98.新たな出会いPart2
あれから⋯⋯。
アイリさんより、ランクアップに必要な試験が、受けれるようになったと報告を受けてから、5日程が経過していた。
その5日間の出来事を、簡単に話すと⋯⋯。
正直、日中の記憶が曖昧だ。
アウラお嬢様の訓練を受けていた記憶はあるが、詳しい内容が思い出せない。
殴られすぎて、記憶が飛んでいるのかもしれない。
傷跡なんかは、随時ヒーラーが回復してくれるので大丈夫だ。特にシャロは顔を中心に、回復魔法を掛けられていた。
朝からギルドの訓練所で特訓をし、終わったらアナに癒される、この流れで5日間を過ごしていた。
アウラお嬢様は暇なのか?
なんかすごい気軽に来るけど、本来俺らみたいな一般人には、会うことすら出来ないはずじゃ⋯⋯。
偽名で冒険者してる時点で、その辺気にしない感じなのかな。
偽名を使っても普通にバレてたけど。
その地を治めてる、領主の娘を知らない人なんていない訳で。
この前のゴブリン男は、田舎から仲間と共に商人の雑用をこなしながら、この街にやって来て冒険者になったのだという。
あの後、アイリさんのお兄さんが他の駆け出しから、そう聞き出したらしい。
貴族に噛み付くなんて事は、知らなかったでは済まされないので、あいつは運がいいのだろう。
ちなみに、当の本人は普通に生きている。
アウラお嬢様は冒険者として振舞っている時は、そっちのルールに合わせるのだという。
そもそも、ゴブリン男のことを覚えてはいないだろう。
度を越す輩は、セバスさんとメイドさんに狩られるともっぱらの噂だ、本人がよくても周りが許すかどうかは別問題である。
俺とシャロに構うのも、アナの知り合いだからとかそんな理由だろう。
そんな理由でボコられてんの?ヤバない?
文句はあるが、それを口に出すことはしない、相手は貴族様、他の街の貴族はカスが多いというので、ドレスラードの街はかなり良い領主だとか。
俺はいい街に拾って貰えたんだな⋯⋯。
そんな感じの5日間を過ごしていた。
そして今日、遂に俺とシャロの新装備が完成したと、カルマンさんから連絡が来ていた。
本当は前日に、直接来て貰っていたが特訓後だったので、翌日に変更してもらった。
そんな訳で、ヴィーシュさんの店へとやって来た次第だ。
「こんにちわ〜」
扉を開けると、カルマンさんが店番をしていた。
俺とシャロに気付き、手を振り駆け寄ってくる。
「いらっしゃい。師匠も待ってるから行こうか」
そう言うと、店の鍵を締め。店の奥にある作業場へと向かった。
いよいよ新装備が手に入る。
正直テンション上がる、剣と盾は今回で3代目になるが、防具はまだ変えた事がなかったからな。
⋯⋯そう考えると、俺は剣と盾を酷使しすぎでは?
最初のは量産品のヤツだったが、2代目は戦った相手を考えれば大健闘してくれた。
致し方ない犠牲だったのだ⋯⋯。
作業場に着くと、既にヴィーシュさんが居り、道具の手入れを行っていた。
「おう、来たか。装備の調整をするからこっちに来い」
「はーい」
「お願いします」
ヴィーシュさんは、木箱から真新しい防具を取り出し、テーブルの上に並べた。
おお、良い感じだ。
今まで使っていた、皮の防具とは違い。
今回の防具は、鉄で作くられていた。
俺達が鉱山都市に行っている間に作ってくれてたという。
「ほれ、まずは着てみろ」
というわけで、早速装備してみる。
お、流石に皮の防具と比べて重さがあるな。
⋯⋯うん、体を動かす分には問題ないな、あとは慣れれば大丈夫そうだ。
俺の防具は、皮の防具とほぼ同じで、使っている素材が皮から鉄に変わっただけだ。
胸当てに関しては、少しだけ面積が増えてるな。それ以外は特に変わりなし。
ちょっとガチャガチャ音が鳴るな。
シャロは、ほぼプレートアーマー。
ほぼというのも、見た目はゲームとかに出てくるような女性用の鎧って感じだった。
太もも見えてるし、防御面的にいいの?というかなんか俺のと、デザインの系統違いすぎない?
「肌出てるけどいいのか?」
「うん!カタログ見て決めたからねー。それに下から服着るから大丈夫ー」
「そうか。⋯⋯カタログ?なにそれ」
「鉱山都市行く前に呼び出されて、この中からどれが好みだーって、聞かれたからこれにしたー」
「女の冒険者共は、鎧のデザインに煩くてな。可愛くないだの、美しくないだのって具合にな、シャロには事前に聞いておいたんじゃ」
ヴィーシュさんはそう言い、1冊の本を出してきた。
ペラペラ捲り中身を確認すると、男女の鎧のデザインと簡単な設計図の様なものが乗っていた。
お、俺もこれ見て決めたかったー!!
「な、なんで教えてくれなかったんですか?」
「あん?そういうの気にするのか?なら先にそう言わんか」
くっそー、てっきりこういうのは鍛冶師にお任せとばかりに思っていた。
次に作る時はここから選んでやる⋯⋯。
「性能はちゃんとしておるから、それで我慢しておけ。ほれ、調整するから見せろ」
「⋯⋯はい」
調整箇所を確認してもらい、一旦脱いで預ける。
大きい調整は無いそうなので、すぐ終わるとのこと。
そしていよいよ武器のお披露目だ。
俺は剣と盾、シャロは盾をそれぞれお願いした。
素材として、鉱山都市で採掘した鉄鉱石を渡してある、これはヴァルカンさんが厳選してくれたので、質は保証できる。
俺の剣と盾は、以前のものより少し重くなった。盾は少し厚みが増してるな。
少し重くなっているが、問題ない。充分扱える重さだ。
剣も見た目はほぼ一緒だが、少し長くなっており、その分重さが増していた。
ふむふむ、こっちも問題ないな。
シャロの盾は、鎧とは真逆で、無骨で飾り気のない見た目をしていた。
デザインは少しあるが、やはり地味な印象だ。
大きさもシャロが少し屈めば、全身を隠せるくらいの大きさになっていた。
その大盾が2つ、片方は予備だが。
その盾を、シャロは軽々持ち上げていた。
そして雄叫びをあげる
「おおおー!良い感じーー!!」
喜んでるなー。
俺も剣と盾を掲げ。
「おおー!!」
「おおー!!」
「喧しい!」
ヴィーシュさんに怒られてしまった⋯⋯。
◇
剣と盾の握り具合を調整し、あとは防具の調整が終わるのを待つだけとなった。
その間、ヴィーシュさんの奥さんと3人で、お茶を飲みながら時間を潰した。
そこにヴィーシュさんが訪れ、告げる。
「おう、出来たぞ」
おっ、遂に出来たか。
俺とシャロは奥さんに別れを告げ、急いで作業場へと向かった。
「で、どうする。装備していくか?」
答えは決まっている。
「「はい!」」
俺とシャロは、新装備を手に入れた。
◇
ヴィーシュさん達に別れを告げ、店を後にする。
早速、新しい防具を身につけ街を歩く。
シャロも大盾の1つを背に担ぎ、嬉しそうにしていた。
「あたしねー、自分で稼いだお金で買う鎧って、憧れてたんだー」
「良かったな、念願叶って」
「うん!ソラと出会えてよかった!」
へへへ、なんだよ⋯⋯。嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
今後も俺のメイン盾として、頑張ってもらおう。
シャロの頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
「やーめーてーよー」
ハッハッハッ。
◇
俺とシャロ、そのまま冒険者ギルドへとやってきた。
目的は、新装備の性能を確かめる為だ。
とはいえ、時間的にはそろそろお昼頃だ、暗くなるまでに戻る事を考えたら、あまり遠出は出来ないな。
俺達は[鉄]ランクの掲示板の前で、依頼書を眺めていた。
うーん、どれにするか。
ここは無難にゴブリン辺にしとこうか⋯⋯。
そんな俺達に声が掛かる。
「ソラ君にシャロちゃん、ちょっと宜しいですか?」
アイリさんが、いつの間にか背後に居た。
最近アイリさんから、声を掛けられると、面倒事に巻き込まれる様な気がする。
「何ですか?」
「なーにー」
「実はお願いしたい事がありまして⋯⋯」
来たか⋯⋯、面倒事に巻き込まれる予感。
流石に無下には出来ないので、内容を聞いて無理そうなら断ろう。そう思った。
「内容を聞いても?」
「はい、とある人をゴブリンの森まで案内してあげて欲しいんです」
ゴブリンの森か。
以前はワイルドボアの森だった場所だ、正式な名前は他に有るっぽいが、皆出現する魔物の名前で呼んでいる。
それで通じるので問題は無い。
その森に誰かを、案内して欲しいという事か。
そこに行こうかと思っていたから丁度いいか。
「分かりました、シャロもそれでいいか?」
「いいよー」
「良かった、誰も引き受けてくれないので助かります」
⋯⋯⋯⋯早まったか?
やっちまった感がすごい。
「ソラー、やっちゃった?」
「それでは、連れてきますので待っててくださいね」
⋯⋯俺、またなにかやっちゃいました?
しばし待ち、アイリさんが1人の女性を連れてきた。
「お待たせしました、それではお願いしますね」
そう言って連れてきたのは。
肩までの金髪に赤い瞳。
腰にメイスを携えた、シスター服を着た女が立っていた。
「初めまして、マリアと申します」




