何をすればいいのだろう?
「それでね――アド君」
「はい。なんでしょうか?」
「私……一先ず何をすればいい?
あと、この仔はなんなのかな?」
異世界で生きる決意をしたものの……
着の身着のままではやっていけない。
今はお腹が空いてないけど、早めにご飯を確保するか人里に着かないと。
それとも――こういう時ってまず川か道を探すんだっけ?
小さい頃から満足に動けない私は両親にお願いして本をいっぱい読んだ。
私のいた病院の個室はちょっとした図書室並の蔵書があったくらいだ。
たまに本を借りに、同じく入院していた子達が遊びに来てたし。
皆、先に退院する時に申し訳なさそうに挨拶に来てくれていたのが……何だか辛かったな。
と、それより現実現実。
すぐ思考の海に沈むのは私の悪い癖だ。
ベッド上で読んだ本の知識があるも経験の伴わない私。
そんな私が混乱する前にアド君が助け舟を出してくれた。
「要望が無ければ、取り合えず人里へ行くのがよろしいかと。
ここから二時間ほど歩いた場所に大きめの街【ノーザン領】があります。
まずはそこを拠点にしてみてはいかがでしょうか?」
「でも……私、お金持ってないよ?」
「ご安心を。
貴女のスキル【アイテムボックス】内に主からの餞別が入っております」
「餞別?」
「ええ。
アイテムボックスと声に出すか念じてみて下さい」
「アイテム……ボックス?」
半信半疑で呟いた途端、目の前の空間に切れ目が出た。
「うあ! 何これ!?」
「収納型スキル【アイテムボックス】になります。
この中に生活全般に使う道具や衣服、金銭などが収納されています。
事前準備もなく異世界に放り出すほど主は無責任ではありません」
「すっごく助かっちゃうけど……いいの?」
「苦難に満ちた貴方の先を思えば、僅かばかりの援助です。
それと――その幼体ですが」
「うん」
「親を亡くして死に掛けていたところを契約し助けた、氷雪狼フェンリルの幼体になります。わたくしは残念ながら基本アドバイスしか出来ません。
なのでボディーガードとして貴女に仕える従(獣)魔という存在を用意しました。
この世界には人に害を為す存在が数多おります。
小さくとも頼もしいその幼体はユウナの良きパートナーとなる筈です」
「そうなんだ!
何から何までありがとう!
この仔、名前は決まってるの?」
「いいえ。特には」
「なら……フェンリルだからリル、って呼ぶね?
よろしくね、リル!」
「わん!」
「相性も良さそうで何より。
ユウナに特にこだわりがなければ旅のテイマ―(従魔士)と名乗るのが一番かと思われます。リルと共にいるのが自然ですし、女性の一人旅という不用心さに対しても安全が確保されているという説得力が出るからです」
「うん、分かった。
私はユウナ。リルと旅するテイマー。
誰かに訊かれたらそう答えるね?」
「ええ」
「わんわん!」
「じゃあまずは【ノーザン領】に向けて……出発!」
モフモフのリルを抱いて勢いよく出発する私。
その瞬間、無機質なのにどこか呆れたアド君の声で制止される。
「せっかく盛り上がっているところ、申し訳ございませんが……
方向が逆です、ユウナ」
「きゃうん……」
……私の異世界ライフは前途多難みたい(トホホ)。
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