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5000文字のラブレター


「草介! あんたまた約束忘れたでしょ、このバカ!」


 幼馴染の花梨が激怒している。


「わ、わりい、ちょっとぼうっとしてて」


「はっ? これで何回目よ。こっちはせっかくおしゃれして待ってたのにさ」


 俺は記憶が保持できない。一回で5000文字の音しか記憶できない。

 頭の中に妙なタイマーがあって、言葉を聞くたびにカウンターが回る。

 5000文字なんてあっという間だ。


 そう、現在進行系でしか生きられないんだ。



 あっ、やべ、カウンターがゼロになる。

 ……花梨が散々喋りまくったからな。


 だからもうこの場面は忘れてしまう。



 ***



 教室ではみんなが喋っている言葉を聞いてしまうからすぐに記憶をなくしてしまう。

 でも不思議なもんなんだよ。適当にしていても意外と生活できるんだよな。


 もちろん授業なんて覚えてられねえ。


 この病気が発症した17歳の時までの記憶と、そのさきの5000文字しか頭に残らねえ。



 まあでもいいんだ。一番大切な『幼馴染の花梨』の記憶だけは積み重なっていく。


 なんでだろ?




 ***




「あんたまた忘れたの!? はぁ、何回目よ。私達付き合ってるのよ」


「はぁ〜!? つ、付き合ってんのか?」


「バカ、あんたから告白してきたでしょ」


「そ、そっか、ははっ、そっか、そうなのか!!」 


 その後、すぐに記憶をなくす。

 何も覚えていない。


「走るよ、草介!」


「はっ? 今度は何が起こってんだよ!?」


「別になんでもいいじゃん!」



 ***



 俺の症状は変わらなかった。


「なんで5000文字なんだろうな? 花梨わかるか?」


「バカ、私にわかるわけないじゃん」


「花梨も馬鹿だもんな」


「あんたが一番バカよ……」



 ***




 5000文字の中でしか生きられない俺。


 何回繰り返したんだろ? カウンターの横にある数字。


 50000を指していた。


 だんだんわかってきた。


 俺はただの物語だ。


 5000文字で書いたラブレター。


 それを花梨に送ろうとした。


 その日、俺は事故にあって死んだ。


 俺が気がつくと花梨が必ずそばにいる。


 俺は懐にあのラブレターをいつも持っていた。


 思えば、いつも場面が途切れ途切れだった。


 これ、花梨が書いた物語の中なんだ。


 5000文字を50000回目。


 とんでもない時間の花梨との思い出。


 なんでだろう、今回で最後だってわかった。


 花梨の手が動く。


 それは【完】という一文字。


 俺は必死で手を伸ばす。


 手を伸ばしてーー 


 手を伸ばして……。




 ****




 草介が死んだ。


 私に送ろうとしたラブレター。


 5000文字も書いたって言われた。


 そのラブレターを読むことができなかった。


 あいつバカなんだもん。


 今日の放課後、ラブレター送るって私に言ってさ、もう告白じゃないそれ。


 そのくせ自分は、事故にあって、ラブレターもぐちゃぐちゃで……。


 だから、私は5000文字に執着している。


 文章を書くと草介が隣にいるように感じられるんだ。


 だから私は書いた。


 ひたすら草介の事を書いた。


 いつか草介がひょっこり現れるんじゃないかって思って。


 大学生になり、社会人になり、中年になって、老婆になっても。


 目が見えなくなった。


 手が動かなくなった。


 これが草介との最後の物語。


【完】の文字を書いた時、意識が遠くなる。



 そして――



 ***



「ん? 起きろよ。お前寝ぼけてんの?」


「……うっさい、草介。ふわぁっ、よく寝た。ていうかここ教室? 全然記憶ないんだけど」


「ちょ、まてよ!? 昨日俺のラブレター受け取っただろ!!」


「……そんな事もあった、かも?」


「かもじゃねえよ!!」


「あははっ、うんわかってる。草介……、おはよ」


 何故かわからないけど、私は泣いていた。


 ずっとずっと旅をしていた気分だ。


 そんな私を草介は何も言わずにただ、隣にいてくれた。


「ん? そういや、スマホ開いてるぞ」


 スマホの画面は小説投稿サイトだった。


 全然覚えがない書きかけの文章。


 最後の文字は――



【未完】



 だった。









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