お金、大丈夫かな?
「はぁ……やってくれましたね、ユウナ。
貴女って娘は本当に……」
「ごめんごめん、アド君。
でも、ホラ――結果オーライってヤツじゃない?
親切な衛兵さんに安全な宿とか色々教えて貰ったし」
夜闇が迫り混雑する街通り。
人で賑わう雑踏を中央に向けて歩く私の耳元でアド君が呆れたように囁く。
これだけの人混みだと声が拡散されるから人前でも小声なら問題ないみたい。
時折安い宿から客引きの声が聞こえるけど、カインドさんの忠告通り全無視。
アド君の話だとお金をボッタくられたり物を盗まれたりする危険があるとか。
だからアド君には感謝してるんだけど……
アド君はちょっと、ご機嫌斜めっぽい。
「詳しく教えなかったわたくしも悪いでしょう。
しかし辺境ではお金の価値が大きく変動するものです。
道中教えた事を覚えていますか?」
「えっと……
確か、日本円にして金貨が1万円。銀貨が千円。銅貨が100円相当?」
「フィーリング的にはそのような感じです。
でも貴女は先程金貨を出しましたね?」
「お釣りが貰えたら便利かな~って……
神様から頂いたお金、銀貨が少ないし」
「主は貴女が急に路頭に迷わぬよう、地域経済に影響しない範疇で支度金を用意してくれました。その額は何と2000万円相当になります」
「わあ~神様って気前がいいんだね!」
「その物言いは不遜ですよ、ユウナ」
「ごめんなさい(しゅん)。
でも……贅沢しなければ充分暮らしていける額だね」
「そうですね。
まあどんなお金も遣い方次第ですが。
話は逸れましたがそれほどの金額を銀貨や銅貨で収納してたらどうなります?」
「雪崩れ?」
「そうです。
だから大部分を大金貨にしてあるのですが……」
「気安く遣えないね」
「ええ。通常のお店では換金も難しいでしょう。
なので――大金貨と金貨の違いもよく覚えて下さい。
大きさは一緒ですが含まれている金の含有量や年代ごとの形式などが違います」
「大変だねぇ」
「自由にお金を扱うのは絶え間なく気を遣うようなものなのです。
お金を使う立場からお金に使われる立場にならない為にも」
「含蓄ある言葉だなぁ。
お金持ちなのに自由に使えるお小遣いが無いなんて変な感じだし(フフ)。
でもいいよ、アド君。
私――明日から働こうと思うから。
神様から頂いたお金は基本いざという時に残しておこうと思うんだ」
「何かやってみたい仕事があるのですか?」
「こういう世界って冒険者ギルドっていうのがあるんでしょ?
そこで日銭を稼ぎながら――強くなりたい」
「苦難の道ですよ、それは」
「与えられた環境に胡坐をかいていちゃ駄目だって……
以前お世話になった先生が言ってたんだ。人はすぐ堕落するからって」
「立派な先生だったんですね」
「うん! 生きる哲学? っていうのを教わったよ。
それにせっかく健康な身体にして貰ったんだもん。
一生懸命働いて、人の役に立ちたいよ。
だから一緒に頑張ろうね――リル!」
「わん!」
「貴女という娘は……本当に」
「なぁに、アド君?」
「いえ、何でも。
ああ――どうやら着いたようですよ。
わたくしのナビ機能でも間違いありません。
ここが黄金の獅子亭です」
「ここが……
何だか、すごい立派な感じなんだけど……」
「出来て半年もしていない筈ですが――
どうやら魔術で土台ごと移動して再建築したようですね」
リルを抱いた私は呆気に取られながら宿屋を見上げる。
そこには獅子を模った彫り物が壁に為された、とても高そうな3階建ての建物が威容を放つように聳え建っていたから。
まるで歴史ある老舗旅館みたいな重厚感に思わず圧倒されちゃう。
お金……大丈夫? かな?
最初にそう思う自分はやっぱり庶民だな~と思う。
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