97.氷と風のドンパチ
あたまいたい⋯⋯。
2度の鐘の音と共に、鈍い頭痛がする。
この感じは二日酔いか、昨日そんなに呑んだっけ?
エル雄と呑んでから記憶が曖昧だ。
ベッドから身を起こし、〈収納魔法〉から状態異常回復ポーションを取り出す。
本来は毒とか麻痺した時に使うものだが、マルコさんから二日酔いにも効くという、カスなライフハックを教えてもらった。
まぁ自分で作った物なので、効果は市販品よりはるかに劣る。
体のちょっとした、不調を治すにはこれくらいがいい。
小さい小瓶をグイッと飲み干し、効果がじんわりと表れ始める。
薬師が作った物は、効果が瞬時に出るのだが。これは自家製なので、効果が出るのもゆっくりだ。
着替えを済ませ、部屋の扉を開けると、初老の男性が立っていた。
俺は静かに扉を閉める。
「おはようございます、ソラ様」
「⋯⋯おはようございます」
直ぐに扉を開けられ、外に連れ出される。
ふ、2日後って言ってたのに!嘘つかれたのか?!まだ1日あるでしょ!そんな言葉が飛び出そうになるも、グッと堪え耐える。
簀巻きにされるよりはマシだ。
セバスさんの後に続き、1階へと降りた俺の目に飛び込んできた光景。
何故か、食堂の一角が豪華になっていた。
豪華というか、木のテーブルが無くなっており、別の豪華な意匠の施されたテーブルが置かれ、そこに3人の人物が座っている。
アナとシャロ、そしてアウラお嬢様だ。
アナとシャロは普通の木の椅子で、アウラお嬢様は、ティーカップ片手に、これまた豪華な意匠の施された椅子にそれぞれ座っていた。
「お嬢様、ソラ様をお連れ致しました」
「⋯⋯おはようございます」
「おはよう、ソラ」
「おはよー」
「ごきげんよう、随分とお寝坊さんなのね?」
ティーカップを口から離し、テーブルに置くと小言が飛んできた、その言葉を聞いてアナは顔面がピキっていた。
よく見るとアナの格好は、デカイロックタートルを倒した時の装備と同じだった。
なぜ臨戦体制なのだろうか⋯⋯。
テーブルの傍で、セバスさんと共に立っていると、アウラお嬢様が自身の隣にある木の椅子を指差し。
「立ったままだと、疲れるでしょう?コチラに座られたら?」
ガタッとアナが立ち上がり、アウラお嬢様が指定した椅子に座る。今日もバチバチしてますなー、シャロは欠伸してるし。
「ソラ来たからご飯食べよー?」
何故かアウラお嬢様と昼飯を食べる事になった。
◇
「それで、何しに来たの?」
「予定よりも早く方が付いたので、訓練を再開しようと思って、来ましたの」
やっぱりか⋯⋯。
本来なら、あと1日猶予はあるはずなのに⋯⋯。
俺はシャロに身を寄せカタカタ震えていた。シャロはそれを優しく受け止め、頭を撫でる。
⋯⋯ふーん、悪くないかな?
とはいえ、貴族令嬢が直接来てるのに断るとか、何されるかわかったもんじゃない。
セバスさんも、布を出してスタンバってるし、背後にはメイドさんが俺を見下ろしている。
逃げたらどうなるか⋯⋯。
アナとアウラお嬢様の間に火花が散ってる、何でそんなに仲が悪いのやら、昔何かあったのか?この状況で聞くのは怖いからやめとこう。
行くか。
「そろそろ行きますか」
そう呟き、俺は椅子から立ち上がるとセバスさんの前に向かった。簀巻きになるコツ、それは抵抗しない事だ⋯⋯。ぐるぐる。
セバスさんの熟練の手つきにより、一瞬で簀巻きにされた俺は、そのまま肩に担がれ、3人に言う。
「さ、行こうぜ?」
3人の視線を一身に受け、3人を急かす。
「はいはい!ボーッとしない動いて動いて〜!」
「はーい」
「ハァ⋯⋯、ちょっと着替えてくるね」
アナは着替えに自室へと向かった、それを見送ったアウラお嬢様は口を開き。
「其れでは、参りましょうか」
椅子から立ち上がると、サッサと宿の入口へと向かっていった。
あれ?アナを待つ流れじゃ⋯⋯。
「アナちゃん待たないんですかー?」
「待ってて、なんて一言も言ってませんでしたので。さ、行きますわよ」
その後をセバスさんがついて行く。
メイドさんはテキパキと片付けを行っていた。
こういう態度が仲悪い原因なんじゃ⋯⋯。
真実は当事者しか分からない。
俺は簀巻きにされてるので、どうすることも出来ない。
シャロは少し迷い、ついて行く事にしたようだ。
馬車に乗り込み、向かう先は冒険者ギルド。
◇
着いて早速訓練所へと向かうつもりだったが、アイリさんに声を掛けられた。
「ソラ君にシャロちゃん。ちょっと相談したい事があるので、こちらに来てもらってもいいですか?」
「何ですか?あ、ちょっとあっちに行ってもらってもいいですか?」
セバスさん越しに返事をし、近寄ってもらうようにお願いする。
頼みを聞いてくれたのか、アイリさんの前へと行き先を変えてくれた、よし時間を先延ばしにできそうだ。
「その要件、今でないとダメかしら?」
「え?い、いえ。後でも大丈夫ですが⋯⋯」
「そお?ならそうしなさい。行くわよセバス」
「かしこまりました」
アウラお嬢様がそれを許さなかった、セバスさんはアイリさんにお辞儀をし、再度訓練所へと足を向ける。
ああああ⋯⋯、アイリさん⋯⋯。
俺はアイリさんをジッと見つめるも、直ぐに目を逸らされた。
⋯⋯貴族様に逆らうのは怖いですもんね。
そのままシャロと共に、訓練所へと消えていった。
◇
真っ白に燃え尽きた、俺とシャロはアナの膝枕で横になっていた。
ヒンヤリしてて気持ちいい。
ちなみに、アナは途中からキレながら参戦し、アウラお嬢様とドンパチを繰り広げた。
氷と風の魔法がぶつかり合い、その余波で周りで訓練していた冒険者は全員吹き飛んでいった。ヒーラーの笑顔が眩しい。
そんな嵐の中を気合で突き進み、アナに抱き付き止めに入った俺を、全員が褒めたたえた。軽い凍傷と全身打撲で意識の遠のく俺を、ヒーラー軍の回復魔法が炸裂。
久しぶりに、元の世界の爺さん婆さんを見た気がした⋯⋯。
その後はアナ監修の元、訓練という名のサンドバックが再開された。
アナさんの的確な指示により、アウラお嬢様はギリギリ避け切れないスピードで、殴れる様になった。
いやー、こっちの方が怖いわ、避けれそうなのに避け切れないんだもの。
明確に殴られる瞬間が意識出来てしまう。
き、きつい⋯⋯。この後アイリさんからの用事も有るっていうのに。
用事か、一体何の用だろうか、もしかしてまた何か割の良い依頼でも、紹介してもらえるのかな?
「2人共大丈夫?」
「あい」
「少しだけー」
もう少しだけこのままでいよう。
太ももの感触サイコー。
◇
ある程度精神が回復したので、アイリさんの所へと向かった。
アウラお嬢様は既にご帰宅されたので、この場にはもう居ない。
新しい装備が完成するまでは、続けるとか言ってた気がする、俺は一度も装備を新調しているなんて、言った覚えは無いのだが⋯⋯。
貴族の情報網と云う奴だろうか。
そんな事を考えている間に、受付へと着いた。
「あ、もう訓練は終わりましたか?」
「ええ、それで。用事ってのは何ですか?」
「御疲れ様です。はい、それではですね。ソラ君とシャロちゃんにはランクを上げてもらう可能性が出ています」
「それほんとー!?」
アイリさんは今なんて言った?ランクを上げる?なぜ?
確か[銀]ランクに上がるには、試験という名の依頼を受けなければならない筈だが。
[鉄]ランクになって、日も浅い俺とシャロには、ランクを上げるだけの実績は無かったと思うが⋯⋯。
まぁいい、とにかく理由を聞こう。
「理由はなんですか?」
「お2人が鉱山都市で倒したという、鉱石喰らいですが。防衛戦のどの個体よりも大きく、尚且つ異質な魔物でした。その魔物を6人の[鉄]ランクが討伐したという事で、この6名は[銀]ランクに相当するのでは?という意見がギルド上層部から上がって来ています。
ああ、でも。上げる上げないはお2人の意思に、お任せという形になりますので、ランクを上げる際は声を掛けてくだされば対応いたします」
「なるほど、そういう理由ですか⋯⋯」
あの時の鉱石喰らいの討伐が、かなり評価されたって事か。
とはいえ、今すぐ上げる気にはなれないな。
まだ[鉄]ランクの依頼も一つしかこなしてない訳だし、実際に色々受けてみて、いけそうならランク上げに挑戦してみるか?
今にもランクを上げそうな、シャロを抑える事から始めるか。
「折角ですが、暫く保留という形でお願いします」
「えー!なんでー?」
「俺達には経験が圧倒的に足りないからだよ、[鉄]ランクの依頼もまともにこなしてないんだから、ある程度やってみていけそうなら挑戦しよう」
「うー、わかったー」
シャロは物分かりが良くて助かる。
「私の時は、そんなの関係なく格上倒してランク上げたよ?」
「煽らないでもらっていいですか?安全第一が俺の基本方針だからな」
「その割には、けっこー命賭けてない?」
「不測の事態の時は良いんだよ」
賭けるべき時に命を賭ければいい、それ以外で回避できる選択肢があるならそっちを選ぶさ。俺はベッドの上で、家族に見守られながら死にたいのだ。
元の世界だと両親相手に、そういう事は出来そうにないし。
多分勝手に死んで、その時初めて連絡が来るだろう。
俺達はアイリさんに別れを告げ、宿屋へと戻った。
次回より、ようやく4人目の仲間が登場する話が始まります。
ブックマークと評価宜しくお願いします!




