88.故郷を思い、流すもの。
ルクバトウ鉱山都市から戻って来た俺とシャロは、最初に冒険者ギルドに立ち寄り、依頼を完了させた。
そしてようやく、シャーリー亭へと帰って来た。
……なんか違和感が。
俺は記憶にあるシャーリー亭と、目の前のシャーリー亭との差に違和感を感じていた。
「なぁ、シャロ……」
「うーん。増築してる?」
……そう、なんか宿の裏庭が無くなっており、小屋の様なものが建っていた。
なにあれぇ……。
シャロの反応からして、シャロも知らなかったようだし。
ここで考えても仕方ないし、取り合えず入るか。
俺達は宿の扉を開け、中に入った。
中は……普段通りだ、別に変わった所はない。
宿に入って来た俺とシャロに、気づいた人物が居た。
シャロのお母さんである、シャーリーさんだ。
「あらあら~、シャロにソラ。
帰って来たのね~」
そう言ってシャロをギュッと抱き締める。
「えへへ、ただいまー」
シャロもそれに応える様に抱き返していた。
うーん。母と娘の仲睦まじい姿ってやつですな。
その光景を俺はうんうんと頷きながら見ていた。
シャロから離れた、シャーリーさんが俺をそのまま抱き締めた。
「貴方も、無事でよかったわ」
……お、おうふ。
「――あ、た、ただいまっす。へへへ」
予想外過ぎてなんかキモい感じになった。
シャロのお母さんは俺から離れ、少し涙ぐんでいた。
「2人共無事で本当に良かったわ」
…………なんだか自然と顔が緩むな。
帰って来ただけで、こんなに喜んで貰えたのは始めてだ。
少しだけ、ほんの少しだけ。
元の世界の両親の事を思い出した……。
俺が居なくなって、少しでも悲しんでくれているのだろうか。
もうそれを知るすべはないのだが……。
それでも、両親の顔が頭に浮かんだ。
ほんの少しだけ。
俺の眼から何かが零れた。
零れ落ちた涙は、暫く止まることが無かった。
今まで考えない様にしていた。
俺はもう両親と会う事は出来ないのだと。
俺はただ、その場に崩れ落ちながら。
その事実を受け入れるしかなかった。
◇
……シャロに恥ずかしい姿を見せてしまった。
何だか止まらなかったんだから、仕方がない。
シャロが無言で俺を抱き締めてくれている。
「もう、大丈夫だぞ?」
「んー、少しこのままが良い」
「……そうか」
シャロの手に手を添えて少しだけ、ほんの少しだけ甘える事にした。
……よっし!出すもん出したらスッキリしたな!
何を出したって?……涙に決まってんだろ、涙に。
さて、アナは何処に居るのだろうか。
シャロのお母さんに聞いた方が早いか。
「アナちゃんなら、領主様に呼ばれて朝から出かけて行ったわよ~」
そう言うって事は、まだ戻って来ていない訳か。
残念だ、アナの胸で泣くって手もあったな……。
打ち上げをしている間に帰って来るよな。
アナの性格上、黙って丸1日拘束されるなんて事は無さそうだし。
「取り合えず着替えるか」
「そうだねー」
俺とシャロはそこで別れ、約1ヶ月ぶりの自分の部屋と戻った。
自分の部屋というか何というか、実質自分の部屋みたいなものか。
久しぶりの自室は、埃1つない状態だった。
居ない間もちゃんと掃除はしてくれていたんだな。
宿屋だからあたりまえか?
俺はベッドに横たわり、少し目を瞑る。
今回は色々な事を経験したな。
長時間の馬車移動や、鉱石の採掘、それに初めてあんな大きさの魔物と戦ったな。
多分運が良かったのだろう。
実際、事前に〈闇の投槍〉を覚えていたから何とかなったんだし。
ああ、疲れた。
ベッドの上で大の字になり、体の力を抜く。
このまま、寝てしまおうか……。
……取り合えず着替えよう。
ベッドから身を起こし、洋服を脱ぐ。
――ふーむ。
改めて自分の身体を見る。
姿見が無いので詳しくは分からないが、自分の眼で見える範囲の肉体は、この世界に来た時よりも、かなり筋肉が付いていた。
腕は一回り程大きくなってるんじゃないか?
腹筋だってかなり付いている。
触ってみてもプヨプヨじゃない、確かに硬いものがある。
ふふふ、良いね。仕上がってる、仕上がっているよ!
腹筋6LDKだし、これが二頭の新時代……!!
そりゃあれだけ鍛えていれば筋肉は付くよな。
今回の採掘で更に腕の筋肉が鍛えられただろうし。
心なしか部屋着の服もきつくなった気がする。
三日前にも着ていたが、きつくなった気がする!
俺は自分の成長を感じながら部屋を出て、1階へと降りていった。
シャロはまだ来ていないようだ。
「シャロならお風呂に行ったわよ~」
お風呂?
――ああ、あの裏庭のアレか。
裏庭のアレとは、俺が以前ロックタートルの甲羅で作った風呂の事だ。
あの後もちょくちょく使ってくれているようで、そのまま設置されているアレの事だ。
俺も後で入ろうかな。
そう思っていると、シャロのお母さんから提案があった。
「ソラ君も入る?男湯もちゃんとあるわよ~」
「男湯……ですか?」
え、なにそれ。
甲羅を増設したのか?……ちょっと待て。
そういえば宿屋の裏側に何か建っていたな。
……まさか。俺は恐る恐る聞く。
「作ったんですか?風呂場」
「ええ、思い切ってね~。
ソラ君が来てから食堂の売り上げが良くってね~。
主人と相談して、立てたのよ~」
この人ほんわかしているが、元冒険者だったな。
思い切りの良さが違う。
……俺は悪くない。
悪くないが……、風呂は入ろう。
俺は言う。
「男湯、いただきます!」
◇
あー、サッパリした。
やっぱ風呂は良いな。
思ったよりも広めで中々よかったな、何人か同時に入るの前提なのかな?
俺はホカホカな状態で食堂へとやって来た。
既に先に座っている、シャロもホカホカしていた。
風呂上りといえば、当然あれだな。
キンキンに冷えたアレだ。
俺は〈収納魔法〉から、以前アナに冷やしてもらった酒瓶を取り出す。
シャロがサッと、コップを二つ俺の目の前に置く。
たっぷり注ぎ入れ。
コップを持ち、互いのコップにぶつける。
中の液体が波打ち少し零れる。
そんな事は気にしない、今言う事はただ一つ。
「「カンパーイ!!」」




