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アナグラム  作者: 七海美桜
罪びとは微笑む

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嫉妬・下

 竜崎と篠原は、阪急三番街と呼ばれる阪急電車の大阪梅田駅構内下に作られた、ショッピングセンターへと向かった。人工の川が作られ、飲食街エリアからファッション、本屋など多岐にわたるエリアがあり平日でも人が多い。阪急かっぱ横丁は『阪急古書のまち』と呼ばれる、マニアが好む蔵書が揃う古本屋の並ぶ通りだった。今は、おしゃれな古本屋に変わっている。

 明治時代大阪駅構内から掘り出された地蔵菩薩像である『北向地蔵尊』が祀られている北側には、地蔵横丁通りも広がっているので年齢層が幅広い。


 昔、おもちゃエリア傍に小さな水族館風の通りもあり、篠原は兄とそれを見るのが好きだった。

 ランチで込み合う中二人は、手軽な価格で食べれるステーキ屋に入って腰を下ろした。ハラミステーキ300グラムとライススープセットを頼んで、ようやく落ち着く。


 篠原は昨日の夜からずっと食欲もわかず何も食べられなかったのだが、やはり次第に空腹を感じていたのでがっつり食べられるステーキに笑みが零れる。

「ここ、宮城課長に教えて貰って美味しかったからさ」

 氷の入った水が美味しい。それを一口飲んだ竜崎は、キタエリアの婦警人気ランキング上位らしい、にこやかな爽やかな笑みを浮かべた。

「なんか、嬉しいです。俺ここに来てから、あんまり知り合いとか出来なかったんで……竜崎さんや宮城さんが良くしてくれるから、助かります」

 警察は、仲間意識が高い分縄張り意識も強い。エリートばかりの『特別心理犯罪課』に対して、周りはあまりよく思っていないようだった。篠原は自分が平凡な為、周りから孤立しているような状況が少し寂しかった。


「篠原君て、相手の懐に自然に入れるよね。裏表がなくて、信頼できる。だから警視も君を選んだんだろうし、宮城課長も俺も君に好意が持てる――多分、言ってないだろうけど他の課の人も、そう思ってるはずだよ」

 おしぼりで手を拭いながら、竜崎はそう篠原に言った。その言葉は、篠原を驚かせるには十分だった。

「そうなんですか?」

「うん、勿論本当の事だよ」

 そこに、熱々のステーキやスープにライスが運ばれてきた。美味しそうな香りを漂わせる蒸気に、篠原のお腹が小さく鳴った。


「はは、ほら食べよう」

 竜崎がくすりと笑って、ナイフとフォークを篠原に渡す。篠原は礼を言ってから、早速肉を切り口に放り込んだ。

「んー、美味い!」

 ハラミは横隔膜(おうかくまく)なので、ホルモンの分類になる。しかし赤身と丁度良い脂身でカロリーは低く、男女問わず人気がある。


「そう言えば――笹部さんなんだけど」

 口に広がる肉の味を逃さぬよう直ぐに米を押し込んで食べる篠原に、竜崎は少し声のトーンを落として再び話しかけた。


「笹部さんて、どんな人なのかな?」

「どんな……? ええと、一条警視と同じで東京大学法律部卒業後警視庁に入庁で、ここに来る前は警視庁サイバー課に所属していました。パソコンが得意で、あまり愛想はよくありませんが俺は優しいと思っています。運動や外に出るのは好きじゃないみたいです」

 慌てて水で米を腹に流し込むと、篠原は笹部を思い出して首を傾げた。


「運動が嫌い?」

 それを意外そうに、竜崎は瞳を丸くした。

「篠原君も身体鍛えてるから筋肉質だけど――俺も鍛えてるの、分かるよね?」

 篠原は竜崎の質問の意図が分からないままも、頷いた。篠原はがっちりとした体格だが、竜崎は細身だがしっかりとした筋肉が付いた体に見える。


「笹部さん、失礼だけどパソコンばかりしている割には姿勢いいだろ? それに、横から見ても細いのに薄い体に見えないよ。さっき食べるって言ってた栄養補助食品も――大豆タンパクが多い、アスリートが選びそうなものだった。淡路島で足湯入っている時も、下腿三頭筋(かたいさんとうきん)が引き締まっていたように思ったけど」

 下腿三頭筋とは、ふくらはぎの事だ。

「そうなんですか?」

 篠原は、食べたら体を動かせばいいと思っていたし、特別甘い菓子を好む訳でもないのでカロリーなどあまり考えた事がなかった。それに笹部は暑くなってきたこの頃でもジャケットを脱ぐことはなく、ましてジロジロと見た事はなかった。足湯の時も同様で、むしろ櫻子の白いか細い足をこっそり見ていた。


「……ま、いいか。冷めるから食べよう。俺、昼から宮城課長迎えに行かなきゃいけないし」

 少し黙り込んだ竜崎だったが、再び笑顔を見せて篠原にそう言った。

「宮城課長、どこかに行かれてるんですか?」

「検死の立ち合いに行ってるんだ――あ、それと警視から聞いた裁判所に申請した書類も、夕方には貰えるみたいだよ」

 その言葉に、篠原は昨日の惨状を思い出しそうになって食欲が少しなくなってしまう。それを感じたのか、竜崎は慌てて言葉を続けた。


「食べなきゃ、体力なくすからね。警視の指示に応えられないよ?」

 篠原が櫻子に淡い恋心を抱いているのは、竜崎から見ても分かっている。だから、敢えてその言葉を選んだ。

「分かりました、食べましょう!」

 頷いた篠原は、再び肉を切り始める。それを見た竜崎も安心したように、食べ始めた。


 食事代は、竜崎が出してくれた。篠原はせめて、と半端分の小銭を出した。そうして二人は揃って曽根崎警察署に帰った。

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