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アナグラム  作者: 七海美桜
今宵彼女の夢を見る

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ピース2・中

 黒岩建設は、関西の大手の建設会社だ。土曜でも出勤する社員が沢山いる羽振りがいい大きな会社で、キタの中之島(なかのしま)という土地に本社ビルがある。曽根崎警察署の玄関まで下りてくると、白いセダンが正面に横付けされていて宮城と一課の竜崎(りゅうざき)海斗(かいと)がいた。


「おはようございます、今日はよろしくお願いします」

 竜崎は生活安全課や交通課の女性職員に人気がある、三十歳手前の好青年だ。整った顔立ちだけではなく、マメな性格らしく男性陣からも好かれていた。そんな彼を使いやすいのか、宮城は動く時によく彼を付き添わせていた。


「おはよう、こちらこそよろしくね」

 櫻子が笑みを見せると、竜崎は丁寧に頭を下げた。車の座席に居る宮城は、「早く来い」というように手招きした。櫻子が宮城の隣に座り、篠原は自分が運転した方がいいのかと竜崎に視線を向ける。

「あ、大丈夫。俺が運転するよ」

 竜崎は気さくな笑みを篠原に向けて、車の鍵を軽く振った。篠原は「有難うございます」と頭を下げて、助手席に座った。

 竜崎が運転する車は軽やかに走り、黒岩建設のビルに問題なく辿り着く。運転も丁寧で愛想も良く、時折窓を開けてもう葉桜になった残りの花びらを車内に舞わせた。櫻子の口の中の飴も、着く頃にはなくなっていた。

「お待たせしました」

 受付で間宮課長と約束があると告げると、四人は応接室の一つに案内されて珈琲を淹れて貰った。暫く待っていると慌てたようなノックと共にそう声をかけられ、男が二人部屋の中に入ってきた。すると座っていた竜崎が腰を上げて、宮城の横に立つ。それにつられる様に、篠原も櫻子の座っているソファの横に並んで立った。


「すみません、春は色々忙しくて。私が間宮で、隣が近藤です」

 五十半ばの間宮が、名刺を出して宮城に渡す。隣の三十後半の近藤もそれに(なら)って名刺を慌てて取り出す。

「ま、掛けて下さい」

 宮城は二人にそう声をかけて、名刺をテーブルの中央に並べた。二人は頭を下げて、さっきまで宮城と篠原が座っていたソファに腰を落とした。

「私と近藤に聞きたい事があるそうで……? 心当たりがないのですが、一体どういった要件でしょうか?」

 警察が職場に来たという事で、二人は少し青い顔をしていた。心当たりがあるのかないのか、探るようなことを口にする間宮も近藤も、浮かない顔色だった。

「ミナミのガールズバー『セシリア』のサキさんとエマさんをご存じですよね?」

 宮城がサキとエマの顔写真を背広のポケットから取り出すと、机に並べた。二人は覗き込んで確認すると、揃って頷いた。

「二人とも、知ってます。私は近藤と顧客先を回りますので、飲みに行った時に流れでミナミまで時々遊びに行ってます」

「ちなみに、どちらがどちらの担当なんですか?」

 櫻子が口を挟むと、「私がサキちゃんです」と間宮が恥ずかしそうに答えた。

「あの……あの子らがなんか……? 私らは、変なことはしてませんよ?」

 近藤が、不安そうに尋ねてくる。宮城は写真をポケットに直すと、軽く咳払いをした。


「エマさんが、殺されました。どうも、あなた方と天ぷら屋さんにまで行ったアフターの後に死亡したようで、その時の話が聞きたいんですわ」

「え!?」

 驚いたような声を上げて、間宮も近藤も目を見開いた。

「わ、私らと別れた時は二人とも生きてましたよ! タクシー代渡して、あの子らとは天ぷら屋さんの店先で分かれました!」

 間宮が慌てながらも宮城に向かって言うと、隣の近藤も何度も頷いた。


「やめてや……また飲み屋の女の子が死ぬなんて、縁起悪すぎやで……」


 ぼそりと呟いた近藤の言葉に、櫻子は驚いた顔を見せた。

「まさか……まさかだけど、あなた達『レジェンド』にも通ってたの!? 蕎麦アレルギーで亡くなった彩さんを知ってるの!?」

「彩って名前かどうか……そんなことは知らんけど、キタにある『レジェンド』なら通ってましたよ。年度末近く店に行った時、他のテーブルで店の女の子が突然発作起こして倒れたから、びっくりしましたわ。後になってママからその子死んだって聞いたから、気乗りしなくて最近は行ってませんけど……」

 質問する櫻子の威勢に、間宮と近藤は思わず(ひる)んだ。澄ました顔の櫻子しか見たことがなかったから、驚いたのだろう。


 その間宮の答えに、櫻子は息を飲む。隣に座る宮城と竜崎は、彼女が口にした女性の名は記憶にないようで不思議そうな顔をしていた。


「まさか……ここでも繋がるなんて」

 櫻子は、笹部が見つけた事件が発端だったのだと、ようやく確信した。

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