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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
出稼ぎ編

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鉱石喰らい①②③ 一気読み用

 79話、80話、81話を1ページで、一気に読める様にまとめたものです。

 巨大なハサミがシャロを襲う。


 振り下ろされるハサミを、シャロは盾で受け流す。

 受け流されたハサミが轟音を立てながら、石畳の地面を抉る。


「ソラー!これ正面から受けれないやつー!」


 シャロは後ろに飛びのき距離をとる。

 鉱石喰らいのハサミの威力は、シャロの許容量を超えた一撃の様だ。


「〈盲目(ブラインド)〉!」


 手を鉱石喰らいに向け。

 黒く輝く魔法陣より、相手の視界を一時的に奪う黒い靄を打ち出す。黒い靄は鉱石喰らいの人間部分の、顔に張り付きその視界を奪った。


 鉱石喰らいは再度ハサミを振り上げ、シャロに向かって振り下ろす。

 距離をとったシャロに向けて、正確に振り下ろされたハサミを、シャロは横に飛び回避する。振り下ろされ地面に突き刺さるハサミを見て、俺は気づく。


 そういえばサソリの部分の眼も見えるのか?だとしたら不味いな。

 未だに周りは腰を抜かしている者や、どうしたらいいのか分からず武器だけ構えている奴らばかりだ。


「……ハァ、突っ込むか。〈加速(アクセラレーション)〉!」

 そう独り言を呟き、呪文を唱え、俺は鉱石喰らいに向け駆け出した。

 走りながら呪文を唱え、鉱石喰らいに牽制を仕掛ける。


「〈闇の棘(ダーク・スパイク)〉」


 鉱石喰らいの真下に黒く輝く魔法陣が描き出され、黒く鋭い棘が飛び出す。黒い棘は勢いよく伸び、鉱石喰らいの腹に当たった。

 当たった棘はそれ以上伸びず、鉱石喰らいの体重に負けた様にして、粉々に砕け散ってしまった。


 ……ッチ。期待はしていなかったが、〈闇の棘(ダーク・スパイク)〉じゃ傷が付かんか。

 直ぐに距離が縮まるが、鉱石喰らいは俺の魔法に気づいていないのか、シャロにハサミを振り下ろし続けていた。

 その動きは単調で、シャロは危なげなく回避していた。


 俺は握る剣に魔力を込める。

 刀身が黒く染まり、闇の属性を纏った。


 鉱石喰らいの側面から近づいていたので、そのまま足―と云うか腕―に向けて剣を薙ぎ払った。

 見た目は普通の褐色の腕だが、思ったよりも硬い。

 切り落とす勢いで力を込めたが、少ししか刃が通らなかった。

 それでも何度か切れば切り落とせる、そういう強度だ。


「なら何度でも切ってやるよ!おらああ!」


 振り抜いた剣を振り被り、力を込めて振り下ろす。

 剣が半ばまで入り込み、そこで動きを止めた。

 ……あ、ヤバ。剣が抜けない。


「あわわわわ!」


 剣が抜けずに焦る俺に、鉱石喰らいはコチラの方が脅威だと判断した様で、体を回し、ハサミを水平に薙ぎ払った。


「うおおおお!」

 回避いいい!

 直ぐに剣から手を放し、俺はそれを仰け反る形で回避して、その場から飛びのいた。

 ゴロゴロ転がり距離を取り、ガバっと起き鉱石喰らいを視界に入れる。


 あっぶなー!死ぬところだった……。

 まさか剣が抜けなくなるとは思わなかった、……さてどうしようか。

 剣は未だに鉱石喰らいの足の1本に、刺さったままだ。

 どうにかして抜かないといけない。

 もう一度近づいて引っこ抜くというのも難しそうだ。


 鉱石喰らいの動きは緩慢かんまんで、その場からあまり動こうとしない。

 先程迄シャロを攻撃していたが、今は見向きもしていない。


 ……なんだコイツ?少しの違和感を感じる。

 魔物は基本的に好戦的だ、コイツからはそれがあまり感じられない。


 ⋯⋯そういえば。俺は辺りを見回す。


「……いない」

 ローブ姿の人物がいつの間にか居なくなっていた。


 考えられる最悪の状況は、この鉱石喰らいと同じ魔物を他の場所でも召喚される事だろう。

 そんな事になったら最悪だが、今はこの状況を切り抜けるしかない。


 その時、周りで動きを止めていた冒険者の2人が我に返り、その場から逃げ出した。


「ヒエエェエ、ば、化け物!」

「逃げろ!早く!」


 その声を聴いたのか、それとも別の理由か。

 鉱石喰らいは、先ほどまでの緩慢かんまんな動きが消え、その2人を追うべく動き出した。


 足の代わりに生えている腕を巧みに使い、2人との距離を詰める。

 ……間に合わんか。すまん。



「シャロ!今のうちにこっち来い!」


 俺はそう叫び、2人を助けに行こうとするシャロを呼び戻す。

 シャロは鉱石喰らいを警戒しながら、俺の元に駆け寄る。


「ソラー、剣刺さったままだけどいいの?」


 シャロは呼び戻された理由を聞かず、俺の剣の心配をした。


「よくないけど、取れないんだから仕方ないだろ……」


「それじゃこれ使って」

 そう言って自分の斧を渡して来た。


「それじゃお前が手ぶらになるだろ」


「うーん、あれ攻撃するの無理。

 防御に徹した方がましかなーって」


 なるほど、シャロは魔法が得意では無いから、攻撃手段は斧か盾のスキルしかないもんな。剣を取り戻すまで借りておこう。


「わかった、剣が戻るまで借りとくわ」


 シャロは満面の笑みで親指をグッと立ててサムズアップした。……ホント、こういう状況で恐怖心を感じないシャロが居ると、冷静になれて助かる。


 そして……。

 鉱石喰らいの向かった方角から悲鳴が聞こえ、静まり返った。


 その方角を見ると、体をハサミで真っ二つにされた死体が1つと、毒針に貫かれもがき苦しむ冒険者が1人。


 ……俺は鉱石喰らいがその2人に向かったのを確認した時、見殺しにする選択肢を取った。その選択肢に後悔はない、知らない人間が死ぬのと、シャロが死ぬのでは差があり過ぎる。

 俺は知らない人間が死んで、シャロが生き残るならそっちを取る。

 シャロは悪くない、俺がそう判断して指示を出したのだから……。


 鉱石喰らいは、尻尾の先に刺さった人間を、まるで邪魔なゴミ払うように尻尾を振り、ゴチャッと云う音と共に地面に叩き付けた。


 そして鉱石喰らいは、此方に向き直り。

 人間部分の口から咆哮を上げた。


[KYAAAAAAAAAA!]


 第2ラウンド開始ってか、俺は武器を、シャロは盾を構え対峙する。

 距離はかなりあるが、それでもあの巨体ならすぐにこの距離を詰められるだろう。


 そんな俺達に、4人の人物が近寄って来る。


「すまない。僕らも一緒に戦う」

「ああ、ブルっちまって悪かった」

「魔法での攻撃は任せて!」

「が、がんばる……」


「お?いいねー。一緒にがんばろ~」


「……だな!やるか!」


「「おう!」」


 全員が、武器を構え身構える。

 鉱石喰らいは、ジッと此方を見ていた。


 鉱石喰らいについている、人間部分の頭はわずかに横に傾き、虚ろな目をしていた。

 俺達を見ているのか、それとも別の何かを見ているのか。その表情から読み取る事は出来なかった。


 コイツ……、人間部分に意思はあるのか?何処見てるかわからんし。

 そうなると、やはりサソリ部分が本体か?正直、そこからは何か見られている様な威圧感を感じる。

 ……どうしたものか。

 正直な話、どう攻めればいいかわからなった。

 さっきはシャロを助ける為に思い切って突っ込んだが、今は俺を入れて6人。

 普段シャロとしか連携した事がないから、こういう時どうしたらいいのかわからない。


 ……いっそ別々に戦うか。

 うん、その方がいいかもな。

 それぞれのパーティの連携ってのもあるだろうし。

 よし、それでいこう。


 俺は自分の考えを5人に伝えた。


「アイツを挟撃するぞ、俺はシャロと、そっちは4人で反対方向から攻めてくれ」


「なるほど、わかった。

 僕が前に出る、狩人は牽制を、魔法使いは隙を見て魔法を。僧侶は僕にバフを頼む」

「了解」

「合図したらちゃんと引いてよね」

「わ、わかりました。」


「すごい、それっぽい」

「俺等はああいうことしないからな……」


 ……よし!早速行きますか!

 俺達は二手に分かれ、鉱石喰らいを挟み込む形にした。

 鉱石喰らいはどちらを襲うべきか、決めかねている様だった。


 最初はどの手で行くか……。

 シャロの〈挑発(タウント)〉は一旦封印するしかないな、シャロでも攻撃を受けるのがキツイなら、無理にタゲ取りをする必要はない。

 俺はシャロに、簡単に説明し指示した。


「おっけー。じゃああたし何したらいいの?」


「俺を守ってくれ」

「はーい」


 向こうもそろそろ始めるっぽいな、こっちもそれに合わせて動くか。

 魔法使いが赤い魔法陣を描き、火球を作っていた。


「〈闇の投槍(ダーク・ジャベリン)〉!」


 俺は手を上に挙げ、黒い魔法陣を描き出し、漆黒の槍を作り出す。

 お互いの顔を見て頷きあう。

 火球と漆黒の槍が、同時に放たれる。


 火球はサソリの人間部分に当たり爆発を起こし、漆黒の槍はサソリの胴体に突き刺さった。


 火球で発生した煙を振り払うように、鉱石喰らい俺達に向かって咆哮を上げる。


[KIAAAAAAAAAAAAAAAAA!]


 おっと、こっちに向かって来るか。

 火球よりも俺の槍の方が痛かったって事だな。

 ならやる事は一つだ。


 〈闇の投槍(ダーク・ジャベリン)〉をぶち込みまくる!シンプルだがそれしかなさそうだ。


 それに危険だが。鉱石喰らいの足を落として、機動力を落とした方がいいな。

 それにはまず、俺の剣を取り返すしかないか。

 シャロから斧を借りてはいるが、勝手が違うからうまく使えるだろうか……。


 剣士が走りだし、鉱石喰らいとの距離を詰め出した。

 ――よし、行くか。


「シャロ!ついて来い!守りは頼めるな?」


「まっかせてー!あたしの後ろに居てねー!

 〈筋力増加(ストレングス)〉」


「おう!〈加速(アクセラレーション)〉!」


 俺はシャロの後ろに回り、呪文を唱え、その身を隠す。

 鉱石喰らいへとシャロが駆け出し、1人分の距離を開け、その後について駆け出す。


 鉱石喰らいは、向かって来る俺達を敵と見做したのか、ハサミの付いた腕を広げ、威嚇の様な体勢を取った。


 良いのかね~、後ろから別の奴が向かって来てるぞ?鉱石喰らいは剣士に背を向ける形になったが、それを気にする様子もない。取るに足らぬ存在だとでも言いたいのだろうか。


 そして、俺達の戦いを観て、イケると思ったのか他の冒険者達も鉱石喰らいに向かって攻撃を仕掛ける。


 鉱石喰らいが、その身を地に伏せ。


「――っ伏せて!!」

 シャロが叫ぶ。


 鉱石喰らいは、その場でグルりと一周する様に、長く靱やかな2本の尻尾を振り回す。


 シャロの声と共に伏せた俺達の上を、風を切る凄まじい音と共に、尻尾が通過した。


 反応の遅れた冒険者達は、吹き飛ばされ。全身、或いは頭、体の一部分を壁に叩き付け、血の花を咲かせた。


 冷汗がどっと噴き出す。

 心臓がバクバクと音を立て激しく動く。

 シャロの指示が無ければ死んでいた。

 コイツの動きは緩慢だとしても、その一撃一撃が即死級の持ち主。それを改めて知る事となった。


 ……考えが甘かったか。いや、良く見ると俺の剣が刺さった足の動きが悪い。

 先ずはあそこを攻めて足を全て切り落とす。

 そうすれば、今のような攻撃は出来なくなるだろう。


 すると鉱石喰らいの人間部分の頭に矢が当たる。

 狩人が放った矢は、当たっただけで刺さりはしなかった。

 あそこも硬いのか……。嫌んなるね。


「ソラ、行くよ」

「――ああ、行くぞシャロ」


 何時までもここで足踏み何てしてるわけにはいかない。そう思って、動き出そうとした時。

 辛うじて、先程の攻撃を避けた冒険者の数名が、その場から逃げ出した。


 鉱石喰らいは緩慢な動きを辞め、逃げ出す冒険者に向かって突進していった。


 ――ああ、なるほど。この場から逃がす気はないって訳か。

 それが鉱石喰らいの習性なのか分からないが、俺達がこの場から逃げられないという事は分かった。

 あー、本当に嫌になる。

 これじゃ助けも呼べないな。


「シャロ、一旦止まれ。防御任せるぞ」


「なにするの?」


「――魔法をありったけ叩きこむ!

 〈闇の投槍(ダーク・ジャベリン)〉!」


 漆黒の槍を作り出し、冒険者を襲っている最中の鉱石喰らいの背中に向けて、撃ち出す。


 真っ直ぐ飛んだ漆黒の槍は、鉱石喰らいの尻尾の内の1つに突き刺さった。

 それでも鉱石喰らいは、逃げる冒険者を襲うのを辞めなかった。


「んー、あれって逃げる奴から殺してる感じ?」

「恐らくそうだろうな、理由は分からんが、何か目的でもあるのかもな?」


 何か理由があるかもしれないが、鉱石喰らいに付いている人間部分が喋らないので、何も分からない。

 咆哮も下のサソリ部分から発してるみたいだし。

 もしかして……ローブの奴が作ったのか?だとしたら、随分とお粗末なキメラだな。


 人間部分が魔法を使うとか、遠距離攻撃が出来るってんならわかるが、今の所、虚ろな目をしたまま全然動かんしな。

 腕は時折動いているが、意味のある動きではない。


 それなら、今のうちに出来るだけダメージを与えた方がいいな!。

 俺は空中に4つの魔法陣を浮かべる。

 アナから教えて貰った事だ、魔法は必ずしも手や杖の先から出す必要性はない。

 言われてみたらそうだ、地面に魔法陣を出せるなら空中にも出せる。

 これなら複数の魔法を同時に撃つことが出来る。


 問題点は⋯⋯、命中精度が悪いって所か。

 慣れれば問題ないのだろうが、俺はまだこのやり方は要練習中だ。

 アナ曰く[白金(プラチナ)]ランクの情報だとか、それの意味が良く分からなかったが、言われた通りに人前ではなるべく出さない様にしていた。

 だから練習不足なのだ。


 命中精度は悪いが、それは相手が小さい魔物の時の話だ。

 今目の前に居る鉱石喰らいは、10mはあるだろう大きさをしている。

 これなら外さない!いくぞ。


「〈闇の投槍(ダーク・ジャベリン)〉!」


 4つの魔法陣から漆黒の槍が撃ち出され、鉱石喰らいに襲い掛かる。

 一直線に飛んだ槍は、次々鉱石喰らいの体に突き刺さり、暫くその姿を保ったまま粉々に砕け散った。


 その内の1つが運良く、剣が刺さっている足を穿ち地面へと突き刺さった。


 俺の剣が槍の当たった衝撃で宙を舞い、ガキンと音を立て地面に落ちた。


 出来ればアレを拾いたいが……、イケるか?

 鉱石喰らいは、4本の漆黒の槍を受けたにも関わらず、未だに逃げようとした冒険者を襲っていた。


 逃げようとした冒険者も、その攻撃を必死に耐えているが時間の問題だろう。


「ソラ!今のうちに!」

「ああ!」


 俺とシャロは駆け出し、鉱石喰らいの側に落ちている剣を取りに向かった。意外と距離がある、必死に走り剣の元まで辿り着き、拾い上げる。


 よし!お帰り相棒!

 鉱石喰らいは最後の冒険者を相手にしており、俺達に背を向ける形で居た。

 再度火球が、鉱石喰らいに命中する。

 それすらも意に介さず、冒険者を襲い続ける。


 ……どんな思考回路してんだコイツ。攻撃受けても逃げ出した奴を優先的に襲うなんて、生物的にどうなんだ?その間に致命傷負ったら目も当てられんだろうに。


 とはいえチャンスだと云うのは分かる。

 襲われている人には気の毒だが、俺達が生き残る為だ。


 俺は2度切り付けていた足に向かい、再度剣を振り下ろす。

 〈闇の投槍(ダーク・ジャベリン)〉も当たっていたこともあり、その足はちぎれかかっていた為、今度はあっさりと切り落とすことが出来た。


 よし、あと7本。

 俺が足を切り落とした事で、戦士もその意図を組んだのか足を剣で切り付けていた。

 この隙に俺もあと1本位は、落としておきたい。


 流石に、足を切り落とされて黙っている訳もなく。

 2本の尻尾を俺と戦士に向けて、突き刺す様に頭上から振り下ろして来た。


 戦士はそれを飛びのき回避した。

 俺に降り下ろされた尻尾をシャロが盾で反らし地面に突き刺さる。


 あっぶなー。一旦離れた方がいいか?

 俺は一瞬そう思ったがシャロが吠える。


「あたしが守るから今のうちに足斬って!」


「――わかった、頼むぞ!」


「任せて!〈筋力増加(ストレングス)〉!〈シールドバッシュ〉!」


 シャロは盾で尻尾を殴り飛ばした。

 その隙に俺は、剣に魔力を込め足を斬りつける。

 剣を往復する様に、何度か斬りつけると2本目の足を斬り落とす事が出来た。


 これで片側の足が半分無くなったことになる。

 2本目を斬り落とした頃には、抵抗を続けていた冒険者の息の根を止めた鉱石喰らいは、次の標的を俺に決めた様だった。


 ハサミを薙ぎ払うように、振り回し俺とシャロに迫る。

 シャロは直ぐに俺の前に出ると、盾を斜めに構えハサミを上に反らした。

 ハサミを上に反らされ、尚且つ足が2本失った事により、バランスが狂った鉱石喰らいは、その場で地面に伏せる様な形で倒れた。


 その勢いで俺とシャロが、鉱石喰らいの正面に来る形になった。

 チャンスだ!俺は鉱石喰らいのサソリ部分の顔に向けて魔法を放つ。


「〈闇の投槍(ダーク・ジャベリン)〉!」


 先程の様に4つの魔法陣を空中に描き、撃ち出す。

 これだけの至近距離で外すなんて事はない、これで死んでくれ。

 そう願った。


 漆黒の槍が4本同時に撃ち出され、鉱石喰らいの顔に突き刺さる。


[KIIIIIIIIII!!]


 鉱石喰らいは悲鳴を上げながら仰け反る。

 よし!全部当たった!このまま一気に――。


 鉱石喰らいはハサミを無茶苦茶に振り回し始め、シャロがそれを防ぐために前に出る――が、まともに正面から受け止め。


「ぎゃっ」


 短い悲鳴を上げシャロは吹き飛ばされた。


「シャロ!」


 その瞬間、鉱石喰らいは尻尾を薙ぎ払う様に振り回す。咄嗟に剣を盾の前に置く様に構え、刀身へと魔力を流し込む。


 途轍もない衝撃の後、体が宙を舞った。


 シャロとは別方向へと吹き飛ばされ、地面を転がり、建物の壁へと叩き付けられる。


「ガハッ!」


 背中に衝撃が走る、肺の中の空気が全て抜け出すように、呼吸が止まりその場に蹲る。

 目の前がチカチカと煌めく様に歪む。

 足や手がガクガク震える。背中が痛い。頭が揺れる。


 まずいまずいまずいまずい!動け動け!思考とは裏腹に、体が思うように動かない。

 顔だけでも鉱石喰らいへと向けると、シャロの声が聞こえて来た。


「〈挑発(タウント)〉!!」


 シャロが鉱石喰らいのヘイトを自分へと集中させていた。


 動けずにいる俺に、4人組の僧侶が近づき回復魔法を掛けてくれた。


「ヒ、〈回復魔法(ヒーリング)〉!」


 光の粒子が体を包み、徐々に痛みが和らいでいった。

 視界も元に戻り、手足の震えも止まった。


 再度鉱石喰らいを見る。

 シャロに攻撃を仕掛けているが、尻尾の1つが半ば千切れかかっていた。

 剣を前にして防いだ事で、斬れ込みを入れる事が出来たのだろう。


 〈収納魔法(アイテムボックス)〉からマナポーションを取り出し、ヒールポーションと一緒に飲み干す。


「回復ありがとう!

 〈加速(アクセラレーション)〉!」


 僧侶に礼を言い、スキルの効果で体が軽くなるのを感じながら、一気に駆け出した。


「あっ!まだ治ってません!」


 その声を背中越しに聞きながら、シャロの元へと向かう。そんなもの待ってられない。走りながら、呪文を唱える。


「〈盲目(ブラインド)〉!」


 最初は人間部分に当てたが、今度はサソリの顔に向けて撃ち出す、それと同時に普段よりも魔力を込め範囲を増やし、より広範囲の視界を奪った。


 黒く輝く魔法陣から、大量の黒い靄が飛び出し。鉱石喰らいの顔を覆い尽くす。


「シャロ!こっちに来い!」


 シャロを呼び戻す。

 シャロは黒い靄が鉱石喰らいに当たった段階で、俺の方へ向けて走り出していた。


「ソラー!大丈夫?」


 シャロは軽い感じでそう言ったが、本人は体中を擦り傷や青あざを浮かべていた。そしてなにより、左手の指が変な方角へと曲がっていた。


「向こうで僧侶に回復してきてもらえ」


 俺はシャロにそれだけ告げると、すれ違うようにして鉱石喰らいへと向かった。

 無理をさせてしまった。シャロが回復するまでは俺が場を持たせないとな……。


 今まで目の前に居た、敵が居なくなっている事に気づいた鉱石喰らいは、辺りを見回す様な仕草をした。


 次の相手は俺だ。

 そう告げる様に魔法を唱える。


「〈闇の投槍(ダーク・ジャベリン)〉!」


 走りながら手を上に挙げ、投球する様に振り被り漆黒の槍を撃ち出す。

 真っ直ぐ飛んだ漆黒の槍は、人間部分の胸へと刺さり、貫通した。


 人間部分はビクンと震えたが、それで鉱石喰らいの動きが止まるという事は無かった。

 やっぱり本体はサソリの部分か……。

 …………あー!覚悟決めるかぁ!!


 俺は鉱石喰らいへと、向かう速度上げ距離を詰める。

 鉱石喰らいは俺に向けて、ハサミを振り下ろす。

 そのハサミを寸前の所で回避し、懐へと潜り込む。


 どうだ!俺は心の中でドヤる。

 一日しかしてないが、アウラお嬢様の特訓の成果だ。

 拳が飛んで来た時に、条件反射で瞼を閉じるより早く、飛んでくる拳を受け続けた結果がこれだ!要はトラウマだ。

 この程度で目を閉じるなんて事はしない。

 全身全霊で見極めてやる。


 ハサミを躱し、鉱石喰らいの眼前へと躍り出る。


 なんだ、意外とつぶらな瞳をしてるじゃないか。何故かそんな事を思った。正直だからなんだという感じだが……。


 握る剣に魔力を込める。

 刀身が黒く染まり、魔力を帯びる。


 鉱石喰らいは、眼前に現れた俺に噛みつこうと、その牙を向け襲いかかる。

 仰け反る様にしてソレを掻い潜り、鉱石喰らいの顎下から剣を突き立てた。


 刀身が3分の1程刺さり、そこで止まった。


 鉱石喰らいはそれを嫌がったのか、頭をブンブン振り出し引きはがそうとする。

 俺は必死で剣を握り、その場に踏ん張った。


 このままだと離される。

 ありったけの魔力を食らえ!

 俺は今ある魔力を振り縛り、魔法を唱える。


 鉱石喰らいの頭上に、10個の漆黒の魔法陣が浮かび上がる。

 ズキリと頭が痛む、魔力が枯渇しかかっている時に現れるストッパーの痛みだ。

 このチャンスを逃すものか、俺は賭けに出る。

 どちらにしろ、ここで仕留めなければ、ジリ貧で全滅しかない。


 だからこそ今ある、ありったけの魔力を此処に込める!

 両の眼が熱い。

 魔力が枯渇しかかっている影響か?

 涙の様に何かが流れ落ちる。

 魔法陣へと魔力を注ぎ続け、限界が来る直前。


 鉱石喰らいの中の何かが見えた気がした。

 直感でそこを狙うのだと。


 それなら俺は自分の直感を信じる。


「〈闇の投槍(ダーク・ジャベリン)〉!!」


 10個の魔法陣から漆黒の槍が降り注ぐ。


 鉱石喰らいの、その一点を目指して。


 突き刺さる10の槍。

 暫く槍の形を保っていたが、次第にボロボロと自壊していき。最後には、槍が貫いた傷痕だけが残っていた。


 鉱石喰らいは、ビクンと体を震わせ。


 その巨体をズシンと地に沈めた。




 そのまま俺は押しつぶされた。

 いや、正確には辛うじて剣のお陰で、1人分の空間が出来ている。


 圧迫されてか、視界が歪む、頭の痛みがより一層増していく。


 ――頭に響く言葉を聞きながら、俺の意識は暗闇に沈んで行った。




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最高
毎回楽しく読まさせてもらっています。 このような「サービス」ていってよいのかわかりませんがありがたいです。
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