86.鉱山都市最後の夜
4人を見送った俺達は、自分達の街へと帰る準備を始めた。
手始めに、アナの別荘である小屋を掃除する事にした。
ひと月にも満たない時間だったが、お世話になった家だ、来た時以上に奇麗にしていかないと、好意で貸してくれたアナに申し訳ない気持ちになる。
シャロと手分けして、せっせと掃除をする。
……トイレのスライムはどうしたらいいのだろうか。
俺等が来た時干からびていたが、そのままでも良いのか?
少し可哀そうな気もするが、それを言ったら俺等の排泄物を押し付けてる訳だし今更か。
俺はそっと蓋を閉じた。
◇
午前中一杯掃除と荷物の整理に使い、午後は鉱山都市でお土産を買う事にした。
そのついでに、ヴァルカンさんに別れの挨拶を出来たらいいな。
兄弟のヴィーシュさんには世話になっている訳だし。
そんなこんなで、鉱山都市の商店が立ち並ぶ区画をシャロと歩いていた。
出稼ぎ目的出来ていたので、無駄な買い物をしない為にも、この区画はあまり来ない様にしていた。
鉱石喰らいの報酬で俺達の懐は潤いまくっている、多少の無駄遣いでもたいした痛手は無い。
鉱山都市だけあってか、武器や防具、鍛冶師が作った道具が多くある印象だ。
中には銀製品や金製品といった高級なのもあるが、特に興味も無いのでスルー。
色とりどりな武器や防具に目移りする。
シャロもあっちにフラフラこっちにフラフラ、目を輝かせていた。
俺も装備を新しくする為の資金を得る為に、この都市に来たが……。
正直迷う、ここで買ってしまっても良い気がする。
それだと、買った後の調整が出来そうにないので我慢。
因みに、俺の剣は先の戦闘で折れてしまっていた。
というのも、鉱石喰らいに下から突き立てるように刺した為、真下で気絶していた俺が救出されるまで耐えてくれたという。
そして俺が鉱石喰らいの下から引き摺り出されると共に、その役目を終えた様に中ほどからポッキリ折れたという。
そんな剣を作ってくれた、カルマンさんやヴィーシュさんの所で、次の剣と装備を作ろうと決めていた。
シャロはどうするのか知らないが。
それに俺の目的は武器や防具ではない。
ありきたりだが、アナに髪飾りでもと思ったんだが……。
本当に武器や防具しかない……。
あれか、稼いだ冒険者から搾り取ろうって算段か。
アクセサリー系を扱っているであろう店は門構えからして高そうだ。
い、いくか?行けるのか……?俺はその店を見ながら尻込みする。
「ソラー!こっちに良い店あるよー!」
シャロに呼ばれその場を、そそくさと離れる。呼ばれたなら仕方ない。
シャロの指さす店を見ると、店というより露店だな。
木箱の上に布を敷き、その上に色々な小物が並んでいた。
ふむ、色々あるな……。
俺は何か良いのが無いかと、端から端まで見る。
様々なデザインの指輪、ネックレス、腕輪、髪飾り、アクセサリー屋か?
商品を見ていると、露店の店主が話しかけてくる。
「いらっしゃい。
兄ちゃん、何か彼女さんに買っていかないかい?」
彼女か……俺とアナはそういう関係じゃないんだけどなぁ。
俺がそう考えていると、露店の店主はシャロに向かい商品を勧めた。
「ほら、彼女さんにはこれ何か似合うんじゃないか?」
そう言って、髪留めを差し出す。
……彼女ってそっちか。傍から見たら俺達はそう見えてたのか。
まぁいいや。
店主が差し出した髪留め、何かの花を模したデザインだった。
ふーん?なかなかいい感じじゃない?俺は悪くないと思うが。
「シャロはどうよ?」
「買ってくれるの?」
「…………仕方ない、それ下さい。あとそっちのも」
そう言って俺は、一番端にある。
ある花を模した髪留めを指差した。
銀に近い色だが、桜の花びらに似た花の髪飾り。
アナの髪色にも合うだろう。
店主に代金を渡して、髪留めをシャロに、髪飾りは〈収納魔法〉に仕舞った。
これでお土産はもういいか。
前の世界みたいに、お菓子のお土産とか売ってたら良いんだけどねぇ。
……酒でも買ってくか。そうしよう。
この後は冒険者ギルドにでも行って、ヴァルカンさんに挨拶して、今日は早めに寝よう。
……シャロがなんか上機嫌だな、髪留めがそんなにうれしかったのか?
男の俺には良く分からんな。
「手に持つのはいいけど、無くしたりするなよー」
「うん!ソラありがとー!」
そう言ってシャロが抱き着いて来た。
おっとっと。急に抱きつくから少しよろけてしまった。
腕に抱きつかれたまま、俺達は冒険者ギルドへと向かった。
◇
今日も賑やかだな、昨日よりは少し少ないか?昨日よりは気持ち少なくなっている気がする。
取り合えず辺りを見回す。――居ないか。
見える範囲にヴァルカンさんは居ないようだ。
適当な受付に行き、ヴァルカンさんが居ないか尋ねてみる。
「ヴァルカンさんですか?
ええっと、今立て込んでいますので、伝言なら受け付けますよ」
「そうですか。じゃあ、ソラとシャロは明日この都市を離れる。とお伝えください」
「ええっと、ソラとシャロは明日、この都市を離れる……ですね。
はい、承りました」
受付のお姉さんは手元にメモを残してくれた。
俺はお姉さんにお礼を言うと、そのまま冒険者ギルドを後にした。
◇
日も暮れた頃、小屋の扉を叩く音がした。
誰か来たようだ。シャロが扉に向かう。
「はいはーい」
訪ねて来たのはヴァルカンさんだった。
「よお、伝言を聞いて来たぞ。
明日帰るんだってな。」
わざわざ来てくれたのか。受付のお姉さんには感謝だな。
「それでな、ヴィーシュの奴にこれを渡してもらいたくてな」
そう言って〈収納魔法〉から酒樽を3つと手紙を手渡された。
「お前達との採掘はなかなか楽しかったぞ。
また何時でも来い、その時はゆっくり酒でも呑もうや」
「ええ、その時はお願いしますね」
「また会いましようねー」
「ガハハハハ、それじゃあな。
見送りは出来んが、達者でやれ」
そう言ってヴァルカンさんは帰って行った。
これでこの都市を離れる準備が終わったな。
後は夕飯を食べて寝るだけだな。
その後、シャロと一緒に鉱山都市最後の夜を過ごした。




