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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
4人目の仲間編

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93.ソラ調子に乗る

 ゴブリンもとい男を小脇に抱えて、アイリさんのお兄さんが訓練所から出ていく。

 俺達はそれを見送り、少しばかりの休憩を取る。


 周りの野次馬は、「新人に負けるわけないか」「アイツも強くなったな」など言いながら解散していった。


 ……俺、強くなってる?

 実際、男の剣筋はかなりハッキリと見えたし、その後どう動くかまで考える余裕があった。

 不味いな……、このまま俺TUEEEEE街道を走らなければいけない気がする。


 これはもう、アウラお嬢様にも一矢報いる事が出来るのではないだろうか。

 そうと決まれば、サッサと始めますかな。


 先程の戦いで、完勝した俺は調子に乗っていた。


「お嬢様、休憩はもう十分です。始めましょう」


「あら、もういいの?

 それでは始めましょうか」


 お互いグローブをはめ直し、構える。

 よく見るんだ、最初の一発を避けて、直ぐに懐に潜り込み、ボディーを叩きこむ。

 女性であることを考慮して、顔への打撃は避ける事にした。

 今の俺は、相手を気遣う余裕さえあった。そう、俺は強い……。

 アウラお嬢様の拳がピクリと動く。


 今だ!


 視界が一回転。

 周囲をグルリと見た後、俺はべシャリと地面に倒れた。


 すぐさま待機していたヒーラーが駆け寄り、回復魔法をかける。

 暖かい光が体を包み、傷と痛みが癒えていく。

 お、おおおお。無理無理無理無理。


 俺の調子に乗って伸びきった鼻は、最初の一撃で顔面に陥没した。

 例の如く、咄嗟に眼を瞑るよりも早く拳が飛んできた。

 首がグリンってなった、一瞬空中で体ごと一回転したもん。無理無理。


「せ、選手交代……シャロ」


 そう言ってガクリと倒れる。後は任せたぞ、シャロ。


「えー?もう駄目なの?」


 ダメなんすよ……、すまんな、俺は……弱い!?

 シャロが無言の俺を見下ろしながらため息を吐く。


「ハァ……、まあいいけどさー、もうちょっと根性見せてよねー」


 シャロはアウラお嬢様の前に向かい、盾を構える。

 因みにシャロはタンクという事で、お鍋の蓋みたいなサイズの盾で攻撃を防ぐ事になった。

 アウラお嬢様の攻撃を、ピンポイントで防ぐのが目的だ。


 2人が構える、アウラお嬢様が動くのと同時位に「ぐえっ」と短い悲鳴と共に吹き飛ぶシャロ。

 シャロも無理かー。流石に[白金(プラチナ)]ランクは格が違い過ぎるな。


 吹き飛ばされたシャロに、ヒーラーが駆け寄り回復魔法をかける。

 ……さっきより待機しているヒーラーが増えてる気がする。

「あの、まだ行かれないんですか?」


 やめろよ、もう少し倒れさせて欲しいんですけど。

 揺するな……。チッ、わかりましたー、行けばいいんでしょ行けば。

 俺は立ち上がり、アウラお嬢様の前へと進む。


 アウラお嬢様との特訓は2回目だが、1回目から20日位日が開いている、目が慣れるまでは殴られてやろう。

 目が慣れた、その時が俺の独擅場の始まりだ。行くぜ!


 まだ俺は少し調子に乗っていた。


 ◇


 俺とシャロは訓練場の壁を背に座り込み、白く燃え尽きていた。

 結果から言えば、2人共ボコボコに殴られた。

 シャロは後半、何度か1発目を防ぐ事が出来ていたが、即座に2発目が飛んできて吹き飛ばされていた。

 俺は1発目すら防げず避けれず、吹き飛ばされていた。

 ヒーラーの代表っぽい男に、何故か金を握らされた。

 回復魔法の修練代だそうだ。意味が分からないが、一応貰っておく……。


 燃え尽きている俺をセバスさんが簀巻きにし、俺とシャロを担ぎ挙げ馬車へと向かう。

 馬車の中で、アウラお嬢様は大層機嫌がいいようで。


「本日は有意義な時間を過ごす事ができましたわ。

 明日も、と言いたい所ですが、わたくしにも予定がありますので。

 次回は2日後にお迎えに上がりますわ」


 あ、あれのどこに有意義な時間を見出したんだこのお嬢様……。

 馬車の床に転がれながら、ジッとアウラお嬢様を見上げる。


「ん?」


 腕を組みながら、片方の手の人差し指をほっぺに、それ以外は顎に当て首を傾げる。

 くそぅ……可愛い。男である内はこの魅力に勝てそうにない……。

「痛い!」

 無言でシャロが蹴りを入れてくる。


 そんな俺達の様子を、アウラお嬢様は微笑みながら見ていた。


 馬車は進み、宿屋の前で止まった。

 馬車の扉が開かれ、運び出される俺の目に映ったのは。


 仁王立ちしているアナだった。


 俺は疲れているのか、目の前に居るアナの周りの空間が歪んでいる様に見えた。

 セバスさんは、そっと俺をアナの前に下ろし、後ろに下がる。

 次いで降りてきたシャロが、布の端を掴み引っ張り上げ、俺を転がす様に開放する。


「ぐえっ!」


 勢いよく持ち上げられ、回転しながら地面に叩きつけられる。

 ヒーラー居ないのにダメージ与えるなよ……。

 すると何処から現れたのか、ヒーラーが駆け寄って来て回復魔法をかけてくれる。


 え、何怖い。言いようのない恐怖を感じた。

 いきなり現れるヒーラーとはこうも恐ろしい存在なのか。

 いや、そう感じるのは俺だけか?わからない、何こいつ等。回復ありがとうございます。


「回復ありがとうございます」


 回復してもらったらお礼を言う。感謝の気持ちを忘れてはいけない。

 ヒーラーはペコリとお辞儀をして去っていった。


「では御機嫌好う」


 アウラお嬢様がそう言うと、馬車は走り去ってしまった。

 アナはそれをジッと見つめた後、俺を抱き起し宿屋へと連れて行く。


「ソラ、あんな女の所に何て行かなくていいんだからね?

 強くなりたいなら私の依頼に付いてくる?

 ギリギリ勝てる相手見繕ってあげるから」


 ……君の訓練もスパルタなんですが。

 俺は忘れないぞ、ダイアウルフの群れをけしかけられた事を。

 ホントにギリギリ勝てる位のラインで攻めてくるからな。


「いや、その……。

 今は、接近戦の強化を図りたいので、アナとの訓練はまた今度ってこどで……」


 俺は姿勢を変え、目を反らしながら告げる。

 その態度にアナは不満そうだが、仕方がない。

 うーん、何かで埋め合わせを……そうだ。


 俺は立ち上がり、アナに提案する。


「明日、一緒に出掛けないか?

 アウラお嬢様の訓練も2日後まで休みみたいだし、俺とシャロも装備が出来るまでは、休むつもりだったし。

 ……どうかな?」


 アナの表情がパァと輝き、その提案を飲んだ。


「うん!行く!絶対行く!」


 アナは俺の手を握りそう答えた。

 可愛い!やったー!

 鉱山都市で買ったお土産も、まだ渡せてなかったし丁度いいか。

 俺は今日の疲れを癒すべく、宿屋の風呂へと向かった。


 ◇


 あ゙ーーーーーー。

 疲れた。体の疲労もそうだが、なんだか目が一番疲れた気がする。

 湯船で溶けていると、風呂場の扉が開き。

 シャロの親父さんが入って来た。


 相変わらずすごい体だ、絞られた筋肉に至る所に歴戦の傷が付いていた。

 流れる様に、俺の隣に座る。


「ソラ、最近調子はどうだ?」


「調子?まぁ、普通ですね」


 なんだろう、何か探られてるのか?これといった心当たりがない。


「娘と、同じベッドで寝てたらしいな?」


 ……フー。湯船が熱いせいか汗が出るな。

 ここは言葉を選ばないと死ぬかもしれない。えーっと……。何も思い浮かばん。

 悪いシャロ、俺死んだわ……。


「えーっと、ですね。アナの別荘を借りたんですけども、ベッドが1つでして、えー、俺は最初床に寝ようとしたんですが、シャロが一緒のベッドでも良いんじゃないか?と提案してくれまして。それに甘える形で同じベッドで眠ったわけで、やましい事は決してなかったわけで……決して手は出していません」


「そうかそうか、娘は魅力がなかった、と?」


 どうしろってんだ!何このおっさん、娘に手を出してほしいのか?!手を出したら出したで殺す気だろうが!!


「はっはっは!悪いな、シャロから話は聞いている、あの子が俺達に嘘を言うなんてこともないからな、少しからかわせてもらった。

 それに、お前なら俺達は特に文句も言わんさ」


「そ、そうですか……」


 何処までが本気かわからん、もとよりシャロに手を出す気が無いから別にいいのだが。


 それから、湯船に浸かりながら鉱山都市でのシャロの事を聞かれた。

 親だからな、面と向かって本人から聞けないだけで、やっぱり気になるんだな。

 なので、シャロの活躍を少し脚色しておいた。


 風呂から上がり、アナとシャロの2人と夕食を取り、その日は眠りにつくことにした。


 そんなわけで、明日はアナとデートをすることになった。

 デート回ですよ、デート回。

 明日に向けてドキドキしながら瞼を閉じる。


 ……スヤァ

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― 新着の感想 ―
私はいつもあなたの 後ろに いる。 「うわっ!!ヒラーだ!!!」
この街にいる限り怪我の心配はしなくていいから安心だね。(恐怖) いつも楽しく読ませて頂いています。素晴らしい作品の執筆ありがとうございます。
リアルの辻ヒーラーはキモイ、か。確かにw
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