95.アナとデート②
アナと服を色々と見て回った結果、ある店に当たりを付けた。
アナが何やらジッと見ていた服がある店だ。
正直俺も、その店のある服を見てアナに似合うんじゃないかと思った。
なので俺達は、その店に戻り服を再度見る事にした。
その道中ある事を思い出す。
⋯⋯シャロの服を決めるの忘れてた。
ヤッベー、どうすっかなー。
今更他の店をまた回るのも面倒だし、かといって手ぶらで帰ったら、何を言われるかわからん。多分かなり拗ねるだろう。
取り合えず、俺とアナの服を買ってから考えるか⋯⋯。
面倒事は後回しに限る。
アナと共に目的の店まで、テクテク歩いて行く。
目的の店に着き、扉を開ける。
「いらっしゃいま、せー」
店員の声が一瞬詰まった。
また来た、とでも思ったのだろう。
気にしない気にしない。
そういう反応はもう慣れたよ。
「それで、どの服にするの?」
「アレだ」
そう言って、アナがジッと見ていた服を指差す。
グレーのワイシャツに黒い長ズボン。
男の子だもの、黒い服は大好きなんです。
「私もソラに似合うと思ってたんだよね~」
「そうだろう?俺もあの色合いは好きだしな」
実際元の世界では黒色の服が多かったな、あるあるだよね?
それにワイシャツなら、上にジャケットなり羽織れば使いまわせるし。
よし、俺のは決まった。
次はアナの番だな。
俺はある服を見る。
⋯⋯何故かこの店、童貞を殺せそうな服があったりする。
例の背中がガッバーと開いているアレだ。
流石にアレをプレゼントする勇気はない、というかアレを貰っても困るだろ。
アナが黒系の服を選んでくれたわけだし、俺も黒系の服をって事で。
襟元に十字のデザインの有る、ゴシックワンピースを選んだ。
仄かに地雷系臭がするが、アナならきっと似合う。
⋯⋯俺のセンスを疑うのはやめて貰いたい。
俺はそのゴシックワンピースを指差し、アナに伝える。
「俺は、アナにはこういう服も似合うんじゃないかと思うんだが、どうだろうか?」
「へー、ふーん、ソラってこういう服が好きなの?」
「好きか嫌いかで言えば、好き寄りだな」
「そうなんだ⋯⋯、うん。良いかも」
決まったな。
俺は店員に、この2着を買うと伝える。
「畏まりました、では調整を致しますので。
少々お待ちください」
そういえばそうだった。
この世界の服は、中古が基本だ。
新品を買うにしても、その人に合ったサイズに仕立て直す必要がある。
SMLの概念が無いのだろう。
そもそも、工場がないので大量生産なんて事が出来ないのだろう。
全て手作りだから仕方がない。
服を作る魔法は無いらしい。
魔法も万能ではないのだ。
そんな訳で、体のサイズを測ってもらい。
仕立て直してもらう事になった。
代金先払い。
うぐぐぐ、結構いいお値段だ。
「それで、どれ位で出来る?」
「え、えーっとですね、3、いえ、2時間で仕上げてみせます」
アナの圧は恐ろしい。
時間までなにするか⋯⋯。
そういえば、そろそろお昼の時間だ。
「先に昼飯でも食べるか?」
「そうだね~。あ、お昼は私が御馳走するね!」
そういう事になった。
◇
アナにお昼を御馳走になったが、約束の時間までまだ少しある。
そろそろシャロの服を真剣に考えるか。
一応、目星は付いている。
本人に似合うかどうかは別として、おっ?と思う服はあった。
「まだ時間あるし、先にシャロの服見てもいいか?」
「そういえば、お土産に買ってあげるんだっけ?
じゃあ、早く選んであげよ」
そういう訳で、俺が目星をつけた店へと向かった。
扉を開けると、店員が出迎えてくる。
「い、らっしゃいませー」
コチラも一瞬詰まった。
どの店員も反応がワンパターンだな。
だからといって、腰を抜かして慌てる姿を見せられても困る訳で。
何時か、アナを見ても皆が平然と対応できる日が来ると良いのだが。
その話は置いといて。
目的の服を見る。
ブラウン色のチェック柄のスカートに、白いブラウスとブラウンのケープが組み合わさった服。
要は探偵風ワンピースだ。
俺のセンスを疑ってはいけない。
何となく、元気いっぱいなシャロが、探偵のまねごとをしている姿が浮かんだだけだ。
目に浮かぶぞ、的外れな推理をして、最終的に脳筋プレイに走る様が。
シャロ、俺は犯人じゃねぇ。
というか、この世界的には、こういったデザインの服。というだけなのだろう。
探偵何て職業は無いだろうし。
⋯⋯着る機会あるか?コレ。
わからんが、取り合えずプレゼントしてみよう。
服は決まったが、仕立て直すにしても、本人を連れてこないといけないか。
そう思っていると、アナが1枚の紙を差し出してきた。
「なにこれ」
「シャロちゃんのサイズ。
この前服買った時にメモして貰ってたやつね。」
なるほど、これで本人が居なくても仕立て直してもらえるって事ね。
流石アナ賢い。
俺はアナの頭を撫でてあげる事にした。
「アナは賢いなー」
「え~?どうしたの急に~」
まんざらでもないご様子。
ひとしきり頭を撫で、恐ろしい物を見る目をしていた店員にメモを手渡し、目的の服の仕立て直しを御願いした。
「一時間で出来る?」
「で、できまぁす!」
圧よ⋯⋯。
流石に可愛そうなので、口を挟む。
「アナの言う事は気にしなくていいので、無理のない時間でお願いします」
「えー、早い方がいいんじゃない?」
「それだと、またここら辺に釘付けになって、別の場所に行けないだろ?
それなら、帰りに受け取った方がいいと思うんだが」
「あー、確かに。
夕方までには仕上げてね」
「は、はい⋯⋯」
時間は伸ばした、後は頑張ってくれ⋯⋯。
俺達は店を後にし、この後の事を話し合う。
「正直に言おう、この後どうする?」
「うーん、どうしようか」
いや、マジで。
この世界娯楽が少なすぎる、劇場は有るがチケットは1ヶ月待ちとか普通にある。
それ以外に娯楽施設といったら、ギルドの訓練所?アレは娯楽じゃないな。
図書館もあるが⋯⋯、デートで行くところでもない。
当然だが、映画館やショッピングモールもない。
マルコさん曰く、暇ならそういう店に行けばいいとか言ってたが、カスの意見なので無視。
そもそもデートで行くところじゃない、行ったとしたら頭を疑われる。
いっそ、街をひたすら歩くか?露店を見て回るのもいいかもしれない。
⋯⋯露店?
あ、忘れてた。
俺は〈収納魔法〉から、ある物を取り出す。
さも、今渡すつもりだった風を装う。
「そうだアナ、先にこれを渡しておくよ」
そう言って、鉱山都市で買った、銀色の桜の花弁に似た花の髪飾りを手渡した。
「わぁ。いいの?」
「ああ、鉱山都市に行った時に見つけてな。
アナに似合うんじゃないかと思って買ったんだ」
「⋯⋯ありがとう」
アナは、それを大事そうに胸の前に抱きよせる。
喜んでもらえたようだ。
あっぶねー、忘れる所だった。
さっそくアナは髪飾りを付けてくれた。
「お、いいね。可愛い。」
「えへへへ、ありがとう⋯⋯」
何この生き物。可愛いな。
なんでみんな怖がるの?俺が異常なだけなのか?それなら異常でいいか。
「それじゃ、行くか!」
「うん!」
俺達は歩き出した。
◇
俺達はあっちにフラフラこっちにフラフラ。
当ても無くさ迷い歩いていた。
市場を一緒に歩き、初めて見る食材にテンションを上げたり。
露店を見ながら、お互いにあーだこーだ言ってみたり。
楽しい時間を過ごした。
なんだ、娯楽施設何ていらんかったんや。
ワイにはアナが居ればそれでええんや!
俺はそう思った。
それはそうと、なんか街中に黒い靄が所々に見える。
なにあれ、と思い。アナに聞いてみたが。
「私は何も見えないけど?」
鉱山都市の時と、同じ返答が来た。
えー、ホラー展開はやめてほしんだけど⋯⋯。
本当の所は、鉱山都市に行く前から見えていた。
見えていたが、あえてスルーしていた。だって怖いもん。
鉱山都市に行く前はうっすらだったが、帰って来てからは少し色が濃くなっていた。
闇属性を使えるのが関係しているのか?
真相は分からないが、その黒い靄を見ても悪い感じがするとかはない。
本当に只黒い靄があるだけにしか思えない。
まぁいいか、これも後回しにしよう。
未来の自分が何とかしてくれるだろ。
それに、シャーリー亭にはそういったのが、居ないから気にする必要も無いか。
居たら発狂する自信がある。
怖いのは苦手だ⋯⋯。
気付けば、もう陽が暮れ始めていた。
そろそろ服を引き取って、宿に戻るかな。
「そろそろ帰ろっか」
「そうだね。
ねえ、ソラ⋯⋯。
手、繋いでも良い?」
「もちろん」
俺はアナの手を取り、優しく握った。
そろそろデートも終わりを告げる時間だ。
帰り道は、少しだけ、ほんの少しだけ。
ゆっくり歩いて行こう。
アナが俺と居る時だけは、1人の少女として過ごせるように。
この瞬間を楽しんでくれると良いな。
まぁ、この後シャロが突撃してくる訳だが。
それは次回のお話。




