87.俺とシャロの帰路
朝の鐘が鳴る前の、まだ辺りが薄暗い時間帯。
俺とシャロは、乗合馬車に向かうべく身支度を整えていた。
この小屋ともこれでお別れか。
最後に軽く掃除をし、トイレに居るスライム君に別れの挨拶をする。
すまんな……。
これから干からびる運命の君を置いて俺達はここを出る。
最後に肉をひと切れ与えてみる。
プルプル震えているのが見えた。嬉しそうで何より。
俺はそっとトイレの蓋を閉じた。
部屋に戻るとシャロも準備が出来たようだ。
「準備オッケー、さぁ行こう!」
「だな、行こうか」
最後に戸締りを確認し、小屋を出て鍵を掛ける。
指を指しながら確認。戸締り、良し!
……さて行くか。
俺とシャロは、乗合馬車の待機所に向かった。
◇
さて、俺達の乗る馬車は何処かな。
ドレスラード行きの切符は、2日前に買っていたので後は馬車に乗り込むだけだ。
帰りのマークは〇だった。髑髏じゃないから何も起きないな。
「髑髏マークじゃないから、絶対何も起きないよね!」
「フラグ立てるのヤメテネー!」
俺がツッコムと、シャロはケラケラ笑う。
そんなに面白いとは思わんのだが……。
目的の馬車を見つけ、御者に札を渡し乗り来む。
中に乗って居るのは、行きと同じように殆どが冒険者だった。
半分は行きと一緒だった人達だった。
挨拶もそこそこに席に着き一息つく。
ここに座ると、いよいよ帰るのだと実感がわいてくる。
旅行に行った時の、帰りの電車や飛行機に乗る時みたいな感じがした。
楽しかったが……、やはり家が一番だ。
早く帰りたい。
待ってるだけで、ご飯が出て来る環境に戻りたい。
時間まで朝食を食べながら待つ。
食べ終わる頃には、朝の鐘の音が聞こえてきた。
……この鐘の音も聞き納めか。
ドレスラードとは音が結構違うんだよな、ドレスラードは高めの音で、こっちは結構低めの音が長めに鳴る感じだ。
音が鳴ってから、体感で1時間位だろうか。
それ位経った頃に、御者の声が聞こえて来た。
「まもなく、ドレスラード行き発車いたします。
御乗りの方は急いでくださいー」
いよいよだな。
俺は〈収納魔法〉からクッションを二つ取り出し、一つをシャロの渡す。
結構振動がお尻に響くんだよな。
お尻の下にクッションを敷き出発に備える。
――暫くして。
「それでは、ドレスラード行き発車しまーす」
御者の声と共に、馬車が動き出す。
さよなら鉱山都市。
なんか色々問題残ってる様な気もするが、[鉄]ランクの俺達にはどうすることも出来ないだろう。
狂王神教の対応は上位の冒険者に任せよう。
俺達が動いたからって、事態が急に良くなるわけでもないんだし。
のんびりした冒険者ライフを送ろうじゃないか。
グッバイ、ルクバトウ鉱山都市。
馬車はドレスラード目指して、走り始めたばかりだった。
◇
1日目。
特に何も起きず、順調な道のりだ。
魔物の襲撃も無い為、本当に順調だった。
俺はというと、何故か馬車の中で野菜の皮をむいていた。
行きの時に一緒だった奴らからの提案で、料理を作る代わりに野営時の見張りを免除してもらう為だ。
流石に馬車で火は使えないので、こうして下拵えを終わらせることにした。
勿論、自分の分の材料は向こうが出すのが条件でだ。
なので受け取った分をきっちり使い切る為の、配分を決めなければならない。
……ほとんどスープにぶち込めばいいか。
そんな事を思いながら、シャロと共に皮を剥く。
2日目
今回は本当に魔物に出くわさないな。
1日目も遠くに1匹居たのを弓で誰かが倒した位で、特に何も無かった。
2日目も順調に進んでおり、このままだと予定よりも大分早く着きそうだ。
夜に向けて、肉に下味を付ける為にせっせと下拵えをする。
今日は唐揚げだ~。
今回は俺の分も死守しないとな。
3日目
クソが。
結局俺の分の唐揚げは残らなかった。
最終日なので恨みを込めて、残りの材料ぶち込みスープにした。
味付けはスパイシーな感じにしたら、意外とうまく出来てた。
直ぐに鍋が空になってしまった……。
順調に進んでいる為、陽が沈むよりも早い段階で、ドレスラードの外壁が見えて来た。
ようやく帰ってこれたか。
この世界に来てから、初めての遠出が終わりを告げようとしていた。
◇
無事ドレスラードの街へと入り、乗合馬車の待機所まで着いた。
「到着でーす。お足もとにお気を付けくださーい」
御者の声と共に、乗客がゾロゾロと降り始めた。
「やーっと着いたー!」
「だなー」
シャロが体をググっと伸ばし、凝り固まった体をほぐす。
俺もずっと座りっぱなしで、体が痛い。
夕方よりもまだ早い時間帯だ、ギルドへの報告は次の日にしようと思っていたが、どうせだからこのまま済ませておくか。
そうシャロに告げる。
「あたしはいいよー、じゃあ明日は一日休みでいいよねー?」
「明日というか、何日かは装備の新調で休みだな」
俺の装備は今回の出稼ぎでボロボロになっていた。
剣は折れ、盾も凹みまくっている。胸当てなんかも大分ガタがきていた。
明日は休んで、次の日くらいにヴィーシュさんのトコに行くかな。
冒険者ギルドに向かいながら、頭の中で予定を組んでいた。
◇
久しぶりの冒険者ギルドだ。
やっぱり鉱山都市のギルドとは造りが違う、向こうは石造りでこっちは木造だ。
他の地域のギルドも、やっぱり違いがあるのかな?
機会があれば、他の街にも行ってみたいな。
しばらくはこの街に引きこもりたいが……。
扉を潜り、中に入る。
うーん。1ヶ月にも満たない期間だったが、すごい懐かしい感じがする。
よく見る顔の冒険者がいっぱいいるこの感じ、帰って来たって感じがするな。
入り口で立ち止まっている俺とシャロに、ガラの悪い筋肉モリモリマッチョマンが絡んできた。
「よお、ソラにシャロ。
久しぶりだな、しっかり稼げたか?」
「バッチリ稼げました」
「ウハウハだよー!」
「そうかそうか。
ホラ、アイリはあっちだ、報告してきな」
「ウス」
「はーい」
筋肉モリモリマッチョマンは顎でクイッと受付を示し、道を開ける。
受付には、アイリさんが笑顔で軽く手を振ってくれていた。
……お姉さん系もいいよね。癖が増えた気がした。
シャロを連れ受付に向かう。
「お帰りなさい、2人共」
「只今戻りました」
「たっだいまー!」
「フフフ、んん!はい、それでは本日はどういった御用ですか?」
アイリさんが受付の仕事をする為に切り替えた。
俺は〈収納魔法〉から、依頼の受領書を取り出し、アイリさんに渡す。
「…………はい。
確認いたしました、後はコチラで処理しておきますね」
この瞬間、長い依頼が完了した。
イレギュラーもあったが、かなり稼ぐことが出来た。
この依頼を教えてくれた、アイリさんには感謝だな。
俺は感謝を伝える。
「いやー、かなり稼げたので助かりました。
本当にありがとうございました」
「いえいえ。
……因みにどれ位稼げました?」
アイリさんが受付から身を乗り出し小声で聞いてくる。
「――これくらいですね」
俺もアイリさんにヒソヒソと金額を打ち明ける。
「え!?なんでそんなに!?」
ですよねー。
金額聞いたら驚くよな、実際は予定外の収入なのだが今は黙っておく。
詳しい話はあとでするかな。
「今夜シャーリー亭で打ち上げするんで。
その時に来て下されば詳細を話しますよ」
「……今夜ですね?
直ぐ仕事終わらせて向かいますね」
思ったよりも食いついて来たな。
額が額だしな、俺でも気になる。
アイリさんと打ち上げの約束を取り付け、俺達は冒険者ギルドを後にした。
さて、報告も終わった。
あとは……宿に帰るだけだな。
俺は吠える。
「行くぞシャロ!」
「はーい」
俺とシャロは、シャーリー亭目指して、テクテク歩いて行った。




