80.鉱石喰らい②
全員が、武器を構え身構える。
鉱石喰らいは、ジッと此方を見ていた。
鉱石喰らいについている、人間部分の頭はわずかに横に傾き、虚ろな目をしていた。
俺達を見ているのか、それとも別の何かを見ているのか。その表情から読み取る事は出来なかった。
コイツ……、人間部分に意思はあるのか?何処見てるかわからんし。
そうなると、やはりサソリ部分が本体か?正直、そこからは何か見られている様な威圧感を感じる。
……どうしたものか。
正直な話、どう攻めればいいかわからなった。
さっきはシャロを助ける為に思い切って突っ込んだが、今は俺を入れて6人。
普段シャロとしか連携した事がないから、こういう時どうしたらいいのかわからない。
……いっそ別々に戦うか。
うん、その方がいいかもな。
それぞれのパーティの連携ってのもあるだろうし。
よし、それでいこう。
俺は自分の考えを5人に伝えた。
「アイツを挟撃するぞ、俺はシャロと、そっちは4人で反対方向から攻めてくれ」
「なるほど、わかった。
僕が前に出る、狩人は牽制を、魔法使いは隙を見て魔法を。僧侶は僕にバフを頼む」
「了解」
「合図したらちゃんと引いてよね」
「わ、わかりました。」
「すごい、それっぽい」
「俺等はああいうことしないからな……」
……よし!早速行きますか!
俺達は二手に分かれ、鉱石喰らいを挟み込む形にした。
鉱石喰らいはどちらを襲うべきか、決めかねている様だった。
最初はどの手で行くか……。
シャロの〈挑発〉は一旦封印するしかないな、シャロでも攻撃を受けるのがキツイなら、無理にタゲ取りをする必要はない。
俺はシャロに、簡単に説明し指示した。
「おっけー。じゃああたし何したらいいの?」
「俺を守ってくれ」
「はーい」
向こうもそろそろ始めるっぽいな、こっちもそれに合わせて動くか。
魔法使いが赤い魔法陣を描き、火球を作っていた。
「〈闇の投槍〉!」
俺は手を上に挙げ、黒い魔法陣を描き出し、漆黒の槍を作り出す。
お互いの顔を見て頷きあう。
火球と漆黒の槍が、同時に放たれる。
火球はサソリの人間部分に当たり爆発を起こし、漆黒の槍はサソリの胴体に突き刺さった。
火球で発生した煙を振り払うように、鉱石喰らい俺達に向かって咆哮を上げる。
[KIAAAAAAAAAAAAAAAAA!]
おっと、こっちに向かって来るか。
火球よりも俺の槍の方が痛かったって事だな。
ならやる事は一つだ。
〈闇の投槍〉をぶち込みまくる!シンプルだがそれしかなさそうだ。
それに危険だが。鉱石喰らいの足を落として、機動力を落とした方がいいな。
それにはまず、俺の剣を取り返すしかないか。
シャロから斧を借りてはいるが、勝手が違うからうまく使えるだろうか……。
剣士が走りだし、鉱石喰らいとの距離を詰め出した。
――よし、行くか。
「シャロ!ついて来い!守りは頼めるな?」
「まっかせてー!あたしの後ろに居てねー!
〈筋力増加〉」
「おう!〈加速〉!」
俺はシャロの後ろに回り、呪文を唱え、その身を隠す。
鉱石喰らいへとシャロが駆け出し、1人分の距離を開け、その後について駆け出す。
鉱石喰らいは、向かって来る俺達を敵と見做したのか、ハサミの付いた腕を広げ、威嚇の様な体勢を取った。
良いのかね~、後ろから別の奴が向かって来てるぞ?鉱石喰らいは剣士に背を向ける形になったが、それを気にする様子もない。取るに足らぬ存在だとでも言いたいのだろうか。
そして、俺達の戦いを観て、イケると思ったのか他の冒険者達も鉱石喰らいに向かって攻撃を仕掛ける。
鉱石喰らいが、その身を地に伏せ。
「――っ伏せて!!」
シャロが叫ぶ。
鉱石喰らいは、その場でグルりと一周する様に、長く靱やかな2本の尻尾を振り回す。
シャロの声と共に伏せた俺達の上を、風を切る凄まじい音と共に、尻尾が通過した。
反応の遅れた冒険者達は、吹き飛ばされ。全身、或いは頭、体の一部分を壁に叩き付け、血の花を咲かせた。
冷汗がどっと噴き出す。
心臓がバクバクと音を立て激しく動く。
シャロの指示が無ければ死んでいた。
コイツの動きは緩慢だとしても、その一撃一撃が即死級の持ち主。それを改めて知る事となった。
……考えが甘かったか。いや、良く見ると俺の剣が刺さった足の動きが悪い。
先ずはあそこを攻めて足を全て切り落とす。
そうすれば、今のような攻撃は出来なくなるだろう。
すると鉱石喰らいの人間部分の頭に矢が当たる。
狩人が放った矢は、当たっただけで刺さりはしなかった。
あそこも硬いのか……。嫌んなるね。
「ソラ、行くよ」
「――ああ、行くぞシャロ」
何時までもここで足踏み何てしてるわけにはいかない。そう思って、動き出そうとした時。
辛うじて、先程の攻撃を避けた冒険者の数名が、その場から逃げ出した。
鉱石喰らいは緩慢な動きを辞め、逃げ出す冒険者に向かって突進していった。
――ああ、なるほど。この場から逃がす気はないって訳か。
それが鉱石喰らいの習性なのか分からないが、俺達がこの場から逃げられないという事は分かった。
あー、本当に嫌になる。
これじゃ助けも呼べないな。
「シャロ、一旦止まれ。防御任せるぞ」
「なにするの?」
「――魔法をありったけ叩きこむ!
〈闇の投槍〉!」
漆黒の槍を作り出し、冒険者を襲っている最中の鉱石喰らいの背中に向けて、撃ち出す。
真っ直ぐ飛んだ漆黒の槍は、鉱石喰らいの尻尾の内の1つに突き刺さった。
それでも鉱石喰らいは、逃げる冒険者を襲うのを辞めなかった。
「んー、あれって逃げる奴から殺してる感じ?」
「恐らくそうだろうな、理由は分からんが、何か目的でもあるのかもな?」
何か理由があるかもしれないが、鉱石喰らいに付いている人間部分が喋らないので、何も分からない。
咆哮も下のサソリ部分から発してるみたいだし。
もしかして……ローブの奴が作ったのか?だとしたら、随分とお粗末なキメラだな。
人間部分が魔法を使うとか、遠距離攻撃が出来るってんならわかるが、今の所、虚ろな目をしたまま全然動かんしな。
腕は時折動いているが、意味のある動きではない。
それなら、今のうちに出来るだけダメージを与えた方がいいな!。
俺は空中に4つの魔法陣を浮かべる。
アナから教えて貰った事だ、魔法は必ずしも手や杖の先から出す必要性はない。
言われてみたらそうだ、地面に魔法陣を出せるなら空中にも出せる。
これなら複数の魔法を同時に撃つことが出来る。
問題点は⋯⋯、命中精度が悪いって所か。
慣れれば問題ないのだろうが、俺はまだこのやり方は要練習中だ。
アナ曰く[白金]ランクの情報だとか、それの意味が良く分からなかったが、言われた通りに人前ではなるべく出さない様にしていた。
だから練習不足なのだ。
命中精度は悪いが、それは相手が小さい魔物の時の話だ。
今目の前に居る鉱石喰らいは、10mはあるだろう大きさをしている。
これなら外さない!いくぞ。
「〈闇の投槍〉!」
4つの魔法陣から漆黒の槍が撃ち出され、鉱石喰らいに襲い掛かる。
一直線に飛んだ槍は、次々鉱石喰らいの体に突き刺さり、暫くその姿を保ったまま粉々に砕け散った。
その内の1つが運良く、剣が刺さっている足を穿ち地面へと突き刺さった。
俺の剣が槍の当たった衝撃で宙を舞い、ガキンと音を立て地面に落ちた。




