92.ソラVS新人
俺は道連れのシャロと共に、アウラお嬢様の地獄のサンドバックもとい、地獄の訓練を受けるべく、冒険者ギルドの訓練所へと連れて来られていた。
訓練所には、他にも色々な冒険者が思い思いに訓練をしており、その中には冒険者ギルドによる駆け出し冒険者への講習が行われていた。
その講習を行っている方角から、大きめの声で聞こえて来る。
「本当に受けなきゃいけねーんですか?」
声の方に視線を向けると、THE・初期装備といった冒険者の男が、アイリさんのお兄さんに食いついていた。
「お前の仲間は受ける様だが、お前は受けたくないのか?」
「はっ!当然だ、俺はコイツ等とは違うんっすよ」
お、典型的なイキリキャラだ。
周りの人達も手を止めて、成り行きを見守る体勢に入った。
時々起こるこういった事態は、ベテラン勢にとっての楽しい見世物的な感覚で見ている。
問題はここから男がどういった行動に出るかだ。
大抵はそのまま訓練場をでて、見物している連中が肩を落としてガッカリするパターン。
時々、教師役の人に喧嘩を売るのもいる。コチラは周りが盛り上がるパターンだ。
アウラお嬢様も腕を組みながら、そちらを見ていた。
男は思いもよらない事を言い出した。
「どうせ一緒に訓練するならよー、あっちの奇麗なねーちゃんの方が俺は良いぜ」
そう言って指を差した先に居たのは……アウラお嬢様。
確かに俺等は今グローブを着けているので、駆け出し的な感じに見えたのだろう。
……そうか、君も道連れになりたいのか。
俺は地獄めぐりの志願者が、自分から来てくれた事に感謝した。
さ、一緒にボコボコにされようぜ。俺は男に向かって手招きをした。
男はコチラに歩み寄り、言い放つ。
「そっちの男より、俺の方が強いぜ。
アンタもそんな冴えない男よりも、俺と一緒の方がいいんじゃないか?」
「はぁ?」
男の言葉に、アウラお嬢様は眉間に皺を寄せた。
やばい、機嫌を損ねたらこの人柱が排除されてしまう。
「まぁまぁ、この人も一緒に訓練を受けたいんですよ。
お嬢様が奇麗なので、きっと緊張して言葉が変になっているだけですよ」
機嫌を取りつつ、この男を道連れにする為にフォローを入れる。
逃がさんぞ……俺の為の肉盾は多い方がいい。
そんな俺の言葉を聞いたアウラお嬢様は、ある提案をした。
「いいでしょう。
では2人で戦って、勝った方をわたくしの訓練に参加させましょうか」
「……こいつも一緒に訓練受けるのはダメな感じですか?」
「ええ、第一そちらの方に興味がありませんの」
じゃあ戦わせる意味無くない?
そうか……、肉盾は得られない感じか……。
そして、珍しくシャロが噛みついた。
「ちょっと!ソラは冴えなくなんかないよ!
アンタよりもソラのがずっと強いんだからね!」
「んだこのチビ、お前はすっこんでろ」
……よし殺すか。
うちのメイン盾である、シャロをバカにするのは許さん。
コイツには肉盾ならぬ肉片になってもらおう。
「よし、わかった。
お前は俺が潰す、覚悟しな」
「ほー、いいねー。
泣いても許してやんねーぞ?」
「はっはっは。
安心しな、お前が泣いた時は許してやんゾ?」
「……面白れぇ。
ぶっ殺してやるよ」
俺は!?のマークと共に顔に青筋を浮かべる。
久しぶりに…………、キレちまったよ……。
周りがざわつきだす。
「お、喧嘩だ喧嘩ー」
「いいぞ~、やれやれ~」
「ソラと新人の対決か……どっちに賭けるよ」
「んー。ソラだな」
早速見世物にされてる気がするが、まあいいだろう。
俺はグローブを外し、シャロに預け。男と対峙する。
男は俺を睨みつけ言い放つ。
「お前、名前は?」
「……?
今から俺に負けるのに名前なんて聞く必要ある?」
煽りをひとつまみ。
実際俺はコイツの名前を覚える気が無い。
聞いても、多分刹那で忘れちゃうよね。
相手の男も顔に青筋が浮かんでいた。
そんな俺達の所に、アイリのお兄さんがやってくる。
「すまんなソラ、付き合わせてしまって。
それで、お前達はどうやって戦うのか決めてるのか?」
あー、言われてみれば。
シンプルに殴り合いなのか、それとも武器を使った模擬戦形式なのか、どっちにしたもんか。
「へっ!俺はなんだっていいぜ!」
「そうか。
なら、お互い得意な武器を持っての模擬戦形式でいいか?」
「俺はいいですよ」
「俺もだ」
「よし、じゃあお互い得意な武器を向こうから取って来い」
指差した所に、訓練用に色々な種類の木製の武器が置かれていた。
俺は普通に剣でいいかな、盾は……いらんか。直感でそう感じた。
剣を片手に、訓練所の中央に戻る。
男の得物は、俺と同じ剣だ。
男と対峙し、剣を構える。
審判役として、お兄さんが俺達2人の間に立つ。
「よし、では魔法は禁止だ。
準備はいいな?
では、始め!!」
「オラアアアアア!」
男が剣を頭の上に振り上げ、突進してくる。
……?剣を上に挙げたままなので腹が丸出しだ。
擦れ違い様に腹を斬られたらどうするのだろうか……。
「オラァ!」
ガンと木剣同士がぶつかり合う。
取り敢えずは、その剣を受ける事にした。
顔の前で木剣を横にし、腹で受け止める。お、結構力あるな。
お互い木剣をグググッと押し付け合う。
……腹がガラ空きだな、取り合えず距離取るかな。
俺は男の腹に前蹴りを放つ。
「がっ」
あっさりと当たり、男が数歩後ろに下がる。
追撃を仕掛けようとしたが、男が手を付き出し、掌を広げ待ったのポーズを取る。
おっと、なんだ?魔法は禁止って言ってたから魔法を打とうとしている訳じゃないよな?
「て、てめぇ、卑怯だぞ!!」
え!?うそっ何か俺卑怯なことした?!
俺は周りを見回し、俺の今の行動に卑怯な点が合ったか確認を取る。
見物している連中は、首を傾げたり、横にフルフルと振ったりと、俺に卑怯な点は無かったといっていた。
「……だよね!」
俺はホッとした、アレだけ煽っておいて卑怯な手を使うとか情けなさ過ぎる。
だとしたら……こいつは何が卑怯だと思ったんだろうか。
流石にお兄さんも口を出す。
「ソラに卑怯な点は無かったと思うが、まさか蹴られたのが卑怯だと?」
「そ、そうだ!剣での勝負だろ!」
男の返答に、周りの連中がドッと笑い出す。
自分が笑われている事に対して、男の顔が怒りの為かみるみる赤くなっていく。
「あー、わかった。
じゃあ次は剣以外使わないから、それでいいな?」
「……ああ、ぶっ殺してやる」
男は腹を抑えながら立ち上がる。
「……そこのヒーラーの方、コイツに回復魔法お願いできますか?」
俺の申し出に、ヒーラーの人が男に回復魔法をかける。
男は腹を抑えた手を放し、剣を両手で握りしめ、言い放つ。
「……舐めた真似しやがって、これでテメェの勝ちは無くなったぞ。
負けた時の良いわけで考えとくんだな」
……コイツめっちゃ煽るやん。逆になんか可愛く思えて来たぞ。
男は再度剣を振り上げ、突進してくる。
……もういいや、コイツはゴブリンだとでも思っておこう。
ゴブリンゴブリンゴブリンこいつはゴブリン。
ゴブリンが剣を振り下ろす。
今度は剣で横に反らしす、振り下ろされた木剣を勢いよく地面に叩きつけ、ゴブリンは前のめりによろける。
よろけたゴブリンの顔に木剣を軽く振り、当てる。
さらにゴブリンはよろけるので、歩いて近寄り、上半身に数発木剣を軽く振り当てる。
男は後ずさり、片手を前に着き出す。
また待てか?今度はどんないい訳だろうか。
「〈火弾〉!!」
赤い魔法陣が浮かび、火の弾が撃ち出された。
撃ち出さる火の玉を木剣に当て、かき消す。
直ぐに男に詰め寄る。擦れ違い様に腹に木剣を叩きつけ、くの字に折れ曲がった男の首目掛けて木剣を振り下ろす。
思いっきり振り下ろしたつもりだったが、アウラお嬢様はそれを難なく受け止めた。
「はい、ストップ。貴方の勝ちですわ」
男はドサッと地面に倒れた。
……むぅ。ついカッとなってしまった。
いかんなぁ、相手は新人なのだから優しく手ほどきをしてあげるつもりだったのに……。
蹲る男に、アウラお嬢様が声をお掛けになった。
「どうやら、貴方の方が弱いみたいね。
邪魔だから消えなさい」
そう言って俺に向き直り、笑顔で言う。
「さ、訓練を始めましょうか」
「きゅ、休憩とかは……」
「いるの?この程度の相手で、休憩が?」
「アウラ様、此方の不手際でソラに迷惑を掛けてしまいました。
どうか少しばかり、休憩の時間を与えていただけませんか?」
アウラお嬢様に、お兄さんが頭を下げて頼み込む。
「……まぁ、いいでしょう。
その代わり、そこのゴミを外にだしなさい。いいわね?」
「承知しました」
「ソラもすまなかったな、今度飯でも奢らせてくれ」
お兄さんは、男を小脇に抱えて訓練場を出て行った。




