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君に心を配ることが苦ではないのなら、それを愛と呼ぶのだろう  作者: 稲葉 鈴


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25/34

ルミヤルヴィ侯爵家での夜会に向かう前に

長い

 本日は、ルミヤルヴィ侯爵家での夜会がある。準礼装でよろしいとの事なので、準備はそれほど大変でもない。

 クラミ子爵家の方々はルミヤルヴィ侯爵家の派閥に属しておられるのでお会いするだろうが、まあその時はその時であろう。ルミヤルヴィ侯爵令息にはすでに謝罪させていただきたいと連絡済である。どうやら自分は、知らぬ間にクラミ子爵令息の婚約者を連れまわしていたようなので。

 ここ数日と同じように、メルヴィ嬢を馬車でお迎えに行く。今朝の内に伝令が少し早めに伺う旨を伝えてあるから、夕方の内にクレーモア子爵家へと到着した。

 昨日であれば玄関口でメルヴィ嬢と合流し、馬車に乗るが。本日は玄関近くの応接室へと案内される。


「この度は、ご迷惑を」

「よくあるめぐりあわせの一つです。そちらには、クラミ子爵家から抗議は届いておりませんか」

「自分以外の所に来ていましたら分かりませんが、届いてはおりません。妻と子供たちにも確認しましたが、届いていないと」

「左様ですか」


 本当に婚約をしていたのであれば、その抗議の対象は我が家ではなく、クレーモア子爵家になるはずである。約束を破って他の男と出歩き、婚約を成したのはメルヴィ嬢なのだから。


 本日の行き先は先日いきなりクレーモア子爵家の夜会に飛び入り参加されたルミヤルヴィ侯爵家の夜会である。メルヴィ嬢が参加しない、ということは出来ない。


「昨日の内に、父よりメラルティン伯爵家の名の元に返答をしていただいております。また本日、丁度、ルミヤルヴィ侯爵令息にお会いしますから、謝罪をいたした方がよろしいでしょうね」

「申し訳ない、パーヴァリ君。御父上にも、お手を煩わせて」

「あまりお気に病まないでください、子爵。クレーモア子爵家に言ってきていない、ということが分かりましたので、ええ。戦いようはありますから」


 昨日、自分が帰宅するまでに母が調べておいて下さったのだが、ルミヤルヴィ侯爵家とクラミ子爵家は遠戚であるという。だからルミヤルヴィ先輩のあの態度であったのかと思う反面、本日のルミヤルヴィ侯爵家の夜会は、あちらに味方が多い、と、思っているのだろうな、とも思う。


「なんか申し訳ありません」

「メルヴィ嬢。あまり悩まないでください。単に、私が気に入らないだけでしょうから」


 本日のメルヴィ嬢のドレスは、淡いグリーンに、オレンジで花の刺繍が散らされているものだ。自分が贈ったラリエットは、今日は髪に編み込まれている。

 今日の自分のタキシードは紺のようなグレーのような、確かメイドが何色だか言っていたが、まあよく覚えていないがそんな色だ。彼女が薄いので、添え物としては悪くなかろう。

 馬車の中で、メルヴィ嬢は泣きそうになっている。まあ、整いかけた婚約に物言いがついたら、年頃の令嬢は傷つくだろう。お可哀想に。


「パーヴァリ様はなんとも思われませんの」

「手間をかけさせてくれるな、と、思いますね」


 クラミ子爵令息とは、学院の頃から、あちらが一方的にこちらに絡んで来ていた、という仲である。少なくとも、自分はそう思っている。あちらがどう思っているかはこの際、関係ないのである。


「あれは、あなたに贈り物をしましたか?」

「いいえ。お手紙は、いただきましたけれど」

「家同士で、婚約のお話は?」

「お父様は、特に何もおっしゃっていませんでした。パーヴァリ様のお家からの方が、早かったと思います」

「まあ、クラミ子爵家からもお話がきていたら、そう仰るでしょうね」


 領地もある子爵家の当主に嫁ぐのと、領地もなく自身も働かねばならないかもしれない自分に嫁ぐのは、どちらを選ぶかはまあ人によるであろう。自身への条件だけで愛の無い結婚でいいのであればあちらであろうし、家同士のことまで考えて、その上で自分を好ましいと思って選んでいただけたのだと思いたいところだ。


「まあしかし自分は、あちらにもこちらにもあなたを伴って顔を出しておりますが、婚約のお披露目式はまだである、と口にしておりますから、こちらの方が誠実に見えるでしょうね」

「どう言うことですの?」

「我が家を貶めるために、クラミ子爵家はあなたを婚約者であると、言い切ったんですよ」


 女性陣が婚約のお披露目式を大切にしている。その思いを踏みにじって婚約者であると言い切るその行いは、まあ、印象はよろしくなかろう。

 どこにって、社交界に、である。

 しかし何も分からぬとしてはメルヴィ嬢もただただ不安であろうから、少しだけお話をしておくべきであろう。幸い、もうしばらく馬車は走っているのだし。

 簡単に言うと、この国の社交界には派閥が存在する。この国だけではなくどこでもそうであろうが、それは一旦置いておく。この国の話である。それはざっくり五つの侯爵家、キーア様のご生家であるヒーデンマー侯爵家、殿下の側近であらせられるダーヴィド様のご生家であるフィルップラ侯爵家、先日音楽会にご招待されたケッロサルミ侯爵家、これから夜会に伺うルミヤルヴィ侯爵家。それからわが友ケルッコの実家であるマーサロ侯爵家を旗頭にしている。

 歴史の話をするのであれば、我が国が独立した時王家に着いてきたその五家が中心となって、この国を発展させたわけだ。そうして我々伯爵家以下の家は、領地の近い侯爵家を支え、守られる形で、歴史を紡いできた。

 クラミ子爵家にとっては、それがルミヤルヴィ侯爵家になるのである。従って、今回もルミヤルヴィ侯爵家が護ってくれる、と判断するかもしれない。そうした場合、ルミヤルヴィ侯爵家の夜会にて、ちょっと問答が発生するかもしれない、というお話だ。


「まあ、そのことは気にせず、本日も楽しんでください。ルミヤルヴィ侯爵家の夜会ですから」


 これまでメルヴィ嬢を伴って参加してきたのは、ほとんどが伯爵家の夜会である。ケッロサルミ侯爵家のあれは昼間の音楽会であったから、華やかさも違うだろう。

 楽しめるかしら、と悩むメルヴィ嬢をよそに、馬車はルミヤルヴィ侯爵家へと到着する。門をくぐる前に馬車は速度を落とした。


「ここからが長いのですよ」


 馬車には大きな窓があるから、カーテンをめくれば外が見える。


「森ですの……?」

「最初に来たときは、同じことを思いましたね」


 ルミヤルヴィ先輩は楽しい事が好きである。夜会もお茶会も大好きである。最近はそれほど呼ばれることはなくなったが、卒業後は後輩全員に招待状を送っているのではないかという頻度で呼ばれていた。自分は仕事の都合もあってお断りを続けている内に、呼ばれる頻度が減り、今年は来なかった。去年はどうだったろうか。

 馬車は右手に本館を見ながら進む。


「大きなお屋敷ですのね」

「キースキ伯爵家とはまた違った意味で大きいですね」


 あちらは近隣で働く者達の寮も兼ねているから大きいが、こちらは単純に古くて大きい。本館に泊まったことはないが、子供の頃はよく迷ったと先輩から聞いている。

 ぐるりと本館の脇を通り抜けて、別館が見えてくる。馬車の中からだと身を乗り出しでもしないと見えなかろうが、音楽は聞こえてきた。


「ルミヤルヴィ侯爵家には、専用の別館があるんですよ」

「流石は侯爵家ですね」


 ちなみに正門の側にも小さな別館があって、そちらは音楽会などで使われる小講堂であるという。あちらの奥には温室もあるし、中庭もとても広かった記憶がある。何度かは、伺っているのだ。


「なにを言われても、どんな目で見られても。ご令嬢なのですから、胸を張って顎を引いて、ほほ笑みを絶やさないでください。困ったら、私を見上げて」


 相手は子爵家である。メルヴィ嬢も子爵家のご令嬢であるから口には出さないが、所詮子爵家なのである。

 あちらの勝利条件は知らぬが、こちらの勝利条件はただ一つ。メルヴィ嬢が今後、社交界で非難されないこと、である。居心地の悪い場所にはしたくない。

 父と母ともそこは確認した。兄夫婦も了承してくれているし、お披露目のお式以降は姉夫婦もそのように動いてくれるであろう。


「よろしいですね。絶対に、食って掛からないでくださいね」


 そうメルヴィ嬢に念を押して、自分達は馬車から降りる。

 とても腹立たしい事に、この問題の中心にいるはずの彼女はもう、この問題について口を出すことが出来なくなってしまっているのである。メルヴィ嬢が取り乱してしまえば、彼女は本当にクラミ子爵家と婚約していながら自分に乗り換えた女性だと目されてしまうのだ。そうなってしまえば今後、彼女は社交界での居場所を失ってしまうだろう。王城でのお勤めも難しくなってしまうかもしれない。


 クラミ子爵家の皆々様が、メルヴィ嬢のことを考えておられないことが、とても腹立たしい。

物語としてはメルヴィに何も教えないであなたは笑っていればいい、ってした方がいいのでしょうけれど、パーヴァリはちゃんと教えたい方なので教えておきました。

しかし広いんだよな、侯爵家。いや設定したの私だけどさ。なんで敷地内にではないがあるんだよ。

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