94.アナとデート①
朝が来た。
かなり早い時間に起きてしまった。
今日は、アナと2人で出掛ける事になっている。
シャロは付いてこないだろう、何気に空気は読める子だ。
付いてきたら⋯⋯、その時考えればいい。
別に邪魔者扱いする必要も無いしな。
⋯⋯!?しまった。
デートに着ていく服が、無い!?
元の世界と違って、洋服は冒険時の服、普段着、部屋着位しか持ち合わせてない。
どれもデザインは、The無難。普通の街人が着るような物しか持っていない。
唯一のお洒落な服は、アナに買ってもらったパーティ用の高い服のみ。
ワイシャツだけ着るか?だとしても、ズボンとの差が凄い事になる。
かといって、パーティ用のをそのまま着るのは違う気がする。
いっそ服を見に行くといのも有りか。
⋯⋯試着とか出来るのだろうか。
アナにもなにか服をプレゼントするか?
俺は、色んな服を着ているアナをイメージした。
⋯⋯良いな。よし、今日はそのプランで行こう。
そうと決まれば、女物の服を扱っている店をシャロから聞き出さなくては。
俺は普段着に着替え、1階へと降りていった。
「お店?うーん。
あたしもそんな頻繁に服買う訳じゃないし、アナちゃんのが詳しいんじゃない?」
俺は既に起きていたシャロに服屋の事を聞いたが、帰ってきた答えはこうだった。
「そうか⋯⋯。
仕方ない、素直に聞いてみる事にするよ」
「お土産にあたしのもよろしくー」
「自分で買いに行けよ、金はこの前のが有るんだし」
「邪魔しても良いんだよ?」
こ、こいつ⋯⋯。
俺を脅す気か?なんて子に育ったんだ⋯⋯。
悪い意味で空気が読めてやがる。
俺も負けてはいられない、俺は力強く宣言した。
「可愛い服選んでやるから覚悟しな!」
「はーい」
「朝風呂浴びてきます!」
「いってらー」
俺はシャロに屈したので、朝風呂に入って気分を変える事にした。
◇
サッパリした〜。
やっぱり朝風呂はいいな、朝から湯船に浸かっても、〈水生成魔法〉のお陰で水道代を気にしなくて済むのがいい。魔法万歳。
水に〈清潔魔法〉を掛けて使い回す手も有るが、アレ下手したら魔力ゴッソリ取られるんだよな。
〈清潔魔法〉は基本、人や指定した物体の表面の、汚れ等を消滅させる魔法だ。
その為、掛ける範囲で消費魔力が決まる。
なので地続きの物を指定すると、消費魔力が跳ね上がったりする。
その性質上、湖や川に使うと強制的に広範囲に魔法をかけた事にされてしまう。
そうするとどうなるか、魔力がゴッソリ消費され、気絶寸前まで追いやられる。
湯船の水なら平気だと思うが、万が一隣接している他の水場と繋がっていると判定されるとヤバい。風呂場でぶっ倒れ、溺れる可能性がある。
なので、湯船の水は1度使うと変えた方が衛生的だ。
この宿では、使う人間が自分で湯を沸かすシステムになっている。
だからか、誰かが沸かすとゾロゾロ入ってきたりする。
今は早朝なので、そんな事はなかった。
優雅に1人風呂、最高ですな。
ホカホカ湯気を出しながら、食堂へ行くと。
アナの後ろ姿が見えた。
何時も昼近くまで寝ているのに、今日はバッチリ起きているようだ。
ライオンヘアーな寝癖もなく、ちゃんとシャロと一緒に朝食を食べているご様子。
食堂に入ってきた俺を見て、シャロが指を指す。
「あ、お風呂から上がったみたいよー」
「おはよう、アナ。
もう起きたんだな」
コソコソする必要もないので、アナに朝の挨拶をしながら、いつも使用している4人掛けのテーブルへと近づく。
俺達3人はいつも同じテーブルを使っているので、座る位置は固定されてる。
自分の椅子に座り、改めてアナを見る。
フードに猫耳の付いたパーカーに、長い髪を三つ編みにし、肩から垂らすようにしていた。
初めて見る髪型だ。
何時もはそのままか、根元で軽く縛っている髪型が多い。
シャロと一緒にツインテールにしてる時もあったな。可愛過ぎて死ぬかと思った。
実際死んだ気がするし、直ぐに生き返った気もする。
「おはよう、ソラ。
楽しみで、早起きしちゃった」
アナは微笑みながら言った。
アナが可愛すぎて、俺は今日死ぬかもしれない。
シャロが席を立ち、俺の朝食を用意してくれる。
とりあえず腹ごしらえからだ。
朝食を食べながら、今日のプランを話し合う。
「洋服を買いに行きたいんだが、何処か良い店しってる?」
「洋服か~、男の人が着る服はあんまり詳しくはないかな。
洋服系のお店が固まってる場所が、あるから案内するね」
「おお!助かる。
それと、何時もお世話になってるし、俺からもアナに服をプレゼントしたいんだが……、どうだろうか」
そう俺が提案すると、アナの顔がパアッと明るくなり、嬉しそうに言う。
「いいの?嬉しいなぁ。
私、誰かからプレゼント貰うのって初めてなんだ~」
「[白金]ランクなら、色んな人から貰ったりしないのか?」
「貰いはするけど、私からしたら価値の無い物だからね。
それに、私の機嫌を取る為に仕方なく渡してくる様なものだし……。
人から純粋にプレゼントとして貰うのは、ソラが初めてかな」
なるほどねー。
ただ貰うだけでも、人によって意味合いが違うか。
そういえば俺も、翼から誕生日プレゼントを貰った時は嬉しかったな……。
アイツ今どうしてるんだろうか。
もう会う事も無いであろう、友人に思いを馳せる。
俺が居なくても問題無いだろう、イケメンだし……、イケメンだし!!
俺達は朝食を食べ終わり、早速行動を開始することにした。
「お土産宜しくねー」
「おう、行ってきます」
「行ってきま~す」
シャロが宿の玄関口で手を振り、俺とアナを送り出す。
◇
さて、デートが始まったわけだが。
何をどうしたら、いいのかがわからん。
デート何て、元の世界でもした事が無いのだから仕方がない。
翼とはよく2人で出掛けていたが……、男同士で行く所ばっかりだったから参考にならんな。
とりあえず目的の服屋に向かうとしよう。
アナは俺の横をニコニコしながら歩いている。
手を……握るべき?
以前も緊急依頼の帰りに繋いだ覚えがある、それにパーティーの時に腕を組んだりもしたな、あれはあくまでも形式的なやつだろうけど。……一旦保留で。
取り合えず会話をした方がいいか、さっきからお互い無言だし。
「良い、天気だな?」
「そうだね、晴れてよかったね」
……会話が終わった。
普段なら特に意識しなくても会話が続くのに……。
言葉が出て来ない、これがデート……か?
とはいえ、別にこの無言の間が嫌という訳ではない。
陽も徐々に高くなるにつれ、周りの活気が増してきた。
その喧騒の中を、2人で歩き、同じ時間を共有する。
悪くない。そう思った。
人も増えてきた影響で、次第にお互いの距離が狭まる。
不意に手と手が触れ。
どちらからともなく、その手を取り合った。
ああ、俺は今日死ぬかもしれない。
17年の人生の中で、最高の瞬間を迎えていた。
アナの手はすべすべしていて、少しヒンヤリしていたが握っている内に、仄かに暖かくなるのを感じた。
2人で道を歩いていると、目的の服屋がある通りに辿り着いた。
ほお、確かに服屋がいっぱいだ。
それぞれの店の大きな窓には、色々な服が飾られていた。
「おお、色んな服があるな」
「うん、早速お店に入ってみる?」
「そうだな、あっちの店からにしよう」
一番近い店に入ってみる事にした。
扉を開けると、色々な服が目に飛び込んできた。
「いらっしゃいませ~」
店員が俺達に気づいた様で、声を掛けてくる。
声を掛けてきたが、小さい声で「ヒェッ」と聞こえた気がする。
アナの方を見ながら、言っていた気がするが気のせいだろう。
店内を見回す。
うーん、男物が無いな。
どれも女性用って感じだ、しかもかなりセクシーな感じのが多い。
アナにも似合うだろうが、流石にこれをプレゼントするのはどうかと思うってのばかりだ。
次の店だな。
そうしていくつかの店を回った結果。
男物が⋯⋯少ない。
いや、あるにはある、デザインがどれも大体同じなのだ。
違うデザインもあるが、金持ちをイメージするようなデザインばかりだ。
どうしよ⋯⋯。
いっそ、アナに選んでもらうか?
実は一着だけ、アナがジッと見ている服があった。
上下黒色のパーカーとズボンだった、どことなくアナのパーカーと似ている気がした。
値段は⋯⋯結構した気がする。
「アナ、実は気になる服があるんだけど、その店に行かないか?」
「え?うん、いいよ。
どんな服?」
「行ってからのお楽しみって事で」
俺のとは別に、アナに似合いそうな服も見つけておいた。
それも同じ店にあったので丁度いい。
早速その店に向かう事にした。
⋯⋯そういえば、シャロの服の事を忘れてた。




