82.激戦を終えて。
ん⋯⋯。
⋯⋯何処だ此処は。
眼を覚ますと、ベッドの上に横たわっていた。
頭がボーっとする。
ぼんやりとした頭で状況の整理をする。
確か⋯⋯、鉱石喰らいと戦っていて⋯⋯。
戦って⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「鉱石喰らいはどうなった!」
叫びながら上半身をガバっと起こし、辺りを見回す。
此処は――アナの別荘か。
見覚えのある小屋の内装が視界に映った。
⋯⋯あれ?もしかして鉱石喰らいと戦ったのは夢なのか?
いや、そんなはずは⋯⋯。
部屋の中には自分ひとりしか居ない為、状況が良く分からなかった。
⋯⋯そうだ。
「シャロ!居るか?!」
ベッドで上半身を起こしたまま、シャロの名を呼ぶ。
すると。
ガチャッとトイレの扉が開き、中からシャロが現れた。
「あ、ソラ!起きたの?体調は大丈夫?」
テテテと駆け寄って来るシャロ。
体調か⋯⋯。うーん、特に異常は感じられないな。いや、左腕に添え木をされて包帯を巻かれているな。
とはいえ、特に痛みが有る訳でもないか。
俺は左腕をブンブン振ってみた。
うん、痛みはないな。
「大丈夫そうだ」
シャロにそう伝えると、安堵の表情を浮かべ、ベッドに上半身をのせ破顔した。
「よかった~。あの後、ソラ意識戻らない上に左腕も折れてたんだよねー。僧侶ちゃんが回復魔法掛けてくれたけど、念の為にそれ付けといたんだ」
「そうか、⋯⋯あの後?」
「ソラが鉱石喰らいに、魔法撃って倒した後だよー」
「⋯⋯そうか、一応夢ではなかったか」
今こうして2人共無事という事は、鉱石喰らいを倒す事が出来たのだろう。
俺も胸を撫で下ろした。此処があの世でなくて良かった。
「シャロは怪我とかしてないか?」
記憶にある最後の姿は、切り傷や青あざだらけだったと思うが。
「あたしも治してもらったから大丈夫!」
シャロはピースしながらニヒヒと朗らかに笑った。
俺は寝転がっているシャロの頭を撫でた。
おりゃおりゃ〜 グリグリ
「やーめーてーよー」
2人でキャッキャしていると、小屋のドアを誰かがノックした。
誰だ?撫でる手を止めドアを見る。
「はーい」
シャロがドアに近づき、来訪者を招き入れる。
「どうぞ~」
「おう、すまんな」
現れたのは、ドワーフ族のヴァルカンさんだった。
ヴァルカンさんも居るという事は、鉱石喰らいの群れはどうにかなったんだな。
「おお!ソラ、目を覚ましたか!」
「あ、お陰様で~」
何がお陰様なのかわからんが、咄嗟にそう出た。
ヴァルカンさんはベッドの近くに椅子を持って来ると、そこにドカッと座った。
「色々聞きたいと思うが、まずは言わせてくれ。本当にすまなかった!」
ヴァルカンさんが何故か頭を下げてきた、なんで?謝られる事された覚え無いのだが⋯⋯。
俺が?マークを浮かべていると、ヴァルカンさんが理由を教えてくれた。
「まさか、都市の中に鉱石喰らいが出るとは思ってもいなくてな。しかも、あの大きさだ。ワシらが相手していた鉱石喰らいよりも、遥かに大物だ。そんな奴を、[鉄]ランクのお前達だけで、対処させてしまった」
ヴァルカンさんは手を握りしめ、震えていた。
自分の不甲斐なさを嘆いているのか、それとも別の理由か、俺にはわからない。
「まぁ、目が覚めているなら丁度いい。シャロにも聞いたが、お前からも当時の状況を聞いておきたい。あの時、何が起こった?」
ふむ。俺は鉱石喰らいが召喚された前後の事を話した。
勿論ローブの人物も話したが、これに関しては他の5人は見ていないそうなので、俺だけが見えていた存在だったのかもしれない。
「ふむ⋯⋯、ローブか。何か紋様は入っていたか?」
紋様か。
そう言われると何かあったような気もするが⋯⋯。
⋯⋯うーん、ダメだな思い出せない。
ローブを被っていた印象しかないし、その後の展開の印象の方が強すぎる。
それ以外で、となると男か女かもわからないんだよなぁ、何か声を発していたわけでもないし。
「紋様が入ってたかどうかまではちょっと⋯⋯」
「そうか⋯⋯」
「何か、心当たりでもあるんですか?」
「ん?ああ、最近ギルドの方に狂王神教とかいうのが動いているから注意しろ、と通達が来ていてな。ワシも詳しくはわからんがな」
此処でも狂王神教か⋯⋯。
神教って事は宗教的な奴か?そして祭っているのは狂王とかいう奴か。
狂王⋯⋯狂った王か?分かりやすいな。
狂った王を神として崇める⋯⋯的な?物騒だなぁ。
正直、あのキメラの鉱石喰らいの見た目は、狂ってるとしか思えなかった。
サソリの頭に人間の上半身をくっ付け、足を人間の腕に変える。
俺では思いつかない様なビジュアルだな。
⋯⋯もうちょっとカッコよく出来なかったのだろうか。
映画のハム〇プトラのスコーピオン〇ングみたいに。
俺はあのデザイン好きなんだけどなぁ。
人の下半身が別の生き物ってのは、色々と妄想が捗る。
だからか、ふと思った。
「⋯⋯この世界にモン娘っているのか?」
「⋯⋯モン娘ってなーに?」
思わず零れた言葉をシャロが拾ってしまった。
「えー、ほらサキュバスとか、アラクネとか⋯⋯かな?」
「お前、サキュバスに興味あるのか?」
「⋯⋯サキュバス居るんですか?」
「居るが⋯⋯あの男の敵に興味があるのか?」
⋯⋯?何を言っているんだ?サキュバスと云えば男の夢の様なモンスターではないのか?え、この世界では違うの?
「ど、いう⋯⋯ことです、か?」
あまりの衝撃に言葉が詰まる。
「アイツ等は男性器を食いちぎる事で有名だろうに」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯Oh。
「ボンッ!キュッ!ボンッ!のサキュバスお姉さんは居ないのか!!!」
俺の叫びが小屋に響く。ああああああああぁぁぁぁ。
こ、この世界の魔物は種族人間に厳しすぎる⋯⋯。
そんな俺をシャロがジッと見つめ。一言。
「アナちゃんに言うよ?」
「⋯⋯サキュバスとかどうでもいいよな、男の敵なんだし」
俺は即座に気持ちを切り替えた。
魔物と仲良く何て、なれるはずが無いんだ。
仕方ない、仕方ない⋯⋯。
呆れたように、ヴァルカンさんが言う。
「まぁ、いい。取り合えずローブの人物が居て、シャロ達には見えなかったという事か。見えたのがソラだけ、というのが証言としてはちと弱いな。一応上にはそう伝えておこう」
そりゃあそうか、俺だけしか見えて無かったみたいだし。
情報としての信憑性は無いわな。
でもなぁ、俺にはハッキリ見えたんだけどなぁ。
なんで?
⋯⋯考えても心当たり無いな。
第一俺は、転移した時にチートとかもらった覚え無いんだし。
見えない物が見えるとか云う、ホラーな能力はちょっと⋯⋯。
俺はそんな事を考えていた。
そこでヴァルカンさんが再度口を開く。
「ああ、そうだ。大事な事を忘れておった。お前たちが倒した鉱石喰らいなんだが、冒険者ギルドで買い取る事になりそうだ。すまんが、コレは強制だ。その分買い取り額に色は付けてやる、というかワシがそうさせる」
そうか、あのデカい鉱石喰らいは、倒した俺達に所有権が有るのか。
正直、あの大きさをどうこうするのも面倒だからな、買い取ってくれる方が助かるな。
「俺は問題ないですね。シャロはどうだ?」
「あたしも、問題なーし」
「だそうです」
俺達の意見は決まっていた。
「そうか、ならその方向で話を進めておこう。明日、冒険者ギルドに来てくれ。その時までに、代金は用意しておく」
そういう事になった。
「さて、ワシは今忙しくてな。これで失礼させてもらうぞ。悪いが、暫く事後処理でゴタゴタしそうでな、打ち上げは無しにしてくれ」
「わかりました」
「大丈夫でーす」
「ハッハッハ。そうか、では明日ギルドで待っているぞ」
そう言ってヴァルカンさんは小屋を後にした。
やっぱり事後処理とかあるよな。
冒険者達の被害も凄いだろうし、同じ街の人達は大丈夫だろうか⋯⋯。
そんな事を考えていると、新たな来訪者が訪ねて来た。




