79.鉱石喰らい①
巨大なハサミがシャロを襲う。
振り下ろされるハサミを、シャロは盾で受け流す。
受け流されたハサミが轟音を立てながら、石畳の地面を抉る。
「ソラー!これ正面から受けれないやつー!」
シャロは後ろに飛びのき距離をとる。
鉱石喰らいのハサミの威力は、シャロの許容量を超えた一撃の様だ。
「〈盲目〉!」
手を鉱石喰らいに向け。
黒く輝く魔法陣より、相手の視界を一時的に奪う黒い靄を打ち出す。黒い靄は鉱石喰らいの人間部分の、顔に張り付きその視界を奪った。
鉱石喰らいは再度ハサミを振り上げ、シャロに向かって振り下ろす。
距離をとったシャロに向けて、正確に振り下ろされたハサミを、シャロは横に飛び回避する。振り下ろされ地面に突き刺さるハサミを見て、俺は気づく。
そういえばサソリの部分の眼も見えるのか?だとしたら不味いな。
未だに周りは腰を抜かしている者や、どうしたらいいのか分からず武器だけ構えている奴らばかりだ。
「……ハァ、突っ込むか。〈加速〉!」
そう独り言を呟き、呪文を唱え、俺は鉱石喰らいに向け駆け出した。
走りながら呪文を唱え、鉱石喰らいに牽制を仕掛ける。
「〈闇の棘〉」
鉱石喰らいの真下に黒く輝く魔法陣が描き出され、黒く鋭い棘が飛び出す。黒い棘は勢いよく伸び、鉱石喰らいの腹に当たった。
当たった棘はそれ以上伸びず、鉱石喰らいの体重に負けた様にして、粉々に砕け散ってしまった。
……ッチ。期待はしていなかったが、〈闇の棘〉じゃ傷が付かんか。
直ぐに距離が縮まるが、鉱石喰らいは俺の魔法に気づいていないのか、シャロにハサミを振り下ろし続けていた。
その動きは単調で、シャロは危なげなく回避していた。
俺は握る剣に魔力を込める。
刀身が黒く染まり、闇の属性を纏った。
鉱石喰らいの側面から近づいていたので、そのまま足―と云うか腕―に向けて剣を薙ぎ払った。
見た目は普通の褐色の腕だが、思ったよりも硬い。
切り落とす勢いで力を込めたが、少ししか刃が通らなかった。
それでも何度か切れば切り落とせる、そういう強度だ。
「なら何度でも切ってやるよ!おらああ!」
振り抜いた剣を振り被り、力を込めて振り下ろす。
剣が半ばまで入り込み、そこで動きを止めた。
……あ、ヤバ。剣が抜けない。
「あわわわわ!」
剣が抜けずに焦る俺に、鉱石喰らいはコチラの方が脅威だと判断した様で、体を回し、ハサミを水平に薙ぎ払った。
「うおおおお!」
回避いいい!
直ぐに剣から手を放し、俺はそれを仰け反る形で回避して、その場から飛びのいた。
ゴロゴロ転がり距離を取り、ガバっと起き鉱石喰らいを視界に入れる。
あっぶなー!死ぬところだった……。
まさか剣が抜けなくなるとは思わなかった、……さてどうしようか。
剣は未だに鉱石喰らいの足の1本に、刺さったままだ。
どうにかして抜かないといけない。
もう一度近づいて引っこ抜くというのも難しそうだ。
鉱石喰らいの動きは緩慢で、その場からあまり動こうとしない。
先程迄シャロを攻撃していたが、今は見向きもしていない。
……なんだコイツ?少しの違和感を感じる。
魔物は基本的に好戦的だ、コイツからはそれがあまり感じられない。
⋯⋯そういえば。俺は当たりを見回す。
「……いない」
ローブ姿の人物がいつの間にか居なくなっていた。
考えられる最悪の状況は、この鉱石喰らいと同じ魔物を他の場所でも召喚される事だろう。
そんな事になったら最悪だが、今はこの状況を切り抜けるしかない。
その時、周りで動きを止めていた冒険者の2人が我に返り、その場から逃げ出した。
「ヒエエェエ、ば、化け物!」
「逃げろ!早く!」
その声を聴いたのか、それとも別の理由か。
鉱石喰らいは、先ほどまでの緩慢な動きが消え、その2人を追うべく動き出した。
足の代わりに生えている腕を巧みに使い、2人との距離を詰める。
……間に合わんか。すまん。
「シャロ!今のうちにこっち来い!」
俺はそう叫び、2人を助けに行こうとするシャロを呼び戻す。
シャロは鉱石喰らいを警戒しながら、俺の元に駆け寄る。
「ソラー、剣刺さったままだけどいいの?」
シャロは呼び戻された理由を聞かず、俺の剣の心配をした。
「よくないけど、取れないんだから仕方ないだろ……」
「それじゃこれ使って」
そう言って自分の斧を渡して来た。
「それじゃお前が手ぶらになるだろ」
「うーん、あれ攻撃するの無理。
防御に徹した方がましかなーって」
なるほど、シャロは魔法が得意では無いから、攻撃手段は斧か盾のスキルしかないもんな。剣を取り戻すまで借りておこう。
「わかった、剣が戻るまで借りとくわ」
シャロは満面の笑みで親指をグッと立ててサムズアップした。……ホント、こういう状況で恐怖心を感じないシャロが居ると、冷静になれて助かる。
そして……。
鉱石喰らいの向かった方角から悲鳴が聞こえ、静まり返った。
その方角を見ると、体をハサミで真っ二つにされた死体が1つと、毒針に貫かれもがき苦しむ冒険者が1人。
……俺は鉱石喰らいがその2人に向かったのを確認した時、見殺しにする選択肢を取った。その選択肢に後悔はない、知らない人間が死ぬのと、シャロが死ぬのでは差があり過ぎる。
俺は知らない人間が死んで、シャロが生き残るならそっちを取る。
シャロは悪くない、俺がそう判断して指示を出したのだから……。
鉱石喰らいは、尻尾の先に刺さった人間を、まるで邪魔なゴミ払うように尻尾を振り、ゴチャッと云う音と共に地面に叩き付けた。
そして鉱石喰らいは、此方に向き直り。
人間部分の口から咆哮を上げた。
[KYAAAAAAAAAA!]
第2ラウンド開始ってか、俺は武器を、シャロは盾を構え対峙する。
距離はかなりあるが、それでもあの巨体ならすぐにこの距離を詰められるだろう。
そんな俺達に、4人の人物が近寄って来る。
「すまない。僕らも一緒に戦う」
「ああ、ブルっちまって悪かった」
「魔法での攻撃は任せて!」
「が、がんばる……」
「お?いいねー。一緒にがんばろ~」
「……だな!やるか!」
「「おう!」」




