お酒って何がいいのだろう?
「きゃう!」
ふらついた拍子に扉に頭をぶつけてしまった私は悲鳴を上げる。
階段を昇るのにも一苦労していたのに……ダメだなぁ。
足腰が全然言う事を利かない。
こんな事ならもう少し量を控えれば良かった。
反省しながら私はちょっと前の事を振り返る。
人前で号泣してしまったあの後――
ステラさんは蜂蜜酒をコップに入れて持ってきてくれた。
ほんのり湯気を立てるそれは凄くいい香りで……
お礼を言って、私は前世を含めて初めてのお酒を口にする。
とろ~り、とした甘さの中に潜む喉を熱くする辛さ。
これがアルコール――というものなのかな?
物語だと美味しそうに皆飲んでいるけど、何がいいのだろう?
そう思いながらご飯を食べる。
驚いた。
味の深みが倍増してる!?
えっ? どういうこと?
なんで美味しいのが更に美味しくなるの?
半ばパニックになりながら助けを求める様にステラさんを見る。
悪戯が成功した子みたいな顔でニヤリと返すステラさん。
私の頭をポンポンしながら解説をしてくれた。
なんでもこういった店ではお酒に合うよう、料理の味を整えているとの事。
もちろん、そのまま食べても美味しい。
けれどその真価が問われるのはお酒を飲みながら食べた時らしい。
狐に摘ままれたみたいな感じを受けながら食事を再開。
蜂蜜酒を口にしながら料理をお口に。
……やっぱり美味しい。
解せぬ。
でも美味しいから……ヨシ!
一時期流行ったネットミームなどが頭に浮かぶけど――手が止まらない。
瞬く間にフライを片付けた私は蜂蜜酒をお代わり。
全てを食べ終える前に三杯も飲んでしまった。
でも、その時の私は知らなかった……
アルコールを口にすると――酔っ払う、ということを。
そろそろ寝る時間だろう? ――と、気を利かせたステラさんが客室の鍵を持ってきてくれたので、ご馳走様~とお礼を言って立ち上がろうとした際に気付く。
あ、足に力が入らない!?
タコさんみたいにグニャグニャだ。
おまけに先程から身体が熱くて仕方ない。
心配するステラさんに対し「大丈夫です!」と何故か上機嫌で答えた私は、リルを抱っこすると部屋に向かう。
かくして冒頭に繋がる、という訳だ。
二重三重に分身する鍵穴を何とか討伐して部屋に入った私は中を確認。
清潔なシーツで整ったベッド。
枕元に添えられた照明付きの床頭台。
大きめのクローゼット。
嬉しい事に水洗トイレやシャワールームまである。
まるで病室みたいだけど嫌悪を感じないのは、端々にある気遣いからだ。
小まめに清掃されているだけでなく、使いやすく置かれた歯ブラシなどの備品やタオルで飾られたお花や動物などが見る者を和ませてくれる。
やっぱりここを選んで最高だった!
感慨深く感謝の気持ちに浸っていると――
「飲み過ぎですよ、貴女は」
呆れた様なアド君の声が響く。
むむ。
その言葉には異論あり。
確かに私はフラフラしてるかもしれない。
でも――これだけ論理的に考えられるということはしっかりしている筈。
そうだそうだ、そうに違いない。
なので断固反論する。
「あによー。
わらしのろこがヨッパらってる、ってゆーの?」
「そういうところがです。
しかも何故、幸せそうに微笑んでいるのです?」
「こりはねー
ただロレツがまわらないらけれ、ヘーキらの!」
確かに呂律が回ってないかもしれない。
だらしのない満面の笑顔かもしれない。
でも――私はしっかり考えている。
こんな風に理性的に思考している。
よって、私は大丈夫である。
うん。我ながら完璧な論理だね♪
「んもー。
アドくぅんは、しんぱいしょーなんらから」
「ユウナの行く末が心配なだけですよ。
人生初のアルコールとはいえ、まさか数杯でこうなるとは。
まあ、今日はこの世界に転生して初日。
羽目を外すのも良いかもしれませんが……
明日以降はくれぐれも気をつけて」
「はぁ~い」
知覚範囲内に危険はないというアド君の忠告を耳にしながらも――
私は本能の赴くまま靴を脱いでベッドにダイブ。
お日様の香りのするシーツに包まれながら、甘美な眠りにつくのだった。