どうすれば治るのかな?
「そろそろ起きる時間ですよ、ユウナ」
耳元で囁かれる声と頬をくすぐる優しい感触。
既視感、デジャヴを感じながら私は目を開く。
「わあ……知らない天井だ……」
長年見慣れた無機質な病院の白い天井じゃない。
飴色になるまで使い込まれた木材がどっしりと組み込まれた天井。
視界の端には愛らしい瞳で元気に私を見詰めるワンコ。
そっか――異世界に転生したんだっけ、私。
今の声はアド君か。
朝食前に起こしてくれたんだね。
「ありがとう、アド君。リルもね」
「わん!」
半身を起こしモフモフなリルの毛並みを撫でる。
極上の触感が掌から伝わり私はだらしなく微笑む。
ホント、無限に触ってられる。
何これ……最高過ぎるんですけど!
でも、さすがにそろそろ終わらないとね。
いつまでも撫で回していたい衝動を辛うじて抑えることに成功。
ふぅ~危ない危ない。
あやうく持ってかれるところだった(どこに? なにを?)。
さてと、朝食前に起きて身支度を整えないと――
ステラさんは1階の酒場兼食堂に来れば朝食を出すと言ってたなぁ。
けど――その前にお風呂に入りたい。
昨日から着替えもしてないし少し汗のにおいが気になる。
シャワーでもいいけど24時間入れる大浴場が各階にあるらしいし。
魔導具? で温泉のお湯が出てかけ流しというのも気になる。
うん、ひと風呂浴びよう~♪ そうしよう~♪
適当な鼻歌を奏でながら私は立ち上がった。
その瞬間――
「いたっ! なにこれ!?」
頭蓋に奔る痛みに蹲る。
おまけに何だかクラクラしてるし。
「ああ、やはり」
困惑する私にアド君が冷静な声で指摘してきた。
不安に駆られた私は勢いよく尋ねる。
「ど、どういうことアド君!
もしかして私、やっぱり病気が治っていなかった!?」
「違います。
ちゃんと転生する際に主が病魔を取り除いた健康な身体を準備致しました」
「じゃあ、これは――」
「二日酔いです」
「ふつか……酔い?」
「ええ。
初めてなのにあんなにパカパカと蜂蜜酒を摂取しましたからね。
体内で発生したアセトアルデヒドを肝臓が処理しきれていないのでしょう。
これは助言ですが、飲酒をするなら同じ量以上の水を摂らないといけませんよ。
アルコールによる有毒成分を分解するのには――」
「うん、分かったよ。
飲み過ぎた私が悪かったしゴメンなさい。反省します。
だから教えて――この二日酔いはどうすれば治るの?」
次第に痛さを増す鈍い頭痛に悲鳴が出そうになる。
一縷の望みをこめてアド君に尋ねる私。
しかし――返って来たのは無慈悲な言葉。
「水分を摂って安静するしかありませんね。
ああ、あと汗をかくのも良いみたいです」
「何かその……特効薬みたいなのは?」
「この世界だと祝祷術による【解毒】などの方法がありますが……
高価なのでお勧めはしません。コネクションも必要ですし」
「じゃあ、この痛みは?」
「もう少し頑張ってお付き合いしてください。
自業自得です」
「はい……」
過酷な現実に泣きそうになるのを堪える。
リルが慰めるようにモフモフな身体を寄せてくる。
ありがとう、リル。
けど、ごめんね? ちょっと……相手できない(イタタっ)。
こうして自分が悪いとはいえ――
異世界生活二日目の朝は最悪な目覚めを迎えたのだった。