誰に訊けばいいのだろう?
「いらっしゃ~い。一人と一匹だね。
今、ちょっと混み合ってるから……そこに座りな」
風格に負けないよう気合を入れて黄金の獅子亭に入店すると、恰幅のいい年配の女性店員さんが元気よく出迎えてくれた。
出鼻に豆鉄砲? を喰らったかのような私は、女性店員さんの命じるがまま大人しく隅に設けられたカウンターに座る。
そこは従魔やペットを連れた人専用のブース席らしく、足元にはちゃんとリルが収まるくらいのゲージとクッションが引いてあった。
大人しくしててね、とリルにお願いしながらゲージにそっと横たえる。
クッションを気に入ったみたいでリルは上機嫌でゴロゴロし始めた。
フフ……本当に可愛いな。
愛くるしいリルの姿に人心地が着いた私はそっと周囲を見渡す。
黄金の獅子亭の一階はファンタジーの定番、酒場になっていた。
酒場と言ってもちょっと品の言い居酒屋風で乱暴そうな人はいない。
剣や杖を携えた冒険者風の人もいるけど、皆さん身なりはしっかりしている。
こういったところでは荒くれ者同士が喧嘩して騒いでいるイメージがあったので――私は心から安堵した。
喧嘩どころか言い争いもした事が無い私は、心の底から荒事が苦手だから。
多少お金が掛かってもこういうところだと安心できる。
ホント、カインドさんには頭が上がらないな。
後でお菓子を持ってお礼に行こうっと。
照れながらも嬉しそうに微笑むカインドさんの幻影に微笑みを返す。
けどそれよりも何よりも――もっと大事な事があった。
それは酒場内を漂う匂いが刺激的過ぎること。
あっ、そういえば転生してから今まで何も食べてない。
病院暮らしでは決して嗅げない芳醇な香りにお腹が情けない音を奏でる。
でも――ご飯の前に、まずは宿泊可能かを訊かないと。
雰囲気も含め私はこの黄金の獅子亭がすごく気に入ってしまった。
今から他の宿を探すのは――正直しんどい。
ん? けれど誰に訊けばいいのだろう?
すると他の客の対応を終えたさっきの店員さんがこっちに来てくれた。
「はい、お待ち。
注文は決まってるかい?」
「あの……いきなりすみません。
私、テイマーのユウナっていいます。
こっちの仔はリル」
「ユウナにリルかい。
アタシの名はステラっていうんだよ。
ここ黄金の獅子亭の女将をしてる」
「そうなんですね。すごい!」
「全然、凄くはないさ。
それで――お嬢ちゃん達はもしかして?」
「はい。
今日から宿泊でお世話になりたいんですけど……空いてますか?」
「運がいいね、ユウナは。
下流で氾濫があって、ちょうど長期のキャンセルが出たとこさ。
そっちのリルと一緒に泊まれる部屋があるけど、どうする?」
「勿論、泊まらせてください!」
「はいよ。
料金は一泊金貨1枚。従魔は銀貨2枚。
朝夕の食事付きだけど……構わないかい?」
「はい!」
「わん!」
「はは、元気がいいね。
じゃあ早速ご飯を持ってくるけど……先払いでお願いするよ」
「はい、これ」
私は今度こそ間違わずに金貨1枚と銀貨2枚をステラさんに手渡す。
ステラさんはにっこり笑うと、カウンター脇からジュースとミルクの瓶を取り出し私にはグラスに、リルには深皿に注いでくれた。
「こいつはサービスさ。
ユウナの歳で何があったかは聞かないけど……女の一人旅は大変だったろ?
たらふく美味いものを食べて、ゆっくりしていきな」
朗らかにそう告げると颯爽と去っていくステラさん。
気遣いの仕方が大人の女性って感じでカッコいい!
やっぱりこの宿を選んで正解だったなぁ。
私はリルと顔を見合わせると互いに頬を緩めるのだった。
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