですね」

「ええ。仲の悪くない家で、後ろにいらっしゃったエンホ伯爵令息のような立場であれば、終わった後に口にしたかもしれません」


 それはおそらく、この話はこれでおしまい。そういう合図になることであろう。まあ今日の私の立場では、絶対に口には出せない類の冗談だ。それは理解しているから、今まで黙っていたのである。メルヴィ嬢しかいないから、気が抜けた、というわけだ。


 馬車はガタゴトと、夜道を走る。

 クレーモア子爵家に到着したら、招き入れられた。お疲れでしょうが、と執事に案内された、そろそろ慣れてきた玄関脇の応接室で、子爵ご夫妻がお待ちであった。


「取り急ぎ、メルヴィ嬢は今後も社交界で肩身の狭い思いはしないで済みそうですよ」

「そうですか。ああ、それはよかった」

「ようございました」


 出された紅茶に口を付けて、一息付けさせて貰う。メルヴィ嬢のご両親は、夜会の間気を揉んでいらしただろう。ご連絡が遅くなった旨を、謝らなくては。


「詳しくは割愛しますが、あとはルミヤルヴィ侯爵家とメラルティン伯爵家で話し合う運びとなりました。自分がメルヴィ嬢を大切にしている間は、まあ、問題もないでしょう」

「パーヴァリ様ったら」


 いや、ルミヤルヴィ前侯爵夫人に釘を刺されたのだから、そこは大事な範囲であろう。後は放っておいても収束するはずである。ルミヤルヴィ侯爵が引き取るといったのだから、我が家の方で文句を付けぬ限り、問題はない。

 まあ個人的に問題があるとするなら、噂になってしまっている点か。何故侯爵家の夜会で絡んでくるのだ。子爵が。伯爵令息に。

 クラミ子爵令息が絡んで来てくれるのであればあの場でやり取りしてもよろしかったかもしれないが、あの場でやり取りさせていただいたのは、おそらく子爵閣下本人である。よくまああれで貴族を務めていられる。

 明日出仕したら……いや明日は出仕しないのだった。次に出仕したら、少し調べてみよう。

 ああいう素行がよろしくない貴族は、本来の職務の方でもよろしくなかったりするのだ。まあ、殿下に報告する前に、ルミヤルヴィ侯爵令息にご連絡差し上げるのが、後輩の責務であろう。

 流石に疲れているのと、実家での報告もあるため、退出させていただくこととした。明後日の婚約のお披露目式のお約束をして、メルヴィ嬢に見送られてまた馬車に乗る。

 とりあえず明日は一日休みであるので、方々に手紙を書く日になるであろう。メルラ石について、とか。

実はパーヴァリの目はメルラ石と同じく緑で中央の虹彩が明るい、という設定にしていました。

覗き込むと虹彩が灯火のように見える、という設定があるんですが、そんなの本人が知るはずもなく。

知っているのはおそらく両親とメルヴィだけです。

兄と姉はどうだろうな……。

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