96.デートおしまい!
危ない危ない。
いい雰囲気なせいで、普通に宿屋に帰ろうとしてしまった。
宿屋へ向かう途中で、アナが服のことを思い出し、慌ててきた道を戻った。
「いやー、まさか服の事を忘れるとは思わなかったな」
「フフフ、そうだね。私も楽しくて、つい忘れちゃってた」
服屋への道を2人で、キャッキャしながら歩いていた。
「ドーン!」
「うお!!」
いきなり背中に衝撃が来た。
誰だいきなり⋯⋯、ふざけやがって。
そう思い、振り返ると。
「⋯⋯なんだ、シャロか」
シャロが立っていた。
「2人共まだ帰らないの?そろそろ日が暮れちゃうよー」
「今から服屋に、荷物取りに行くんだよ」
いきなり現れたシャロだったが、すぐ側にもう1人知っている人物がいた。
「こんにちは」
エルフ族のリリアーヌだ。
「あ、どうも。エル雄は⋯⋯、居ないのね」
「はい、今日はギルドの資料室で、本を読むと言っていました」
なるほど、アイツ暇があると本を読むからな。
「ヒューマンも、もうちょと本を読んだらどうだ?」とか言ってたな。
正直、冒険者家業に必要な物しか読む気しないんだよなー、この国の歴史とか特に興味無いし。
エル雄が居ないってことは、元々2人で約束していた感じか?
シャロの脅しに屈する必要なかったんじゃ⋯⋯。
シャロをチラリと見ると、ニヤリと笑った。
こ、こいつ⋯⋯。
まぁいい、今回は勝ちを譲ろう。
もしかしたら、もっと早い段階で突撃を食らっていたかもしれないしな。
「リリーちゃん!この人が話してたアナちゃんだよー」
「この人が。初めましてリリアーヌと申します」
「こんにちは、私はアナスタシア・ベールイといいます」
アナとリリアーヌが、お互い頭を下げ挨拶を交わす。
何時の間にか、リリーなんて呼ぶ間柄になってたのか。
シャロに友達が増えて俺は嬉しいぞ⋯⋯。
俺の友達?⋯⋯⋯⋯エル雄くらいか?
⋯⋯サッサと服を取りに行くか。
「じゃあ俺達は服を取りに行かないといけないから、これで」
「えー!あたし達も行っていい?」
「宿屋で待ってろよ」
「ソラ、私は別に良いよ。今日一日ソラを独占しちゃったんだし、ね?シャロちゃん」
「え!?えー、いや、別にそういうんじゃないんだけどーねー」
珍しくシャロが狼狽えてる。
「なんだ?寂しかったのか?」
「ちーがーいーまーすー!ほら、服取りに行くんでしょ、行こ!」
「フフフ、可愛いね?」
「そうですね」
シャロは照れ隠しなのか、サッサと先に行こうとした。
アナとリリアーヌが、そんなシャロを見てクスクス笑っていた。
そんな訳で、俺達4人は服屋へと向かった。
◇
「お待ちしておりました、アナスタシア様。コチラがご注文のお品です」
「買ったのはソラなんだけど、私に渡すの?」
圧よ⋯⋯。
店員がこの世の終わりみたいな顔してるぞ。
「こ、こちら。ご注文のお品です⋯⋯」
「あ、どうも」
そういえば、試着はしていった方がいいのかな。
更衣室的なのは見当たらないが。
まぁいいか、きつかったらまた仕立て直してもらおう。
店員さん死にそうな顔してるし。
「よし、次の店に行こう」
シャロの服を買った店へと向かった。
◇
「どうぞソラ様。ご注文のお品です」
「あ、どうも」
アナは満足そうに頷いていた。
俺が知らないだけで、そういう作法的なのがあるのだろうか。
別に気にしなくてもいいか。
「はい、シャロ。お土産の服だ」
「わー!ありがとー!」
そのまま、シャロに手渡す。
本当は宿で渡すつもりだったが、店まで付いてこられたんなら、その場で渡すしかないよな。
シャロは服の入った袋を手に小躍りしていた。
喜んでるから良いか。
商品も受け取ったし、帰るとしますか。
◇
俺達は宿屋への道を歩いていた。
「それでは、私はここで失礼しますね」
リリアーヌはエル雄を迎えに行くといい、途中で別れた。
エル雄を回収したら、シャーリー亭にまた来るらしい。
シャロが一緒に夕食を取る約束を、取り付けていたのだそうだ。
「それじゃあとで」
「あとでねー」
冒険者ギルドの方角へ歩いて行く、リリアーヌにバイバイと手を振り見送る。
さて、どうせだからちょっといい酒でも買って帰るか。
エル雄はエルフ族の王族っぽいし、明言はされて無いが何となく察する。
安い酒を出したら文句を言いそうだ。
帰り道に良い店あったっけか。
そんな事を思いながら、帰り道を3人で歩く。
「アナちゃん、今日はどうだったー?ソラはちゃんとやれてたー?」
「ええ、ちゃんとエスコートしてくれてたよ」
⋯⋯してたか?ただ一緒に歩いていただけな気もするが。
アナがそう言うんならそうなんだろう。
取り合えずドヤっとこう。ドヤァ。
帰り道で酒を買い、宿屋へと戻って来た。
エル雄達が来るまで、何しようかな。
「早速この服着てみてもいい?!」
「え?ああ、いいんじゃない?」
シャロはそう言うと、自分の部屋と駆け出して行った。
なるほど、買ってきた服を着てみるのもいいか。
「私も着てくるね」
アナも自分の部屋へと向かった。
⋯⋯俺も着てくるか。
◇
さて、3人出揃った訳で。
俺はグレーのワイシャツに黒いズボン。
ワイシャツは長袖なので、肘の近くまで折り曲げている。
この世界に来てから、鍛えられた為か、かなり腕が太くなっていた。
アナは地雷臭のするゴシックワンピース。
何故かツインテールにしている。
より、地雷臭が増してるな。
シャロは探偵風ワンピース。
普段は2つに縛ったおさげだが、今回は髪を縛らずそのままだ。
探偵風だが、どことなく学生服っぽい感じもするな。
もしかしたら、元々のコンセプトはそっちなのかもしれない。
三者三様。
結果から言えばお互い褒め合っていた。
「可愛い!」
「かっこいい!」
「似合うー!」
そうしていると、リリアーヌがエル雄を連れて、宿屋の食堂へとやって来た。
エル雄は本を読みたいらしく渋ったが、引きずられながらやって来た。
「恨むぞヒューマン」
俺を恨まれても困るんだが。
全員揃った訳だが。
リリアーヌがある事を言った。
「お風呂に入りたいです」
エルフは長命種族だ。
俺達、人間種が〈清潔魔法〉を取得したのは100年ほど前だ。
それ以前は風呂という文化はあった訳で、エルフ族はその記憶がある。
今でこそ〈清潔魔法〉を使うが、風呂に入ったりはするようだ。
現にこの、シャーリー亭が風呂に入れると宣伝し始めた時は、エルフがこぞって来たらしい。
俺達はその時、鉱山都市に居た為、その事をしらなかったが。
その為、シャーリー亭の客層でエルフの割合が若干増えていた。
リリアーヌも時折来ているらしい。
という訳で、男女に分かれて風呂に入ることになった。
◇
ああ~、染みる。
やっぱり湯舟はいいな、朝も入ったが一日中歩き回った後だと尚更いい。
「ふぅ、中々良いじゃないか。リリアーヌが通うだけはある」
⋯⋯やはりエルフ。
全裸になっても奇麗だな。
何処が、とは言わないが美形だ、ツルンとしている。
種族差とはこうも残酷なのか⋯⋯。
まぁ俺の方が大きいがな。ドヤァ
しかし野郎だけとは華がない。
ここで、女子風呂の様子を⋯⋯となる場面だが、俺にそんな権限はない。
諦めてください。
俺とエル雄はお風呂から出て、食堂へと向かった。
女性陣はまだ入ってる様だ。
仕方ない、男だけで始めるか。
「3人を待つか?」
「偶にはヒューマンと、差しで飲むのも悪くないだろう」
よし、潰す。
俺は帰り道で買った酒を取り出す。
「度数が高いのを買っておいた⋯⋯飲もうぜ?」
「ふっ、いいだろう」
◇
「うい~、ほらエル雄吞めよ~」
「ヒュ~マン~、俺のコップはこっちだ~」
「⋯⋯うっわ」
「見事に酔ってますね⋯⋯」
「フフフ、ソラは相変わらずだね」
3人が戻って来た。
3人?6人くらいいない?視界がゆらゆらする。
「なんだ~、アナさっきの可愛い服は着ないのか~。シャロも着替えやがって~、俺は犯人じゃないぞ~」
「何言ってるのー?」
「完全に酔っぱらってるね」
「エル子よ⋯⋯、世話をかけるな~、僕はお前が一番だ~」
「素面の時に聞きたいのですが⋯⋯」
酔っ払い2人の夜は更けていく。




