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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
出稼ぎ編

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85.それぞれの帰路

 報酬を手にした俺とシャロが小躍りしていると、戦士が声をあげた。


「ちょっといいですか?」


「ん?どうした」


「正直、僕はこの報酬受け取ることが出来ません」


 ――おっと。戦士が何か言い出したぞ。

 俺は小躍りを止めて、戦士の横にドカッと座り、言う。


「おいおい、せっかくヴァルカンさんが頑張ってくれたんだからさ、受け取っておけ?」


「いや、そういう意味じゃなく。

 僕達はあの戦闘では、殆ど役にたっていないんだ。

 だから受け取れない、コレは3人とも同じ意見だ」


 戦士がそう言う。

 後ろの3人も頷いていた。


「なるほど……」


 ヴァルカンさんが顎鬚を触りながら呟く。


「そうは言っても、他の連中も貰ってるんだろうし、お前達も受け取って置けって」


 あの場に居た他の連中も、同じように報酬を貰っているだろうと思った俺は、そう告げた。


「いや、あの場に居た生き残りはお前達だけだ。

 他の連中は全員死んどったぞ」


 ……Oh。まじか……、あの場の生き残り俺達だけだったのか。

 それなら尚更貰っておいた方がいいのでは?


「いいからいいから、折角だからもらっときなさいって、な?」


 俺は袋を戦士に押し付ける。


「いやいやいや。

 本当に受け取れないんだって」


 強情だな……。

 それなら他の3人に、……顔を反らしているな。

 そんな俺達を見て、ヴァルカンさんが提案を出す。


「お前達の言い分は分かった。

 そうだな……、ソラとシャロが4袋でお前等が2袋持っていけ。

 これはギルドからの命令だと思っておけ。

 もっとも、強制力は無いがな。

 ソラとシャロもそれでいいな?」


「俺はいいですよ。……シャロ!」


「え?なに?」


「報酬一袋追加だ」


「マジ!?やったー!」


「だそうです」


 そのやり取りを見てヴァルカンさんは苦笑いし、4人に告げる。


「決まったな。

 これ以上グダグダ言うのは許さんぞ。

 ワシも忙しいんでな」


 ……ヴァルカンさんが威圧してきた。

 これ以上は、有無を言わさぬといった感じだ。


「う……。

 わ、わかり、ました……」


 ヴァルカンさんに気おされて、戦士が承諾した。

 言質取ったり。


「ハイ、という訳で受け取ろうね~」


 俺は魔法使いと、僧侶に報酬の入った袋を押し付けた。

 女性なら無理に渡せば、手に持つだろうと思ったからだ。

 思惑通り2人は袋を手に持った。


「はい、これで受け取りは完了ってことで。ヴァルカンさん本日は、ありがとうございました!」


 俺がペコリと頭を下げる。


「なーにこっちも、研究所の連中から金をたんまり貰ったんでな、気にするな」


 そう言ってヴァルカンさんはソファーから立ち上がり、俺達を1人1人見てから告げる。


「短い間だったが、お前達と過ごせて良かったと思っている。

 あー、まぁなんだ。湿っぽい話は苦手でな。

 またこの都市に来ることがあったら、何時でもワシを訪ねてこい。

 歓迎するぞ、それじゃあな」


 そのまま俺達に背を向け扉へと歩いて行った。

 俺達はその背に頭を下げ、ヴァルカンさんを見送った。


 さて、どうしたものか。

 今日の予定が終わった訳で、この後の予定は特に決めていたなった。

 報酬も受け取ったし、俺とシャロも自分たちの街へと戻る為の準備をするかな。


「お前達はこの後どうするんだっけ」


「僕達は……、元居た街に戻ろうかな。

 それよりも、本当に良かったの?」


「んー?ああ、良いよ。一緒に戦ったのは事実だし、それに僧侶に回復してもらったからな。その代金だとでも思っていてくれ」


「……分かった。

 いずれ、この借りは返すよ」


「その時は、利子付けて返してくれ」


「アッハッハッハ。

 そうだね……そうするよ……」


 ……よし、恩を売る事に成功した。

 今後何かあったらコイツ等を頼ろう。フッフッフッ……。


「はい!じゃあこの後どうすんの?」


 魔法使いが手をパンッと叩いて、全員の注目を集める。

 どうするか、取り合えず乗合馬車の時間を確認しに行くのがいいか?


 乗合馬車の出発は早朝のみだ。

 今の時間から行っても馬車が残っている事は無いが、その後のスケジュールを確認する事は出来る。


 なので、そういう事になった。


 ◇


「ドレスラード行きは2日後だな」


 受付の人が告げる。

 どうやら俺とシャロは2日ほど足止めの様だ。

 因みに4人が拠点にしている街行きの乗合馬車は、明日出発とのこと。


 そういう訳で、4人は明日この都市を出発する事になった。

 短い間の付き合いだったとはいえ、別れが近づくと寂しく感じるな。


「それじゃ僕達は明日の朝、ここを出発するよ」

「世話んなったな、次会う時は足でまといにならないくらい鍛えておくぜ」

「そうね⋯⋯うん!私もきっと強くなってまた会うわ!」

「わ、わたしも!」


「ドヘスラードに来る事があったら、シャーリー亭に来てね!

 ウチの実家だから安くするよ!」


「ああ、その時は宜しく頼むよ」


 戦士がそう言い、俺達は別れることになった。

 俺が手を差し出すと、戦士はギュッと力強く握り返した。


「元気で」

「ああ、そっちも」


 シャロは魔法使いと僧侶に抱き着いていた。

 ……余っている狩人に腕を広げ近づく。


「いや、遠慮しとく」


「照れんなよ」

「そうだぞ」

「うるせー!」


 3人で笑い合い、狩人とも握手を交わした。


 その後、4人は宿の引き払いなど、明日の準備があるのでそのまま別れる事になった。

 最後に夕飯でもと思ったが、色々と準備があるからな。しかたない。

 俺達も早めに準備は済ませておこう。


 ◇


 夜が明けた。

 というか日の出前。


 俺とシャロは乗合馬車の乗り場に居た。

 4人の見送りの為だ。


 ……居ないな。

 早く来すぎたようだ。

 しばらく待ち、ようやく4人がやって来た。


「……なんでもう居るんだ?」


 なんでだろうね?思ったよりも早起きしちゃったんだよなぁ。

 買い出しは昨日の内に終わらせちゃったから、やる事が無かったってのもあるが。

 俺は昨日作った弁当を〈収納魔法(アイテムボックス)〉から取り出し、渡す。


「いいの?」


「もちろん、その為に作ったんだし」


「フフ、そうか。

 なら遠慮なく貰っておくよ、ありがとう」


 シャロも魔法使いと僧侶に抱き着いて、別れの挨拶をしていた。

 狩人は……手でバツ印を作っていた。ハグは要らないらしい。


 ……ヤッベ。大事なの聞くの忘れてた。


「そういえば、お前達のパーティ名って何て言うんだ?」


「……そういえば言って無かったね。

 [スート]だ、僕達は[スート]って名前でやってる」


「[スート]か、……何というか、短いな」


「ハハハ、生まれた村の名前がそうだったからね。

 そのまま使う事にしたんだよ」


 そうしていると、ガラガラと小さい鐘の音が聞こえて来た。


「そろそろ出発しまーす、乗る方は早めにお願いしますねー」


 時間だな。


 俺は戦士に無言で頷く。

 戦士もそれに応える様に頷き返す。


 いずれまた会う事も有るかもしれない。

 今生の別れを演出する必要はないよな。


 馬車に乗り込む4人を、俺とシャロはそれを少し離れた所で見つめる。


 もう一度、ガラガラと鐘の音が響く。


 走り出す馬車から4人が身を乗り出し手を振る。

 俺とシャロもバイバイと手を振る。


 徐々に馬車は小さくなっていく。


 出会いがあれば別れもある、今回の別れもきっといつか再会できるさ。


 俺とシャロは遠く離れた馬車に背を向け、歩き出した。


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