怒ってるのかな?
「ようやく見えてきましたね」
アド君の声に私は前の方へ手をかざすと、よ~く目を凝らしてみる。
草原と森林の境。
豊かに流れる川と隣接する、なだらかな丘を囲むように張り巡らされた深い堀と……乗り越えるのはちょっと無理そうな頑丈な土壁が見えた。
その中にあるのはどこか牧歌的な感じの数多の建物。
小屋だけじゃなくて煉瓦造りの物もある。
中央にある一際大きい建物は偉い人のお家かな?
ここからでも分かる立派な風車がとっても印象的だった。
「あっ! 見えた見えたぁ!
あれがアド君の言ってたノーザン領だね!」
「そうですね……」
「きゃうん……」
「どうしたの? 何だか疲れた感じがするけど」
「わたくしは情報意識体ゆえに疲れはありません。
ですが――ユウナ」
「なぁに?」
「貴女は、とても元気ですね……」
そういうアド君の声は何故か疲れた感じがした。
足元をトコトコ歩くリルも深く首を振って頷いているし。
どうやらあっちこっちと脇道に逸れて到着に時間が掛かった事を指摘されているみたいだ。
2時間の予定が倍の4時間近く掛かってしまったのは申し訳ない気がする。
けど……
「だって――嬉しかったんだもん、自分の足で歩けるのが。
こんなに動いても呼吸が苦しくないし、ゼーゼー言わないんだよ?」
「ユウナ……すみません」
前世の私は病弱だった。
その人生のほとんどを病院で過ごした。
私が知っている外の世界は病院の中庭と少しだけ通えた学校の中だけ。
今のこの身体はすごく健康で丈夫だ。
これだけ運動しても全然疲れない。
だからつい調子に乗ってしまったのだけど……
アド君たちに迷惑を掛けてしまったのなら謝らないといけない。
無言のままのアド君。
眼に視えない情報意識体だから顔色を窺えないのが少し――怖い。
「あの……怒ってる?」
「いいえ。責めている訳ではありませんよ。
貴女の事情を鑑みれなかった自らの愚かさを反省しているところです」
「わんわん!」
「そんな大袈裟な」
「いいえ。
貴女は他の人よりも不自由な暮らしをしてきました。
それを不幸とは言いませんし――言わせません。
両親の愛に庇護された日々は掛け替えのないものだからです。
ただ……自由がなかったのは確か。
なので――共に築きましょう?
貴女は貴女だけの幸福を」
「うん!」
感情が無い無機質な声なのに温かく感じる。
それはアド君が本気で私を心配してくれているからだ。
足元を見れば愛らしい瞳で私を見上げるリル。
私は一人じゃないし独りじゃない。
単純なその事が――凄く心を奮い立たせてくれる。
「ありがとう、アド君にリル。
これからも――よろしくね?」
「わん!」
「ええ。しかし道草は程々に」
「はいはい。
分かりましたぁ!」
まるでお母さんみたいに心配性なアド君の声を聞きながら……
私は昏くなり始めた草原を急ぎ駆け抜けるのだった。
モチベーションと更新速度が上がるので、
良ければお気に入り登録、評価をお願いします^^