81.鉱石喰らい③
出来ればアレを拾いたいが……、イケるか?
鉱石喰らいは、4本の漆黒の槍を受けたにも関わらず、未だに逃げようとした冒険者を襲っていた。
逃げようとした冒険者も、その攻撃を必死に耐えているが時間の問題だろう。
「ソラ!今のうちに!」
「ああ!」
俺とシャロは駆け出し、鉱石喰らいの側に落ちている剣を取りに向かった。意外と距離がある、必死に走り剣の元まで辿り着き、拾い上げる。
よし!お帰り相棒!
鉱石喰らいは最後の冒険者を相手にしており、俺達に背を向ける形で居た。
再度火球が、鉱石喰らいに命中する。
それすらも意に介さず、冒険者を襲い続ける。
……どんな思考回路してんだコイツ。攻撃受けても逃げ出した奴を優先的に襲うなんて、生物的にどうなんだ?その間に致命傷負ったら目も当てられんだろうに。
とはいえチャンスだと云うのは分かる。
襲われている人には気の毒だが、俺達が生き残る為だ。
俺は2度切り付けていた足に向かい、再度剣を振り下ろす。
〈闇の投槍〉も当たっていたこともあり、その足はちぎれかかっていた為、今度はあっさりと切り落とすことが出来た。
よし、あと7本。
俺が足を切り落とした事で、戦士もその意図を組んだのか足を剣で切り付けていた。
この隙に俺もあと1本位は、落としておきたい。
流石に、足を切り落とされて黙っている訳もなく。
2本の尻尾を俺と戦士に向けて、突き刺す様に頭上から振り下ろして来た。
戦士はそれを飛びのき回避した。
俺に降り下ろされた尻尾をシャロが盾で反らし地面に突き刺さる。
あっぶなー。一旦離れた方がいいか?
俺は一瞬そう思ったがシャロが吠える。
「あたしが守るから今のうちに足斬って!」
「――わかった、頼むぞ!」
「任せて!〈筋力増加〉!〈シールドバッシュ〉!」
シャロは盾で尻尾を殴り飛ばした。
その隙に俺は、剣に魔力を込め足を斬りつける。
剣を往復する様に、何度か斬りつけると2本目の足を斬り落とす事が出来た。
これで片側の足が半分無くなったことになる。
2本目を斬り落とした頃には、抵抗を続けていた冒険者の息の根を止めた鉱石喰らいは、次の標的を俺に決めた様だった。
ハサミを薙ぎ払うように、振り回し俺とシャロに迫る。
シャロは直ぐに俺の前に出ると、盾を斜めに構えハサミを上に反らした。
ハサミを上に反らされ、尚且つ足が2本失った事により、バランスが狂った鉱石喰らいは、その場で地面に伏せる様な形で倒れた。
その勢いで俺とシャロが、鉱石喰らいの正面に来る形になった。
チャンスだ!俺は鉱石喰らいのサソリ部分の顔に向けて魔法を放つ。
「〈闇の投槍〉!」
先程の様に4つの魔法陣を空中に描き、撃ち出す。
これだけの至近距離で外すなんて事はない、これで死んでくれ。
そう願った。
漆黒の槍が4本同時に撃ち出され、鉱石喰らいの顔に突き刺さる。
[KIIIIIIIIII!!]
鉱石喰らいは悲鳴を上げながら仰け反る。
よし!全部当たった!このまま一気に――。
鉱石喰らいはハサミを無茶苦茶に振り回し始め、シャロがそれを防ぐために前に出る――が、まともに正面から受け止め。
「ぎゃっ」
短い悲鳴を上げシャロは吹き飛ばされた。
「シャロ!」
その瞬間、鉱石喰らいは尻尾を薙ぎ払う様に振り回す。咄嗟に剣を盾の前に置く様に構え、刀身へと魔力を流し込む。
途轍もない衝撃の後、体が宙を舞った。
シャロとは別方向へと吹き飛ばされ、地面を転がり、建物の壁へと叩き付けられる。
「ガハッ!」
背中に衝撃が走る、肺の中の空気が全て抜け出すように、呼吸が止まりその場に蹲る。
目の前がチカチカと煌めく様に歪む。
足や手がガクガク震える。背中が痛い。頭が揺れる。
まずいまずいまずいまずい!動け動け!思考とは裏腹に、体が思うように動かない。
顔だけでも鉱石喰らいへと向けると、シャロの声が聞こえて来た。
「〈挑発〉!!」
シャロが鉱石喰らいのヘイトを自分へと集中させていた。
動けずにいる俺に、4人組の僧侶が近づき回復魔法を掛けてくれた。
「ヒ、〈回復魔法〉!」
光の粒子が体を包み、徐々に痛みが和らいでいった。
視界も元に戻り、手足の震えも止まった。
再度鉱石喰らいを見る。
シャロに攻撃を仕掛けているが、尻尾の1つが半ば千切れかかっていた。
剣を前にして防いだ事で、斬れ込みを入れる事が出来たのだろう。
〈収納魔法〉からマナポーションを取り出し、ヒールポーションと一緒に飲み干す。
「回復ありがとう!
〈加速〉!」
僧侶に礼を言い、スキルの効果で体が軽くなるのを感じながら、一気に駆け出した。
「あっ!まだ治ってません!」
その声を背中越しに聞きながら、シャロの元へと向かう。そんなもの待ってられない。走りながら、呪文を唱える。
「〈盲目〉!」
最初は人間部分に当てたが、今度はサソリの顔に向けて撃ち出す、それと同時に普段よりも魔力を込め範囲を増やし、より広範囲の視界を奪った。
黒く輝く魔法陣から、大量の黒い靄が飛び出し。鉱石喰らいの顔を覆い尽くす。
「シャロ!こっちに来い!」
シャロを呼び戻す。
シャロは黒い靄が鉱石喰らいに当たった段階で、俺の方へ向けて走り出していた。
「ソラー!大丈夫?」
シャロは軽い感じでそう言ったが、本人は体中を擦り傷や青あざを浮かべていた。そしてなにより、左手の指が変な方角へと曲がっていた。
「向こうで僧侶に回復してきてもらえ」
俺はシャロにそれだけ告げると、すれ違うようにして鉱石喰らいへと向かった。
無理をさせてしまった。シャロが回復するまでは俺が場を持たせないとな……。
今まで目の前に居た、敵が居なくなっている事に気づいた鉱石喰らいは、辺りを見回す様な仕草をした。
次の相手は俺だ。
そう告げる様に魔法を唱える。
「〈闇の投槍〉!」
走りながら手を上に挙げ、投球する様に振り被り漆黒の槍を撃ち出す。
真っ直ぐ飛んだ漆黒の槍は、人間部分の胸へと刺さり、貫通した。
人間部分はビクンと震えたが、それで鉱石喰らいの動きが止まるという事は無かった。
やっぱり本体はサソリの部分か……。
…………あー!覚悟決めるかぁ!!
俺は鉱石喰らいへと、向かう速度上げ距離を詰める。
鉱石喰らいは俺に向けて、ハサミを振り下ろす。
そのハサミを寸前の所で回避し、懐へと潜り込む。
どうだ!俺は心の中でドヤる。
一日しかしてないが、アウラお嬢様の特訓の成果だ。
拳が飛んで来た時に、条件反射で瞼を閉じるより早く、飛んでくる拳を受け続けた結果がこれだ!要はトラウマだ。
この程度で目を閉じるなんて事はしない。
全身全霊で見極めてやる。
ハサミを躱し、鉱石喰らいの眼前へと躍り出る。
なんだ、意外とつぶらな瞳をしてるじゃないか。何故かそんな事を思った。正直だからなんだという感じだが……。
握る剣に魔力を込める。
刀身が黒く染まり、魔力を帯びる。
鉱石喰らいは、眼前に現れた俺に噛みつこうと、その牙を向け襲いかかる。
仰け反る様にしてソレを掻い潜り、鉱石喰らいの顎下から剣を突き立てた。
刀身が3分の1程刺さり、そこで止まった。
鉱石喰らいはそれを嫌がったのか、頭をブンブン振り出し引きはがそうとする。
俺は必死で剣を握り、その場に踏ん張った。
このままだと離される。
ありったけの魔力を食らえ!
俺は今ある魔力を振り縛り、魔法を唱える。
鉱石喰らいの頭上に、10個の漆黒の魔法陣が浮かび上がる。
ズキリと頭が痛む、魔力が枯渇しかかっている時に現れるストッパーの痛みだ。
このチャンスを逃すものか、俺は賭けに出る。
どちらにしろ、ここで仕留めなければ、ジリ貧で全滅しかない。
だからこそ今ある、ありったけの魔力を此処に込める!
両の眼が熱い。
魔力が枯渇しかかっている影響か?
涙の様に何かが流れ落ちる。
魔法陣へと魔力を注ぎ続け、限界が来る直前。
鉱石喰らいの中の何かが見えた気がした。
直感でそこを狙うのだと。
それなら俺は自分の直感を信じる。
「〈闇の投槍〉!!」
10個の魔法陣から漆黒の槍が降り注ぐ。
鉱石喰らいの、その一点を目指して。
突き刺さる10の槍。
暫く槍の形を保っていたが、次第にボロボロと自壊していき。最後には、槍が貫いた傷痕だけが残っていた。
鉱石喰らいは、ビクンと体を震わせ。
その巨体をズシンと地に沈めた。
そのまま俺は押しつぶされた。
いや、正確には辛うじて剣のお陰で、1人分の空間が出来ている。
圧迫されてか、視界が歪む、頭の痛みがより一層増していく。
――頭に響く言葉を聞きながら、俺の意識は暗闇に沈んで行った。
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レベルアップしました。
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