84.鉱石喰らい討伐報酬
ゴーン
鐘の音が聞こえてきて。
——ん。朝か⋯⋯。
眠い目を擦りながら上半身を起こす。
この世界に来てから、それなりの時間が経っている為か、朝の鐘の音で目が覚めるようになっていた。
「んー、あ゙あ゙ぁぁ」
体の節々がバッキバキだ。
何時もの事だが、俺は床で寝ていた。
しかし今回はちゃんと、毛布を被って寝ていたようだ。
目を擦りながら周りを見ると、隣には狩人。
ベッドには、魔法使いと僧侶が寝息を立てていた。
少し離れて扉の横に、戦士が毛布に包まり座ったまま壁を背に眠っている。
ボーッとした思考に割り込むように、いい匂いが漂ってくる。
アナの別荘に備え付けられている、小さめのキッチンで、シャロが何かを作っていた。
シャロは宿屋の娘だけあって、簡単な料理はできる。
宿屋にいる時の俺の朝食は、大体シャロが作ってくれていた。
時々アレックス君だが、それでもシャロの方が多い。
普段はアレだが、シャロは家事全般が普通以上に出来る。やらないだけで、やればできる子って感じ。
シャロが振り向き、朝の挨拶をする。
「あ、おはよー」
「おはよう、もう起きてたのか」
「うん、朝の鐘より早く起きるの癖になってるからねー」
流石宿屋の娘だ。
俺は床から身を起こし、テーブルへと座る。
シャロが鍋からスープをすくい、皿によそうと俺の目の前と向かい側に置き、椅子に座った。
「いただきます」
「まーす」
因みにこの世界ではご飯を食べる時に、いただきます。とかは言わないようで、俺が言っているうちにシャロも言うようになった。
そんな訳で、俺達が朝ごはんを食べていると、匂いに釣られて魔法使い、次いで狩人が目を覚ました。
「おはよう⋯⋯」
「はよー」
2人ともまだ眠そうだ。
魔法使いが僧侶の胸をペチペチ叩いて起こす。
戦士は狩人に足で横に倒され、目を覚ました。
「痛い⋯⋯」
「殺すぞ⋯⋯」
戦士寝起き悪すぎでは?
あと、僧侶は胸が凄かった。
プルンプルンしてた。
まだアルコール抜けてないな⋯⋯。
水をゴクゴク飲む。
再度そんな訳で、6人でのテーブルを囲み朝ごはんを食べる。狭いな⋯⋯。
朝のメニューは、シャロが作ったスープと、昨日の残りの肉をパンに挟んだ簡単な物だった。
食べながら、今後の予定を話した。
「俺達はヴァルカンさんに、冒険者ギルドに来るよう言われたけど、そっちは?」
「僕達も呼ばれてるから行くよ。
それが終わったら、此処を出る準備をするかな」
「そうか⋯⋯。短い間だったけど楽しかったよ」
「僕達もだよ」
「また別の街で会ったら、よろしくな」
「シャロちゃんも元気でね」
「皆もねー」
「ソ、ソラさんも、また会った時、怪我してたら治してあげるからね」
「え?あ、はい⋯⋯」
なんでヒーラーは俺を回復させたがるの?
なんかヤバい成分でも俺の中に流れてるのか?
⋯⋯怖い。
まあいいや。4人もヴァルカンさんに呼ばれてるなら、これを食べ終わったら向かうかな。
俺達もドレスラードに戻る準備をしないとだしな。
穏やかな時間が流れた。
◇
朝ごはんを食べ元気いっぱいになった俺達は、着替えを済ませると冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは相変わらず人が多いな。
聞こえてくる声は、いくら稼いだだの、誰が死んだだの、そんなのばっかりだった。
同じ街の冒険者は居ないようだ。
誰も死んでない事を祈ろう。⋯⋯シャロが知ってるか?
「なあシャロ——」
「あたしは知らないよー?」
こ、こいつ!?俺の思考を!?
シャロの突然の新能力に俺は驚愕した。
「いや、キョロキョロしてるからさー、多分同じ街の人達探してるんでしょ?
あたしはソラの看病してたからわかんないよ?」
⋯⋯なるほど。俺の考えは読まれやすいのか。
知らないならしょうがないか。
俺達は受付へと向かった。
受付にはそれなりに列ができていたので、最後尾に並び順番を待つ。
しばらくして。
「次の方どうぞ」
受付のお姉さんの声は、どことなく疲れているようだった。
手短に、ヴァルカンさんに呼ばれてきたことを伝えると、お姉さんは別の人に声を掛け、対応をパスした。
現れたのは笑顔のおじさんだった。
「どうもどうも、話は伺っています。
さあ、こちらへどうぞ」
おじさんの後に続いてゾロゾロついて行く。
階段を上り、2階の奥の部屋へと招かれた。
部屋の中は簡素な造りで、中央にテーブルと2つの横長のソファーがあるだけだった。
「そちらにお掛けになって、お待ちください。
直ぐに、ヴァルカン殿を呼んでまいります」
そう言って部屋の外へと出ていった。
⋯さて、こういう時ってどう座るべきか。
片側はヴァルカンさんが座るだろうし、もう片方に全員は座れんよな。
「こういう時どう座るの?」
戦士に問いかける。
「うーん、リーダーが座って残りは後ろ、かな?
僕達もこういうのは初めてだし」
「なるほど、じゃあそういう感じで」
片方のソファーに俺と戦士が座る、俺が真ん中で戦士が右側、そしてシャロが左側に。
「⋯⋯⋯⋯」
ジッとシャロを見つめる
「あたし達は2人なんだし、ね!」
「⋯⋯まぁいいか。変なことは言わないように」
「はーい!」
それからしばらく待ってから、部屋の扉が開いた。
「イヤーすまんすまん、待たせてしまったな。
こっちも立て込んでるんでな、勘弁してくれ」
ドカドカと足音を立てながら、ヴァルカンさんがやってきた。
手には大きめの袋が6個乗ったお盆を持っていた。
それをテーブルの上に乗せ、ソファーに腰下ろし口を開く。
「まずは、もう一度謝らせてもらう。
今回の件は、本当にすまなかった」
ヴァルカンさんは深く頭を下げ、謝罪の言葉をのべた。
「ヴァルカンさんが、謝ることでは無いですよ。完全に予想外の出来事でしたから」
「僕達も気にしていません。
どうか頭をあげてください」
「⋯⋯そうか。ありがとう」
場がしんっと静まり返り、それを打ち消すように、ヴァルカンは自分の膝を叩き言う。
「よっし!
今から、お前たちに報酬を渡す。
事前に説明してあるように、あの鉱石喰らいは全てギルドが買い取る。
その分、額の方は期待してくれ。」
そう言って、ヴァルカンさんは袋の乗ったお盆を、俺達の前にずいっと押し出す。
⋯⋯まさか、こんなに貰えるのか?
袋といっても、バレーボールくらいの大きさがあった。
シャロはサッと1つ取り、中身を確認する。
そのままソファーから立ち上がり、袋を頭の上に掲げて、小躍りし始めた。
予想以上の額が入ってたようだ。
そんなシャロを横目に、俺も袋を手に取り中を見る。
——ウッホ!ウホホホホホ!
俺も小躍りの輪に加わる。
4人も、1つの袋を全員で除き込み、息を飲んでいた。
「こ、こんなに⋯⋯」
「す、すげぇ」
「おおおぉぁ⋯」
「あわわわわわわわわ」
全員語彙力が死んでいた。
その様子を見て、ヴァルカンさんはガハハハと笑う。
「額は気に入って貰えたようだな。
一応、あの鉱石喰らいは王都の研究所が欲しがっていてな。
向こうが言い値でギルドから買い取るっちゅーんで、その分も報酬に上乗せしてある。
ギルドの取り分は減るが、ワシが黙らせた」
なるほど、見た目がかなりアレだもんな、何かの研究にでも使いたいんかな。
俺はシャロと小躍りしながらそう思った。
とはいえ、不満のある者がいたようで。
4人のリーダーである、戦士が声をあげた。




