ちゃんと見えるよね?
「うう、心なしかまだ頭が痛い気がするよぉ……」
「大丈夫ですよ、ユウナ。
その痛みは不快感からによるもの。いずれ消える筈です」
弱音を吐きながら大浴場に向かう私に対しアド君が冷静に指摘する。
それはそうなんだろうけど……
本音を言えば今すぐ何とかしてほしいのに。
まあ、私が悪いから仕方がない。
ここはキッパリと気持ちを切り替えなくっちゃね。
未だ見ぬ異世界のお風呂に淡い期待を抱きながら私は進む。
朝の二日酔い騒動の後――私は平身低頭しアド君に懇願。
この状態を何とかする裏技をどうにか教えてもらった。
何でもアイテムボックスに神様が準備してくれたポーションを飲めば解毒効果、つまり二日酔いからの回復が望めるらしい。
ただ――急激にアルコールを分解するので不快感を伴うみたい。
それでもこの苦痛から逃れられるなら悪魔と握手くらいはする。
私はアイテムボックスと念じると中から禍々しい緑色のポーションを取り出す。
それは小さなフラスコに入っておりコルク栓がしてあった。
ほ、本当にコレを飲むの?
魔女が鍋でよく煮ているアレくらいにヤバそうなんだけど……
心配そうに私を凝視するリルに大丈夫だよ、と痩せ我慢をしながら栓を開放。
覚悟を決めると息を止めて一気に飲み干す。
けど――意外や意外。
ポーションは予想よりかスッキリしていて……青汁をベースにミカンやレモンなど柑橘類のジュースを混ぜたくらいの味だった。ちょっとだけエグいけど。
でもこれくらいの苦みなら長年漢方薬で慣れた私には苦痛じゃない。
予想よりも軽いダメージに安堵した瞬間――それは突如キタ。
「ちょ、ちょっとコレは……」
例えるなら貧血と逆流性食道炎が相乗作用で襲い来る感じ。
頭からサーっと血が引いていき、胃というか体内から何かが出そうになる。
でも確かに効果は抜群で――
耐えがたい頭痛が幾分かマシなレベルになっていた。
すごいな~ポーション。
こんな急激な薬効のあるもの前世じゃ緊急時以外絶対扱えない。
っていうか……
違法薬物――じゃないよね?
アド君に訊いてみたかったけど……返答が怖いから止めておいた。
さて、頭痛がマシになったならお風呂に行こう!
アド君の忠告通り、事前に着替えやタオルなどを取り出しておく。
これでちゃんと一般客に見えるよね? うん。
ちょっと謎なこの行動はどういうことなのかというと――
アイテムボックス所持者が陥りやすい罠としてその利便性にあるらしい。
例えばこういう時に何も持たずにお風呂場に行くのは、当たり前だけど普通の人から見ればすっごい違和感しかない。
勘の鋭い人ならスキルの可能性にすぐに至る。
収納系スキルの所持者は密輸などに便利なので犯罪者に狙われやすいとか。
面倒だけど人前では袋の中から取り出すなどの工夫が必要なようだ。
ちなみに収納スキルと同等の収納袋というものはポピュラーな存在らしく、少しお金を出せば購入できるらしい。
だからアド君の助言ではそう装った方がトラブルに巻き込まれにくいみたい。
色々と行動の制約があるのはファンタジーの定番だから仕方ないね。
それよりこの汗ばんだ身体を早く何とかしたい気持ちが勝った。
かくして私は――リルと共にお風呂を目指すのだった。




