表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナグラム  作者: 七海美桜
文車妖妃(ふぐるまようひ)の涙

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/188

唯菜・上

「これからどこに向かいます?」

 現場のラブホテルを出ると、篠原が櫻子に尋ねる。櫻子は少し悩んでから、左手首につけられた腕時計を覗き込んだ。海外ブランドの、細いフォルムの腕時計だった。春色の色彩は、櫻子によく似合っている。


「今は天満署が羽場さんの事を聞きこみに、淀屋橋の会社まで行ってるのよね。私たちは指輪の事も調べたいし、一度署に戻りましょ。笹部君に映像解析して貰いたいわ」

「分かりました」

 ヒールの音を鳴らして真っすぐに駅へと向かう櫻子に続いて、篠原は後に続いた。


「ねえ、おじちゃんは!?」

 梅田駅に着いて、曽根崎署に戻った時だ。曽根崎署の玄関ホールで、ランドセルを背負った少女と腕を掴まれ困った様子の笹部がいた。


「おじちゃん!」


 篠原に気付いたその少女は笹部から手を離すと、僅かに笑みを浮かべて篠原に駆け寄ってきた。腕を引っ張られていた笹部は解放されて、ほっとしたように大袈裟なくらいに肩を竦めていた。

唯菜(ゆいな)!? どうしたんや?」

 よほど驚いたのだろう。珍しく篠原の言葉が、大阪弁になった。その様子を、櫻子は珍しそうに眺める。唯菜は、両方の耳の上辺りで髪を結んでいた。黒く綺麗な髪と、大きな瞳。あまり篠原に似ていないので、亡くなった彼の兄嫁に似ているのだろうか。


「ちょうどよかった……この子、篠原君の子? 篠原君とボスを探してたらしくて、受付から連絡来たんです。僕に探しに行けって言うし……」

 子供相手に、笹部はどう対応していいのか困っていたようだ。心底安心した様に、笹部は大きくため息を零した。その言葉に、慌てて篠原は彼に「すみませんでした」と、申し訳無さげに頭を下げた。


「どうしたんや? 唯菜。おじちゃんは今、仕事やって知ってるやろ?」

「……」


 唯菜は頷いてしまったので、篠原は屈んでその顔を覗き込む。しかし、唯菜は口を開かなかった。

「篠原君」

 櫻子が口を開く。篠原は慌てて立ち上がると櫻子に頭を下げた。

「すみません、自分の姪の唯菜です。今は学校の時間の筈なんですが……申し訳ありません!」

 確かに、今はまだ十時過ぎだ。本来なら三時間目か休み時間くらいだろうか。

「……唯菜ちゃん?」

 櫻子は、スカートを気にしながら唯菜の前に屈んだ。そして、小さく微笑む。

「篠原君に、何か大切な用事があったんでしょ? いいわよ、篠原君はその間お休みにするからちゃんとお話ししなさいね?」

「すみません、今からすぐに唯菜を学校に連れていきます!」

 もう一度大きく頭を下げると、篠原は唯菜の手を握った。だが、唯菜はその手を払って櫻子の腕に抱き着いた。


「え?」


 三人は、同時に驚いた顔で唯菜に視線を向けた。

「……唯菜、さくらこちゃんと学校に行く」

「何あほな事……いや、おじちゃんの先輩に「ちゃん」とか……! いや、そうやなくて、いつもわがまま言わへんやろ? ええから、おじちゃんと今から学校に行こ?」

 篠原は色々な事に動揺しているのか、慌てながら唯菜に向き直る。しかし唯菜は首を振り、櫻子の腕を抱きしめる。そんな唯菜の頭を、櫻子は優しく撫でた。


「いいわ、私が連れて行くわ。篠原君と笹部君が、あの映像確認しておいて」

「いやいや、一条課長にそんなことお願いできません!」

 困った顔で、篠原は首を振る。しかし櫻子は唯菜の手を握ると、立ち上がった。

「唯菜ちゃんにも事情があるんでしょ。いいから、仕事しなさい」

 櫻子の言葉に続いて、笹部は篠原の袖を引っ張った。

「ボスに任せようよ。さ、僕らはお仕事。ボス、気を付けて」

 笹部は階段に向かう。その背と櫻子を見比べて、篠原は深々と櫻子に頭を下げた。

「一条課長、よろしくお願いします。唯奈、わがまま言うんじゃないぞ?」

「大丈夫よ、じゃあね」

 櫻子は唯菜と手を繋ぎ、再び駅へと向かった。それを見届けてから、篠原は笹部の待つ『特別犯罪心理課』へ向かう。


「この画像の女性の指輪の拡大画像が欲しい、との事です」

 さっき井村にダビングして貰ったDVDを取り出して、笹部に手渡す。

「了解」

 笹部は篠原からそれを受け取ると、パソコンにDVDを読み込ませる。

「何か飲み物入れましょうか?」

 鞄を椅子に置くと、篠原は笹部に尋ねた。すると彼は、自分の机の引き出しから紅茶のパックが入った缶を取り出し渡す。

「じゃあ、これ。篠原君も飲んでいいよ」

 意外そうに缶に視線を落としてから、篠原は缶の蓋を開けて紅茶のパックを取り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ